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第一章~王女の秘密~
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あと1週間に迫った式典は《王の子》を祝うためのもの。国王夫妻にとっては長年離れ離れに暮らしてきた息子に再会する何より重要な日。
長い廊下をカクを連れて式典の会場となるホールへ向かう私の、あの日からほんの少しだけ伸びた黒いストレートの髪が、私の動きに合わせてサラリと揺れた。
今日も式の予行演習の為の予行演習でもするのだろう。
式の進行をに挨拶のタイミング。相応しいふるまいの確認。
間違いのないように繰り返すのもいいけれど、さすがに加減飽きた。
あぁ、でも仮に、これが自分の為の式典……だったら少しは練習に身が入っていたのかもしれない。
私は憂鬱な気分で扉を開いた。すでに私以外の人達は揃っていた。
「?」
私は違和感を覚え、首を傾げた。
これに国王夫妻、つまりお父様とお母さまは参加しないのだけど、それでもどうしてか、今日はやたら人が多い。
黒服を纏う見慣れない集団のがいるのだ。
私はその中心に綺麗な白髪の男を見つけ、目を見張り、全身に鳥肌が立った。
私の後ろでカクが、小声で私を名を呼んだ。
大丈夫よカク。こんな所で失態は犯さないから。
私は驚いた表情のまま、叫ばないよう奥歯を噛みしめた。
「ネノス?まさか、あなたなの?」
グレンウィル・ネイノーシュ
彼は私の愛しい恋人で、一週間後の式典で紹介される私の婚約者だ。
白い髪はお父様と一緒。涼し気な目元は少しだけお母様に似ている気がしないでもない。
ああ、本当に来たのね。この時が。
私は思わず歓喜に震え、涙が滲む……演技をする。
にやける口元を手で覆い隠し、我慢するのよと心で自分に言い聞かせながら、頭を横に振った。
思いもよらぬ場面で会った二人。
久しぶりの再会に私は息を飲み、驚いた表情の後笑みを浮かべる。それから涙を浮かべ首を振る。
それこそさんざん練習してきたシナリオ通りの展開であり、別荘で私に課せられた課題だ。
親しさを演出するため、あれの愛称も何度も繰り返し口にした。
こんな時ですら、自然と口からでる程にだ。
けれど、予告もなく行われるとは思っていなかったが、その分、真実味が増した事だろう。
でも、歓喜に震えのも、間違いなく私の本心だ。
そう私は嬉しかった。
憎くて憎くて仕方なかった相手に出会えたのが、嬉しくて嬉しく仕方なった。
だってこれで長年の、私の目的が果たされると思えば、嬉しくなるのは当たり前じゃない?
一目でわかるほどに緊張した面持ちのネノスが、私を見つけて笑みを零した。
ネイスが何か言いたそうに口を開いたと同時に、私は彼の名前を叫んだ。
「ネノス!!!」
私は小走りでネノスに駆け寄った。
目の前に来た所で、周囲の視線に気が付いたかの様にハタと足を止め、恥ずかさをごまかす為、頬を赤らめ王女の笑みを浮かべる。
私は淑女の礼をし、ネノスの瞳を見つめ返した。
「またお会いできる日を心待ちにしておりました」
設定はこうだ。
毎年避暑に訪れていた別荘で、偶然会った私たちは恋に落ち、夏だけの交流と手紙で親交を深め、この度ついに婚約する。
「お、私もずっとこの日を楽しみにしてまいりました……アイナ様」
感動再開に普段の王女の仮面を崩してしまう私と、愛する人に会える喜びの中で慣れぬ場所に緊張するネノス。
周囲の人間はそのように信じ込んで、温かい眼差しで私たちを見守っている。
私の理想とは多少違った、演技と緊張で凝り固まったネノスの演技は、結果としてかなりの高得点をたたき出した。
長い廊下をカクを連れて式典の会場となるホールへ向かう私の、あの日からほんの少しだけ伸びた黒いストレートの髪が、私の動きに合わせてサラリと揺れた。
今日も式の予行演習の為の予行演習でもするのだろう。
式の進行をに挨拶のタイミング。相応しいふるまいの確認。
間違いのないように繰り返すのもいいけれど、さすがに加減飽きた。
あぁ、でも仮に、これが自分の為の式典……だったら少しは練習に身が入っていたのかもしれない。
私は憂鬱な気分で扉を開いた。すでに私以外の人達は揃っていた。
「?」
私は違和感を覚え、首を傾げた。
これに国王夫妻、つまりお父様とお母さまは参加しないのだけど、それでもどうしてか、今日はやたら人が多い。
黒服を纏う見慣れない集団のがいるのだ。
私はその中心に綺麗な白髪の男を見つけ、目を見張り、全身に鳥肌が立った。
私の後ろでカクが、小声で私を名を呼んだ。
大丈夫よカク。こんな所で失態は犯さないから。
私は驚いた表情のまま、叫ばないよう奥歯を噛みしめた。
「ネノス?まさか、あなたなの?」
グレンウィル・ネイノーシュ
彼は私の愛しい恋人で、一週間後の式典で紹介される私の婚約者だ。
白い髪はお父様と一緒。涼し気な目元は少しだけお母様に似ている気がしないでもない。
ああ、本当に来たのね。この時が。
私は思わず歓喜に震え、涙が滲む……演技をする。
にやける口元を手で覆い隠し、我慢するのよと心で自分に言い聞かせながら、頭を横に振った。
思いもよらぬ場面で会った二人。
久しぶりの再会に私は息を飲み、驚いた表情の後笑みを浮かべる。それから涙を浮かべ首を振る。
それこそさんざん練習してきたシナリオ通りの展開であり、別荘で私に課せられた課題だ。
親しさを演出するため、あれの愛称も何度も繰り返し口にした。
こんな時ですら、自然と口からでる程にだ。
けれど、予告もなく行われるとは思っていなかったが、その分、真実味が増した事だろう。
でも、歓喜に震えのも、間違いなく私の本心だ。
そう私は嬉しかった。
憎くて憎くて仕方なかった相手に出会えたのが、嬉しくて嬉しく仕方なった。
だってこれで長年の、私の目的が果たされると思えば、嬉しくなるのは当たり前じゃない?
一目でわかるほどに緊張した面持ちのネノスが、私を見つけて笑みを零した。
ネイスが何か言いたそうに口を開いたと同時に、私は彼の名前を叫んだ。
「ネノス!!!」
私は小走りでネノスに駆け寄った。
目の前に来た所で、周囲の視線に気が付いたかの様にハタと足を止め、恥ずかさをごまかす為、頬を赤らめ王女の笑みを浮かべる。
私は淑女の礼をし、ネノスの瞳を見つめ返した。
「またお会いできる日を心待ちにしておりました」
設定はこうだ。
毎年避暑に訪れていた別荘で、偶然会った私たちは恋に落ち、夏だけの交流と手紙で親交を深め、この度ついに婚約する。
「お、私もずっとこの日を楽しみにしてまいりました……アイナ様」
感動再開に普段の王女の仮面を崩してしまう私と、愛する人に会える喜びの中で慣れぬ場所に緊張するネノス。
周囲の人間はそのように信じ込んで、温かい眼差しで私たちを見守っている。
私の理想とは多少違った、演技と緊張で凝り固まったネノスの演技は、結果としてかなりの高得点をたたき出した。
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