アヒルの子~元王女は世界で一番憎い人と結婚します~

有楽 森

文字の大きさ
上 下
64 / 130
第一章~王女の秘密~

51~ジージール4~

しおりを挟む

 ジージールの死角で、じっと気配を殺していた輩がいた。

 ジージールの張った結界を破り、一番始めにアイナに襲いかかった、反王政過激派の者たちだ。 

 ジージールと覆面連中との戦闘を観察していた一人が懐から銃を取り出すと、仲間に合図を送った。

 物理攻撃を示すサインを受け取った仲間たちは、各々の武器や、砕けた石柱の欠片やらを握り締め頷いた。

 ジージールはというと、覆面たちを拘束している所だった。石柱の破片を使い、覆面たちを一まとめにし首だけを出して、石の中に閉じ込めようとしている。

 ジージールは作業をしながら、破片が足りない事に気が付いた。

 しかし、早くアイナを追いかけたいと気が急いていたのもある。ジージールが危険性に気が付く前に、銃口か火を吹いた。


ーーパァァァン!!!ーー


 夜の冷たい空気をつんざく銃声と、火薬の臭いが辺りに立ち込め、ジージールは腹を押さえながら地に落ちた。


 しまった、魔法が消えた。


 魔法とは魔力の流れを制御できて初めて扱えるのだ。

 腹を銃で打たれたジージールは気を乱され、必然的に魔法が、飛んでいた魔法と魔力を吸収する魔法が解除されてしまったのだ。


 ジージールを擁護するのなら、彼は魔法師としての腕は決して低くない。

 通常の魔法に加え、一族に伝わる精霊もある。むしろ、総合的に見て、国内でも指折りに入るだろう。だが、そこに傲りがなかったのかと問われれば、否めない部分もある。


 精霊と同化している状態のジージールには、自分以外の魔法が効きづらい。

 何もしなくても、魔法を使いジージールを傷つけるのは至難の技だし、それはたとえ、ジージールより巧みに魔法を扱う者であっても困難を極めるだろう。


 ジージールを容易く傷つけるには、それこそ神の力か、刃物や槌などで直接攻撃するしかなかった。なのでジージールは、常に服の下に防護用のベストとパンツを着込み、大事な所を守ってきた。

 襲われても悠然と飛んでいるジージールは、普通の者たちには奇妙に映っただろう。覆面たちとの戦闘は、魔法によほどの自信があるのだと、思わせるには十分だったのだ。


 だから、敵も迷わず、最近開発されたばかりの最新式の銃を取り出した。まだ、この天裂く縁の母神大陸には流通していない代物だ。

 昔ながらの被弾して初めて発動する魔法が仕込まれた弾薬と、 これまでにない威力で発射できる銃は、簡単にジージールの防護用ベストを貫通し肉を抉った。

 ただ、精霊の加護のおかげでか、動きを縛る魔法は発動しなかったが、ジージールも無駄に動かなかった為に、彼らがそれを知る由はない。

 おかげでジージールは命拾いしたのだが、依然として危機的状況に置かれている事にはかわりなかった。


 二発、三発と弾丸が打ち込まれる


「あ゛あ゛ぁ ぁ ぁっ」


 ジージールは悲鳴を上げて、地面の上を転がった。
 ジージールの黒髪が自身の血と砂利にまみれる。


「この男がカラス羽であれば、魔法具を身に付けているはずだ」


「焦るな、まずは確実に息の根を止めよう」


「こんなのがいたのではおちおち革命もしてられない。後の世の為にも消えてもらおう」


 建物の影から黒装束の者たちが幾人か現れた。

 銃を構えている者が一人、それ以外は石柱の破片や短刀など、バラバラの武器を構えている。

 ジージールは這いながら、彼らから離れようとした。それ見た彼らは、魔法に抗い多少動けた所で逃れるのは土台無理な話だ、ジージールを指を指し嘲笑した。


 ふん、笑ってろ。決して逃げる為じゃない。ジージールは再び、異様な響きの言葉を口にした。


『kakemakumo kasikoki omikamiwo ogamimaturite kasimi mausu warenitamaisi saino kareno moteru kakerawo haretu sasetamaitaku kasikomi mausu




 長い言葉の羅列を理解できる者は一人もいなかったが、何かを仕掛けてくるのだろうと、魔法を無効化するだけの術式を紡ぎ、警戒するが結局は無駄に終わった。しかしそれはジージールのその力が彼らの魔法より遥かに強力で、別次元の力だっただけの事だ。


 突然、敵の持つ石柱の破片が破裂した。さらに細かに尖った破片が、彼らの目や皮膚に食い込み、血を流させた。

 しかしこの破片、四方八方に飛び散った為に、ジージールにも刺さっていた。ただ身を低くしていた為に、目などの柔らかい部分は守られた。

 ジージールはこの期を逃さなかった。

 腰に指していた短剣を抜くと、次々と敵の喉を切っていったのだ。

 流れるように縄を引き出すと一人だけ、一瞬にして縛り上げた。引き倒し、声を上げた所に、口に靴の先ををこじ入れる。




 血を流しすぎた。カクを呼び出し、アイナの警護に向かわせた方がよいだろう。 


 ジージールは深いため息を吐いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...