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第一章~王女の秘密~

13 ~密会~

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 オワリノ国のとある町のとある屋敷の一室。男と女が顔を付き合わせていた。

 男の方は長い髪を後ろに流し、顎髭を蓄えている。ガタイも良い。胸板が厚く肩回りもがっしりしている為か、妙に貫禄がある。

 女の方は光沢のある衣に身を包んでいるが、彼女の細身には少々大きいのか、腰回りに皺がよっている。丁寧に結わいだ髪に木目の簪を指しているが、着飾っているのはそれだけだ。


 男の方がグラスに入った透明の液体をくいっと呷る。

 男が吐き出す息にアルコールの臭いがまじり、向かいに座る女は眉を潜めた。


「なんだ、今も酒は嫌いか?こんな良い物を。見ろ。グラスに注がれた酒は、まるで宝石のようではないか。これは神が我々に与えた宝ぞ」


 男がせせら笑う。だが女の表情に一層嫌味が増し、男はため息を吐いて、グラスをテーブルに置いた。


「して、城の様子はいかがかな?」


 女の問いに、今度は男がジロリと睨んだ。


「祝賀会の準備が進めれているが、予想外のトラブルが多くて、予定より遅れている。よもやとは思うが……」


「まさか。我々が何かしたとでも言いたいのか?そのような事をするはずなかろう。我々にとっての悲願がついに叶うという時に」


「ふん、ならば偶然か?久しく開かれていなかった、大がかりな祝賀会だ。そんな事もあるだろうか」


「それか、反王政派が祝賀会の失敗を狙い、工作しているとは考えられんか?」


 まさか、男が呟いた。その表情には驚きではなく、困惑の色が浮かぶ。

 女はそんな男を見てニヤリと笑った。男は釣られて吐き出す様にして笑う。


「大がかりといえども、所詮王女の祝賀会だ。それの開催を遅らせるだけの小細工など、何の役にたつというのだ。あれらを馬鹿にしすぎだ」


「でも、あれたちは本気でやりかねないと思わんか?」



「言えて妙だが、そういうてやるな。あれもあれなりに、頑張ってるのだからな……どうせ影を落とす事もできんよ」


 男は得意気に鼻を鳴らして笑った。



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