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第一章~王女の秘密~

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 私の立てた作戦はこうだ。

 まず、アートを王室を取り巻く環境が悪化したことを理由に解雇。その日の内に城から追い出し、ネイノーシュには家に帰したと伝える。

 次に、ネイノーシュの付き人にはカクをあてがう。

 カクはジージールと違い顔も腕前も私の護衛として周囲に知られている。
 ネイノーシュの守りを厚くしたと思わせるのだ。

 これには二つの狙いがある。

 訓練場での事件の狙いがネイノーシュであると、私たちが考えていると思わせ、それにより、私の護衛が手薄になっていると思わせる事。


 カクがいないと確信するだけで、敵はかなり、狙いやすくなるだろう。
 仮に、本当に狙いがネイノーシュだったとしても、カクがいれば安心だ。


 初め私は、本当にアートを家に帰すつもりだった。
 けれど、気が変わった。
 あれだけ大見得を切って、彼を守れなかった時、ネイノーシュがどう反応するのか見たくなった。


 姿を変え、潜むアートを見つけられるとは思えないけど。せいぜい足掻くといいわ。


 そうと決まれば、善は急げだ。


 私がアートに帰宅命令を出したのは、その日の夜だった。



 なるだけ早くと急いた結果、準備に取る時間がなくなったのはいたしかたない。


 今、手の内にあるものをフルで活用するしかない。皆にそう言い聞かせた。

 けれど、これは言い訳に過ぎず、本当は、私から最大の障害を取り除く為の策なのだ。


「では、マンナ、ネイノーシュのところへいって、これを渡してちょうだい。その後はアルテムを宿まで連れてくるの」


「はい。かしこまりました」


「お願いね」


 私はマンナにお父様からの書状を渡す。
 ネイノーシュへの説明とアートをマンナに任せ、 その間、私自身はジージールと共に、城下の宿へ向う。

 その間、私の身代わりは侍女に任せる。彼女の本当の役目がこれだ。
 昔、私がお父様に作戦に必要だと言い、用意してもらった、私の目的の為に必要なコマだ。

 マンナと私の演技指導により、ほぼ完璧に私になりきることが出来る。

 顔も身長も魔法で作り替えるので、彼女の体に少なからず負担をかけるし、私の代わりに狙われる可能性もある。
 彼女はそれを承知の上で、役目を引き受けてくれた。


「では、よろしく頼むわね」


 私は、私に変身した侍女の手をしっかり握った。


「はい、こちらはおまかせ下さい。姫様もお気をつけて……」


 私の顔が目の前にあるなんて、不思議な感じね。


 その後、私とジージールは、衣装タンスの奥にある、いつもの抜け道から城外へ出たのだった。






 城下町へ降りた私とジージールは、侍女が用意した古着に身を包み、大きな鞄を持っている。地方から王都へ着いたばかりという設定だ。

 幼い見た目の私とジージールとでは、恋人というのは違和感が大きく、私はジージールと手を繋ぎ兄妹を装う。

 日も落ち、通りをあるく人通りは少なくなく、帰宅を急ぐ人が行き交い、そんな彼らを呼び込もうと、通りの店も躍起になっていた。


「……凄い、熱気ね」


 ネオンが輝く町並みは、思っていたよりもごちゃごちゃしていて、遠く、お城から眺めていた時のような、綺麗さはない。

 私が物珍しそうに、キョロキョロしているのが面白かったのか、ジージールがニヤリと笑った。


「初めてだもんな、絶対に手を離すなよ」


 ジージールは握る手に力を込め、歩みがゆっくりとなる私を引き寄せた。私は頼もしく思い


「……兄上は来たことあるの?」


「ん゛ん゛ん゛っ ゲホッ」


 いきなり、ジージールがむせた。すれ違う男の人が、興味なさげに、視線だけをチラリとやりながら通りすぎていく。


「ゴホゴホッゲホッ…………あ、兄上って……」


「なによ。兄妹なんでしょ?だから、昔みたいに……」


 私がまだ、幼い頃はジージールは私の遊び相手として、ずっと一緒だった。
 歳上のジージールは私にとっては友人というより兄で、私はジージールの事を兄上と呼んでいた。


 確かに私とジージールは本当の兄妹ではないけど、そんな反応することないじゃない。


 唇を尖らせる私の、膨らんだ頬を、ジージール腹人差し指で突っついた。


「普通はお兄ちゃんっていうの」


「そうなの?おにい…ちゃん?」


 ちゃん?兄に対して、ちゃんづけするの? 私もしかして揶揄われてる?

 だって、ほら、ジージール楽しそうに笑ってるし。


「そうそう。じゃなかったら……あいうえって呼んでくれても良いからな」


「あいうえ…………お?」


 意味が分かんない。首を捻って兄とのつながりを考えていると、ジージールが堪えきれず笑い出した。


「揶揄ったのね!?もう!」


 私は、子供みたく、ジージールをぽかぽか叩いた。


「ゴメンゴメン、悪かったって」


 ジージールは謝っているのに、目に涙を浮かべ笑っている。


 もう……仕方ないな。


 私はジージールの服袖をチョイチョイって引っ張った。


「ねえ、お兄ちゃん?」


「なんだ?」


 ジージールは笑い足りないのか腹を抱えながら、しゃがむ。私ジージールの耳に片手を当て、小さい声で囁いた。


「あのね、全部終わったら、また、昔みたいに”兄上”って呼んでも良い?」


 ジージールが息を呑んだ。
 照れ隠しなのか、私の頭をグシャグシャになるまで撫でまわす。顔をくしゃくしゃにして笑うのが、実に可愛らしい。

 ジージールが本当に喜んでいるのが分かるから、私はゴメンねと、心の中で謝った。
 

 
 
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