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第一章~王女の秘密~
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ネイノーシュを見送り、私は自室にとぼとぼ歩いて戻る。
この後やる事はすでに決まっている。
その為にはまず、マンナを遠ざけなけらばいけない。
もちろん、作戦であればマンナは私を本気で止めないし、寧ろ進んで私から離れるだろうけれど、対外的に納得させる為にも理由が必要だ。
「そう言えば……」
部屋に入ってすぐ、私はさも、たった今思い出したかのように呟いた。
「侍従長がマンナの事を探していたわね。何の用事だったの?」
「……何の事でしょうか。私はないも聞いておりません」
「あら、では大変。今行くと良いわ。大事な用事ではいけないもの」
「そんな事を言って、私のいない間に何をしようというわけではないのですか?」
「まさか。そんな事しないわ」
「畏まりました。では私は一度失礼させて頂きます…………お前たち、姫様の事くれぐれもよろしく頼みましたよ」
私が満面の笑顔を作り、マンナが訝しんでいる様子で溜息を吐く。
お決まりのやり取りだ。
さてと。マンナが消えた。戻ってくる前に侍女たちをどうにかしなければね。
私はいつもやるように、扇子で掌を打つ仕草を、しようとした。
だが、何も持っていない手で拳を振っても空振りするだけだ。
「まあ、大変、私の扇子がないわ。お気に入りの…………」
私は後ろに控えている侍女に話しかけた。
「ねえ、誰か心当たりあるかしら?」
「はい、姫様。ネイノーシュ様のお見送りに参りました途中、寄られた何れかの場所にあるのではないかと」
「お前は……シンディアだったわね。良いわ。お前の言う通りかもしれないわね。ではお前たち、手分けして探してきてちょうだい。その方がはやく見つかるでしょ?私は先に部屋で休んでいるから」
侍女たちが顔をやや強張らせた。
それもそのはず。私が寄り道した場所は複数箇所ある。
厠にゲストルームネイノーシュの部屋に、お父様とお母様の部屋。
場所によっては勝手に入るわけにはいかないから、さぞかし時間がかかるでしょうね。
それから、すぐにはハイとは頷かないのは、偏にマンナの教育の賜物ね。
何があろうとも、決して主を一人にしてはいけません……だったかしら。私がしようとしている事がちゃんとわかっている証拠ね。
私は心の中でほくそ笑む。
けれど、彼女たちがどれだけ抵抗しようとも、王女の命令に逆らえるはずがなく、結局は仕方なしに一人だけを残し散っていった。
それにしても…………私は扇子を置いてきた時の事を思い出した。
マンナと私、協力者の侍女の三人がかりで、わざわざ気が付かれない様に振舞ったとはいえ、扇子がなくなった事にまったく気付いていないのも問題ね。
それよりも気になるのは、なぜ、残した私のお目付け役が彼女だったのか。
彼女は私の秘密を知る一人で、私が部屋を抜け出す際に、アリバイ工作をしてくれる侍女だ。
当然、私が脱走するのは、彼女と一緒の時が多い。
私の秘密はともかく、脱走の手助けをしている事については、他の者も気づいているはずと思っていたのだけどね。
もしかしたら、今回は当たりかしら。
そんな小細工をした一時間後、私は城から少し離れた訓練所にいた。
協力者の侍女は他の侍女を誘導する為、城に残っている。マンナもいない。
私は久しぶりに、一人の気分を味わっている。
私自身が侍女の制服に身を包み、まるでお使いで来ましたという顔で訓練所内を歩く。入る際見せた身分証は当然本物であるので、疑う者は誰一人としていない。
これまで何度、こうして城を抜け出したか分からない。自分で言うのもなんだけど、手慣れたものだ。
でも今回は違う。確実に敵が動いている中でのお忍びだ。
これまでの比ではない緊張感が私を襲う。
もし、私の侍女たちの中に密偵がいるのなら、私がわざと側近を追いやったと知らせを飛ばしているに違いない。
その為に分散しやすく細工をしたのだから。
そうね、私が一人でいると知られてしまっているのよね。
私の中にある確信が、否応なしに緊張感を高める。
いつ仕掛けてくるかしら。
もう少し人気のない場所に行かないとダメかしら。
ネイノーシュを眺められて、且つ攻撃されやすい場所……。
訓練所の見取図を思い浮かべ、考えて……考えて。
私は息苦しさを覚えて立ち止まった。
心臓がゾワリとして震えている。
脳裏に過るお父様とお母様の姿に寂しさを覚え、私は、歪む視界の中を歩き出した。
どこで見られているとも知れないのだから。
私は奥歯を噛みしめ、目的地に向かった。
この後やる事はすでに決まっている。
その為にはまず、マンナを遠ざけなけらばいけない。
もちろん、作戦であればマンナは私を本気で止めないし、寧ろ進んで私から離れるだろうけれど、対外的に納得させる為にも理由が必要だ。
「そう言えば……」
部屋に入ってすぐ、私はさも、たった今思い出したかのように呟いた。
「侍従長がマンナの事を探していたわね。何の用事だったの?」
「……何の事でしょうか。私はないも聞いておりません」
「あら、では大変。今行くと良いわ。大事な用事ではいけないもの」
「そんな事を言って、私のいない間に何をしようというわけではないのですか?」
「まさか。そんな事しないわ」
「畏まりました。では私は一度失礼させて頂きます…………お前たち、姫様の事くれぐれもよろしく頼みましたよ」
私が満面の笑顔を作り、マンナが訝しんでいる様子で溜息を吐く。
お決まりのやり取りだ。
さてと。マンナが消えた。戻ってくる前に侍女たちをどうにかしなければね。
私はいつもやるように、扇子で掌を打つ仕草を、しようとした。
だが、何も持っていない手で拳を振っても空振りするだけだ。
「まあ、大変、私の扇子がないわ。お気に入りの…………」
私は後ろに控えている侍女に話しかけた。
「ねえ、誰か心当たりあるかしら?」
「はい、姫様。ネイノーシュ様のお見送りに参りました途中、寄られた何れかの場所にあるのではないかと」
「お前は……シンディアだったわね。良いわ。お前の言う通りかもしれないわね。ではお前たち、手分けして探してきてちょうだい。その方がはやく見つかるでしょ?私は先に部屋で休んでいるから」
侍女たちが顔をやや強張らせた。
それもそのはず。私が寄り道した場所は複数箇所ある。
厠にゲストルームネイノーシュの部屋に、お父様とお母様の部屋。
場所によっては勝手に入るわけにはいかないから、さぞかし時間がかかるでしょうね。
それから、すぐにはハイとは頷かないのは、偏にマンナの教育の賜物ね。
何があろうとも、決して主を一人にしてはいけません……だったかしら。私がしようとしている事がちゃんとわかっている証拠ね。
私は心の中でほくそ笑む。
けれど、彼女たちがどれだけ抵抗しようとも、王女の命令に逆らえるはずがなく、結局は仕方なしに一人だけを残し散っていった。
それにしても…………私は扇子を置いてきた時の事を思い出した。
マンナと私、協力者の侍女の三人がかりで、わざわざ気が付かれない様に振舞ったとはいえ、扇子がなくなった事にまったく気付いていないのも問題ね。
それよりも気になるのは、なぜ、残した私のお目付け役が彼女だったのか。
彼女は私の秘密を知る一人で、私が部屋を抜け出す際に、アリバイ工作をしてくれる侍女だ。
当然、私が脱走するのは、彼女と一緒の時が多い。
私の秘密はともかく、脱走の手助けをしている事については、他の者も気づいているはずと思っていたのだけどね。
もしかしたら、今回は当たりかしら。
そんな小細工をした一時間後、私は城から少し離れた訓練所にいた。
協力者の侍女は他の侍女を誘導する為、城に残っている。マンナもいない。
私は久しぶりに、一人の気分を味わっている。
私自身が侍女の制服に身を包み、まるでお使いで来ましたという顔で訓練所内を歩く。入る際見せた身分証は当然本物であるので、疑う者は誰一人としていない。
これまで何度、こうして城を抜け出したか分からない。自分で言うのもなんだけど、手慣れたものだ。
でも今回は違う。確実に敵が動いている中でのお忍びだ。
これまでの比ではない緊張感が私を襲う。
もし、私の侍女たちの中に密偵がいるのなら、私がわざと側近を追いやったと知らせを飛ばしているに違いない。
その為に分散しやすく細工をしたのだから。
そうね、私が一人でいると知られてしまっているのよね。
私の中にある確信が、否応なしに緊張感を高める。
いつ仕掛けてくるかしら。
もう少し人気のない場所に行かないとダメかしら。
ネイノーシュを眺められて、且つ攻撃されやすい場所……。
訓練所の見取図を思い浮かべ、考えて……考えて。
私は息苦しさを覚えて立ち止まった。
心臓がゾワリとして震えている。
脳裏に過るお父様とお母様の姿に寂しさを覚え、私は、歪む視界の中を歩き出した。
どこで見られているとも知れないのだから。
私は奥歯を噛みしめ、目的地に向かった。
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