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夢に咲く花
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「釘を刺しても無駄と思うけどな」
木製の机と本棚が一つあるだけの簡素な部屋で、若い男は一つしかない椅子に腰かけながら軍服姿の男に言った。
机の上に広げられた地図を、軍服姿の男が指先で軽く押すと触れた箇所が赤く染まった。地図上にはすでに赤い箇所がいくつか存在し、その数は優に二十を超えている。
「もちろん、奴も事の重大さを理解しているはずです。しかし、万が一と言うこともありますので」
軍服姿の男は畏まって言った。若い男は口をすぼめ舌を鳴らしながら、立てた人差し指を左右に振った。
「そうじゃない。あいつは薬を使うと言ってるんだ」
軍服姿の男は椅子に座ったまま、自信たっぷりに笑みを浮かべる自身の主人に視線をやり、やや固い愛想笑いを浮かべた。
「ご冗談を……まさかそれも予知ですか?」
「予知ではなく、私があの男を観察して得た結論だ」
軍服の男はホッと胸をなでおろした。
「お言葉ですが殿下。私もナキイという男を良く知っているつもりです。職務に忠実な男です。あの薬を託されるに足りると確信しております」
「では賭けをしよう。勝った方がイッテツ屋の菓子を買ってくるというのはどうだろう?もちろん私が負ければ私が行って並んで買ってこよう」
イッテツ屋といえば、常に行列の絶えないと有名の王都屈指の人気店だ。
配達はしておらず、欲しいなら行列に辛抱強く並ばねばならなず、過去に王家からの配達依頼も断っている。
「となれば、殿下の護衛で付き添う隊員が気の毒でなりませんな」
すでに賭けに勝ったつもりとも取れる軍服の男の発言に、主人の男は怒るでも呆れるでもなく高らかに笑った。
「気にするな。これまで何度も一人で買いに行っている。そのついでと思えばなんてことない」
高笑いする主人をどういさめようか頭を悩ませた軍服の男は、眉間を押さえ首を横に振った。
木製の机と本棚が一つあるだけの簡素な部屋で、若い男は一つしかない椅子に腰かけながら軍服姿の男に言った。
机の上に広げられた地図を、軍服姿の男が指先で軽く押すと触れた箇所が赤く染まった。地図上にはすでに赤い箇所がいくつか存在し、その数は優に二十を超えている。
「もちろん、奴も事の重大さを理解しているはずです。しかし、万が一と言うこともありますので」
軍服姿の男は畏まって言った。若い男は口をすぼめ舌を鳴らしながら、立てた人差し指を左右に振った。
「そうじゃない。あいつは薬を使うと言ってるんだ」
軍服姿の男は椅子に座ったまま、自信たっぷりに笑みを浮かべる自身の主人に視線をやり、やや固い愛想笑いを浮かべた。
「ご冗談を……まさかそれも予知ですか?」
「予知ではなく、私があの男を観察して得た結論だ」
軍服の男はホッと胸をなでおろした。
「お言葉ですが殿下。私もナキイという男を良く知っているつもりです。職務に忠実な男です。あの薬を託されるに足りると確信しております」
「では賭けをしよう。勝った方がイッテツ屋の菓子を買ってくるというのはどうだろう?もちろん私が負ければ私が行って並んで買ってこよう」
イッテツ屋といえば、常に行列の絶えないと有名の王都屈指の人気店だ。
配達はしておらず、欲しいなら行列に辛抱強く並ばねばならなず、過去に王家からの配達依頼も断っている。
「となれば、殿下の護衛で付き添う隊員が気の毒でなりませんな」
すでに賭けに勝ったつもりとも取れる軍服の男の発言に、主人の男は怒るでも呆れるでもなく高らかに笑った。
「気にするな。これまで何度も一人で買いに行っている。そのついでと思えばなんてことない」
高笑いする主人をどういさめようか頭を悩ませた軍服の男は、眉間を押さえ首を横に振った。
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