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第一章~王女の秘密~

23.5

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 アイナの部屋を後にした国王であるアーロは、城の廊下を自身の職務室へ向かっていた。

 その途中、弟のエグモンドが廊下に立っていて


「兄上」


 声をかけてきた。


「姫君の様子はどうだった?久しぶりの親子水入らずだったんだろう?」


「ああ、思ったより元気そうだったよ。子供というのは、アッという間に大人になるな。赤ん坊だったのが、ついこの前だったと思っていたのにな……」


「特に女性は大人になるのが早い。アイナは血の制限をして見た目が幼く見えるから、余計にそう思うんだろ。もう止めさせたら良いのに。何故?必要か?」


「必要だよ!あれが成長し、美しいと知られれば、世の男たちが放っておかないだろう!?」


「兄上……本気か?」


 はっきりと断言するアーロからは、冗談とは思えない程の気迫を感じる。弟として付き合いの長いエグモンドは、兄の気迫から本物を嗅ぎ取り、引き気味に言った。


「半分は、な」


「半分も本気なのか?これじゃアイナが、こそこそ隠れて恋人を作るはずだ」


 エグモンドが溜息を吐く。アーロはフンッと、鼻を鳴らした。


「何とでも言え。私はあの子を守る為なら何だってする……そう、何だって」


 だた一人を除き、すべての子が死んだ。三人いた側室は全員実家に下がらせ、王妃ともアルテム以降子をもうけてはいない。

 アーロからほとばしる並々ならぬ怒気は、エグモンドにも痛い程理解できた。エグモンドもまた、子を持つ父なのだ。

 子の為なら修羅にだってなれよう。


「それは……そうだな」


 エグモンドはフッと笑みを零した。


「久しぶりと、兄上とお酒でも飲みたいな。今晩はどうです?」


「お酒は飲まん、それに今夜はお客人を迎えなきゃいかんのでね」


「だからじゃないか。今夜なら私も城に滞在するし、その後に飲めば良い。兄上はどうして……酒は神が世界に与えた宝だ。楽しまずしてどうする」


「確か……世界の珍味探訪記の一節だったな」


「兄上も好きだろう?」


「本はな。あれに載っていた、サンローンダ産のブドウジュースなら好きだ。あれをグラスに注げば、どんな宝石だにだって勝る。まさに宝というべき逸品だ」


「確かに絶品だが、酒ではないだろう?」


「だから、酒は好かんと……」


 エグモンドが肩をすくめた。


「では、私も姪を見舞いに行こうかな」

「ああ、その事なんだが。今は止めた方が良い」

「なぜ?」

「寝てるんだ。あれの寝顔はまだ……誰にも見せるつもりはない」


「…………」


 婚約者がいる身に何を言うのか。エグモンドの顔が雄弁に語る。


「何だ?その顔は」


「いや、何でも……では、兄上。安全確認が済んだ、とのことなので、私はこれで失礼致します。お客様を迎えに行ってまいります」


「くれぐれも頼んだぞ」


 何せ、相手は執拗なる英知神大陸の大国、サフェンスの大統領閣下なのだから。


 エグモンドが重々しく頷いた。











 







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