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第一章~王女の秘密~
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許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない 許せない
ネイノーシュとのお茶会の後、私は直ぐに訓練室に籠った。
いくら体を動かしても発散されない怒りにまかせて、私は半ば八つ当たり気味に拳を振るっていた。
私はカクが持つ、厚めの木の板目掛け、拳を思いっきり突き出した。バキッと音を立て、一瞬で板が真っ二つに割れる。
拳の骨張った所がジンジン痛んだけれど、そんなのはどうでも良かった。
カクが黙って、板を新しい物に代える。これで十枚目だ。
「ふ・ざ・け・る・な!」
ーーバキッ!ーー
今度は蹴りで
「誰が弟っ……だって!?」
ーーバキッ!ーー
次はかかと落としで
「じゃあ、私は!」
ーーバキッ!ーー
「誰なのよ!?」
最後は回し蹴りで、板を割る。
「はあ……はあ……はあ……」
興奮から息を切らす。私は構えを解き、カクが割れた板を山の上に頬り投げた。
「今ので最後です」
見れば、板を積んでいた場所は空になっている。
「申し訳ございません。もっと用意しておくべきでした」
「いいえ、私の方こそ、ごめんなさい。つい、イライラしてしまって……」
怒りにまかせて拳を振るうのに、何も聞かず付き合ってくれるカクは、私の頼れる護衛であり、戦闘訓練における師であり、子供の頃からずっと一緒にいる、馴染み深い人物でもある。
「構いません。いくらでもお付き合いしいたします」
魔人であるカクの髪は夕焼けより赤く、剣を振るう戦士でありながら、魔術の知識はマンナにだって負けない。
もうすでに四十近く。衰えたと言っているけれど、私はまだ一度も勝てたことがない。
身長が低いせい……ってカクはいうけれど、たぶん違う。
「ううん、もう落ち着いたわ。ありがとう。一度お部屋に戻りましょう?今後の事を話すわ」
「承知いたしました」
カクを残し、私はいつものようにシャワー室へ向かう。
服を脱ごうとして、思い出し小さく声をあげた。大事な事を思い出したのだ。
私はシャワー室のドアから顔だけを出した。
「あの、カク?さっき私が言ってたことは……」
板を割りながらさんざん愚痴っていた内容は、とても、マンナはもちろん、お父様とお母様にも言えない。
「もちろん、誰にも言いません」
「あと、着替えも忘れたの」
カクが眉間に皺を寄せる。
「連絡しておきます」
カクが侍女たちと顔を会わせなくなってから、随分と経った。もう、ほとんどの侍女がカクの姿を知らない。
きっとマンナに連絡するわね。ではちょうど良いわ。ジージールにも来てもらいましょうか。
「ジージールにも来るよう伝えてくれる?」
シャワーの音に隠れるくらいの声で、「はい」と返事が帰ってきた。
昼食は一人で、部屋で取る。唐突に伝えられ、侍女たちは大慌てで、準備を始めた。
ネイノーシュと一緒の昼食は、すっかり定着しており、 彼女らもいつも通りと思い準備をしていたのだ。
私としては部屋の書斎机でも良いと思うのだけど、それは駄目らしい。
はしたないと叱られてしまった。
「後は私が致しますので、お前たちは下がりなさい」
侍女たちが出ていくと、一見、部屋には私とマンナだけ。
侍女が礼をし、次々に部屋を出ていく。マンナは一人だけ、協力者の侍女を呼び止めた。
「ああ、お前には後で話があります。私の部屋の前で待っていなさい。……何の話しか分かりますね?」
他の侍女たちが同情的な目を向ける中、彼女は気まずそうに返事を返した。
マンナの部屋は私の部屋の隣で、実は扉一枚で繋がっている。決められた時以外は開かれない扉がある。
私が昼食を食べ始めしばらくすると、マンナは自分の部屋に、その侍女を呼び込んだ。
カクとジージールも姿を表し、これで、必要な人物がすべて揃った。
「集まってもらって、ありがとう。今日の事を話すわ。まず、勝手なことをして、ごめんなさい」
私は頭を下げた。
仮でも私は王女で、彼らは私より下の立場に入るる。
けれど、彼らは協力者だ。足並みが揃わなければ、有事の際、上手く行かなくなる。
マンナが感情の籠らない声で、頭を下げる私に対し、良い放った。
「その様な事はよろしいので、説明をお願いいたします」
マンナがすっごく怒ってる。
今日のはこれまでの努力を無にしかねない危険を孕んでいたので、仕方ないことだ。
ネイノーシュと何があったのか話す前に、私はまず、今朝のお父様とお母様に、直談判したところから始めた。
直談判の内容も理由もすべてだ。
「だから、お父様に許可をもらったので、ネノスにアルテムをクビにするっていうつもりだったの。でもネノスが思いの外怒ってまって……挑発してしまったようなの」
《挑発してしまった》ではなく《勧誘に失敗した》の間違いなのだけど、そんな事些細なものだ。
具体的に聞かれたらどう誤魔化そうか考えていたのだけれど、幸いなのか、誰も尋ねてこなかった。
何故なら、空気は一変し凍りつき、皆から焦りが見てとれる。
意外にもマンナは分かりやすく動揺していた。
「どうかしたの?マンナ?」
私は食卓の椅子を立ち上がり、固くなるマンナの手に、自身の手を添える。
「そんなに固く握っては爪が食い込んでしまうわ。ジージールも……ほら、あなたも顔が怖いわ」
そう言いながら、侍女の頬に手を添えた。侍女は体をびくつかせ身を強張らせた。
「どうしてしまったの?私の案に駄目な所があったら教えて?私、一人で考えてしまったから、どこに不備があるのか、分からないの」
この中で唯一取り乱さなかったのは、カクだけだ。
きっと、さっきの愚痴で、予想してたのね。
私が王子の正体に気がついた事。
皆知ってたのね。アートが本物の王子だって。
だからジージールはあの時、王子が一人で危険に突っ込んで来たから、驚いたのね。
今の私を支配するのは怒りだ。
すべてに対する怒りが、私を突き動かしている。
「では、詳しい段取りを話すわね」
私が息を吐く、その音だけが、部屋に響いた。
ネイノーシュとのお茶会の後、私は直ぐに訓練室に籠った。
いくら体を動かしても発散されない怒りにまかせて、私は半ば八つ当たり気味に拳を振るっていた。
私はカクが持つ、厚めの木の板目掛け、拳を思いっきり突き出した。バキッと音を立て、一瞬で板が真っ二つに割れる。
拳の骨張った所がジンジン痛んだけれど、そんなのはどうでも良かった。
カクが黙って、板を新しい物に代える。これで十枚目だ。
「ふ・ざ・け・る・な!」
ーーバキッ!ーー
今度は蹴りで
「誰が弟っ……だって!?」
ーーバキッ!ーー
次はかかと落としで
「じゃあ、私は!」
ーーバキッ!ーー
「誰なのよ!?」
最後は回し蹴りで、板を割る。
「はあ……はあ……はあ……」
興奮から息を切らす。私は構えを解き、カクが割れた板を山の上に頬り投げた。
「今ので最後です」
見れば、板を積んでいた場所は空になっている。
「申し訳ございません。もっと用意しておくべきでした」
「いいえ、私の方こそ、ごめんなさい。つい、イライラしてしまって……」
怒りにまかせて拳を振るうのに、何も聞かず付き合ってくれるカクは、私の頼れる護衛であり、戦闘訓練における師であり、子供の頃からずっと一緒にいる、馴染み深い人物でもある。
「構いません。いくらでもお付き合いしいたします」
魔人であるカクの髪は夕焼けより赤く、剣を振るう戦士でありながら、魔術の知識はマンナにだって負けない。
もうすでに四十近く。衰えたと言っているけれど、私はまだ一度も勝てたことがない。
身長が低いせい……ってカクはいうけれど、たぶん違う。
「ううん、もう落ち着いたわ。ありがとう。一度お部屋に戻りましょう?今後の事を話すわ」
「承知いたしました」
カクを残し、私はいつものようにシャワー室へ向かう。
服を脱ごうとして、思い出し小さく声をあげた。大事な事を思い出したのだ。
私はシャワー室のドアから顔だけを出した。
「あの、カク?さっき私が言ってたことは……」
板を割りながらさんざん愚痴っていた内容は、とても、マンナはもちろん、お父様とお母様にも言えない。
「もちろん、誰にも言いません」
「あと、着替えも忘れたの」
カクが眉間に皺を寄せる。
「連絡しておきます」
カクが侍女たちと顔を会わせなくなってから、随分と経った。もう、ほとんどの侍女がカクの姿を知らない。
きっとマンナに連絡するわね。ではちょうど良いわ。ジージールにも来てもらいましょうか。
「ジージールにも来るよう伝えてくれる?」
シャワーの音に隠れるくらいの声で、「はい」と返事が帰ってきた。
昼食は一人で、部屋で取る。唐突に伝えられ、侍女たちは大慌てで、準備を始めた。
ネイノーシュと一緒の昼食は、すっかり定着しており、 彼女らもいつも通りと思い準備をしていたのだ。
私としては部屋の書斎机でも良いと思うのだけど、それは駄目らしい。
はしたないと叱られてしまった。
「後は私が致しますので、お前たちは下がりなさい」
侍女たちが出ていくと、一見、部屋には私とマンナだけ。
侍女が礼をし、次々に部屋を出ていく。マンナは一人だけ、協力者の侍女を呼び止めた。
「ああ、お前には後で話があります。私の部屋の前で待っていなさい。……何の話しか分かりますね?」
他の侍女たちが同情的な目を向ける中、彼女は気まずそうに返事を返した。
マンナの部屋は私の部屋の隣で、実は扉一枚で繋がっている。決められた時以外は開かれない扉がある。
私が昼食を食べ始めしばらくすると、マンナは自分の部屋に、その侍女を呼び込んだ。
カクとジージールも姿を表し、これで、必要な人物がすべて揃った。
「集まってもらって、ありがとう。今日の事を話すわ。まず、勝手なことをして、ごめんなさい」
私は頭を下げた。
仮でも私は王女で、彼らは私より下の立場に入るる。
けれど、彼らは協力者だ。足並みが揃わなければ、有事の際、上手く行かなくなる。
マンナが感情の籠らない声で、頭を下げる私に対し、良い放った。
「その様な事はよろしいので、説明をお願いいたします」
マンナがすっごく怒ってる。
今日のはこれまでの努力を無にしかねない危険を孕んでいたので、仕方ないことだ。
ネイノーシュと何があったのか話す前に、私はまず、今朝のお父様とお母様に、直談判したところから始めた。
直談判の内容も理由もすべてだ。
「だから、お父様に許可をもらったので、ネノスにアルテムをクビにするっていうつもりだったの。でもネノスが思いの外怒ってまって……挑発してしまったようなの」
《挑発してしまった》ではなく《勧誘に失敗した》の間違いなのだけど、そんな事些細なものだ。
具体的に聞かれたらどう誤魔化そうか考えていたのだけれど、幸いなのか、誰も尋ねてこなかった。
何故なら、空気は一変し凍りつき、皆から焦りが見てとれる。
意外にもマンナは分かりやすく動揺していた。
「どうかしたの?マンナ?」
私は食卓の椅子を立ち上がり、固くなるマンナの手に、自身の手を添える。
「そんなに固く握っては爪が食い込んでしまうわ。ジージールも……ほら、あなたも顔が怖いわ」
そう言いながら、侍女の頬に手を添えた。侍女は体をびくつかせ身を強張らせた。
「どうしてしまったの?私の案に駄目な所があったら教えて?私、一人で考えてしまったから、どこに不備があるのか、分からないの」
この中で唯一取り乱さなかったのは、カクだけだ。
きっと、さっきの愚痴で、予想してたのね。
私が王子の正体に気がついた事。
皆知ってたのね。アートが本物の王子だって。
だからジージールはあの時、王子が一人で危険に突っ込んで来たから、驚いたのね。
今の私を支配するのは怒りだ。
すべてに対する怒りが、私を突き動かしている。
「では、詳しい段取りを話すわね」
私が息を吐く、その音だけが、部屋に響いた。
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