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夢に咲く花
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「しっかし、似合わねぇな、俺。女っぽく見えるように魔法をかけてもこの程度かよ」
「案外孝宏って男らしい顔してたんだねぇ」
「ルイはイケメンだし、似合うんじゃない?女装」
「確かに僕は格好良いけど、女装は似合わないと思うな」
「イケメンは否定しないんだ」
決して口にはしないが、ルイの過剰なくらいの自信はむしろ、孝宏には羨ましいくらいだった。
日本に生まれかれこれ15年。幼少期は格闘技に明け暮れ、中学に入れば勉強一辺倒になった。それらは常に下からのスタートだった。孝宏には胸を張って自慢できるものがなく、ルイは傍目から見てキラキラ輝いて見える。たとえナルシスト気味であったとしてもだ。
まじめに道場に通いそれなりに形にはなったが、才能には恵まれず凡人どまり。後から入った後輩に追い抜かれた時の惨めさといったらない。
だから中学に入ったのを期に、勉強を理由にすっぱり辞めた。
辞めなかったらもう少しはマシになっていたのかもしれず、そうなれば自慢とまでいかなくても、得意だと胸を張れたかもしれない。
だが後悔しても、もう遅い。
格闘技をやめた後も、勉強嫌いが祟りそれはそれで辛い日々であった。強固な下心がなければ学年トップを取るなど、夢のまた夢であったろう。
下心で勉強を頑張りましたと恥ずかしくて言えない。
孝宏はそう考えていた。
「こういうのは僕みたいなタイプよりも、もっとあっさりとした顔のほうが似合うんだよ。例えば………」
例を出そうとして、ルイは言葉に詰まった。孝宏と自分に共通する人物が少ない上に、似合いそうな人物が思い浮かばなかったのだ。
言葉に詰まったまま、視線が空をさまようルイを見て、孝宏が言った。
「例えばカダンとか?結構似合うと思うんけど」
「ぅえ?カダン?」
ルイが意外だといわんばかりに目を丸くしたのが、孝宏には意外だった。
地球とこちらの世界では、美的感覚が違うのだろうかとも思ったが、双子が男前という認識は共通している。ということは大した違いはないと考えられるが、単にルイのセンスが他と違うだけかもしれない。
「そんなに意外か?地球では結構良い………」
「いやいや、違う。確かにカダンなら似合うと思うけど…………大体カダンは………………」
ルイが孝宏のセリフにかぶせて遮った。たが、ちょうどその時、潜めた笑い声がふと耳に入り、孝宏はそちらの方を向いた。
足首あたりまであるロングスカートにエプロン姿の、いかにも主婦といった出で立ちの女性が二人。楽し気に立ち話をしている。その二人が時折こちらを見ているように思え、孝宏は急に恥ずかしくなった。
大して似合いもしない女装など、自分が見ても奇妙に映るのだ。傍目からは面白く見えているに違いない。
孝宏は何も考えず、反射的に頭のかつらを引っ張った。
「っいて!」
地肌と同化しているかつらが当然とれるはずもなく、自分の髪を引っ張るのと同様痛いだけだ。
「なあ、そろそろこれ取って、魔法も解いてくれよ」
「別にいいんじゃないの?僕はそんなの気にしないよ」
「お前な、俺は気にすんの」
マントの襟元をギュッと両手で締め上げても、ルイのほうが背が高いのでは、全く脅しにもならない。ルイは涼し気な目で孝宏を見下ろしている。
ルイが孝宏の両手首を掴んだ。
「魔法なんて大したことないんだから。自分で何とかすれば?」
「なっ!?さっき言ったこと根に持ってんのかよ。謝ったじゃん!」
「何のことかな?」
「大人げねぇぞ」
「あいにく僕はまだ成人して………ない…………」
それだけ言うとルイは黙ってしまった。彼の表情は凍り付き、孝宏の手首を掴む両手から力が抜ける。
「何だよ。どうしたんだよ」
感情を唯一伺える瞳は冷え切って静かで、生気を感じられない。
(あっ……まさか成人って確か……)
孝宏はカウルから聞いた成人の儀の存在を思い出して唇を噛んだ。
カウルと二人で牛小屋の掃除をしている時、双子といとこであるカダンが、三人で暮らしている理由を聞いていた。
その時は暗い事情でもあるんじゃないかと、内心おっかなびっくりしながら聞いていたが、結局誰もが通る通過儀礼と知り、ホッとしたのと同時に尊敬の念を抱いた。
金を貯め村に戻った後、両親から贈り物を貰う。そこで初めて成人したと認められるのだ。
あの時カウルはそう言っていたばすだ。本当なら今頃は、成人の証を受け取っているはずの彼ら。村どころか両親まで失って、成人した感覚がないのだろう。
こんな風に不意に落ち込んでいるルイを、どう慰めたものか、いつもあぐねいてしまう。誰かを慰めるのは得意でないし、そもそもどの面下げて、元気を出せと励ませるのか。
彼らの両親を救えたかもしれないのに、慢心から死なせてしまった。
(俺が殺したも同然なのに……)
「ルイ、あ、その……」
かける言葉が見つからなかった。
「案外孝宏って男らしい顔してたんだねぇ」
「ルイはイケメンだし、似合うんじゃない?女装」
「確かに僕は格好良いけど、女装は似合わないと思うな」
「イケメンは否定しないんだ」
決して口にはしないが、ルイの過剰なくらいの自信はむしろ、孝宏には羨ましいくらいだった。
日本に生まれかれこれ15年。幼少期は格闘技に明け暮れ、中学に入れば勉強一辺倒になった。それらは常に下からのスタートだった。孝宏には胸を張って自慢できるものがなく、ルイは傍目から見てキラキラ輝いて見える。たとえナルシスト気味であったとしてもだ。
まじめに道場に通いそれなりに形にはなったが、才能には恵まれず凡人どまり。後から入った後輩に追い抜かれた時の惨めさといったらない。
だから中学に入ったのを期に、勉強を理由にすっぱり辞めた。
辞めなかったらもう少しはマシになっていたのかもしれず、そうなれば自慢とまでいかなくても、得意だと胸を張れたかもしれない。
だが後悔しても、もう遅い。
格闘技をやめた後も、勉強嫌いが祟りそれはそれで辛い日々であった。強固な下心がなければ学年トップを取るなど、夢のまた夢であったろう。
下心で勉強を頑張りましたと恥ずかしくて言えない。
孝宏はそう考えていた。
「こういうのは僕みたいなタイプよりも、もっとあっさりとした顔のほうが似合うんだよ。例えば………」
例を出そうとして、ルイは言葉に詰まった。孝宏と自分に共通する人物が少ない上に、似合いそうな人物が思い浮かばなかったのだ。
言葉に詰まったまま、視線が空をさまようルイを見て、孝宏が言った。
「例えばカダンとか?結構似合うと思うんけど」
「ぅえ?カダン?」
ルイが意外だといわんばかりに目を丸くしたのが、孝宏には意外だった。
地球とこちらの世界では、美的感覚が違うのだろうかとも思ったが、双子が男前という認識は共通している。ということは大した違いはないと考えられるが、単にルイのセンスが他と違うだけかもしれない。
「そんなに意外か?地球では結構良い………」
「いやいや、違う。確かにカダンなら似合うと思うけど…………大体カダンは………………」
ルイが孝宏のセリフにかぶせて遮った。たが、ちょうどその時、潜めた笑い声がふと耳に入り、孝宏はそちらの方を向いた。
足首あたりまであるロングスカートにエプロン姿の、いかにも主婦といった出で立ちの女性が二人。楽し気に立ち話をしている。その二人が時折こちらを見ているように思え、孝宏は急に恥ずかしくなった。
大して似合いもしない女装など、自分が見ても奇妙に映るのだ。傍目からは面白く見えているに違いない。
孝宏は何も考えず、反射的に頭のかつらを引っ張った。
「っいて!」
地肌と同化しているかつらが当然とれるはずもなく、自分の髪を引っ張るのと同様痛いだけだ。
「なあ、そろそろこれ取って、魔法も解いてくれよ」
「別にいいんじゃないの?僕はそんなの気にしないよ」
「お前な、俺は気にすんの」
マントの襟元をギュッと両手で締め上げても、ルイのほうが背が高いのでは、全く脅しにもならない。ルイは涼し気な目で孝宏を見下ろしている。
ルイが孝宏の両手首を掴んだ。
「魔法なんて大したことないんだから。自分で何とかすれば?」
「なっ!?さっき言ったこと根に持ってんのかよ。謝ったじゃん!」
「何のことかな?」
「大人げねぇぞ」
「あいにく僕はまだ成人して………ない…………」
それだけ言うとルイは黙ってしまった。彼の表情は凍り付き、孝宏の手首を掴む両手から力が抜ける。
「何だよ。どうしたんだよ」
感情を唯一伺える瞳は冷え切って静かで、生気を感じられない。
(あっ……まさか成人って確か……)
孝宏はカウルから聞いた成人の儀の存在を思い出して唇を噛んだ。
カウルと二人で牛小屋の掃除をしている時、双子といとこであるカダンが、三人で暮らしている理由を聞いていた。
その時は暗い事情でもあるんじゃないかと、内心おっかなびっくりしながら聞いていたが、結局誰もが通る通過儀礼と知り、ホッとしたのと同時に尊敬の念を抱いた。
金を貯め村に戻った後、両親から贈り物を貰う。そこで初めて成人したと認められるのだ。
あの時カウルはそう言っていたばすだ。本当なら今頃は、成人の証を受け取っているはずの彼ら。村どころか両親まで失って、成人した感覚がないのだろう。
こんな風に不意に落ち込んでいるルイを、どう慰めたものか、いつもあぐねいてしまう。誰かを慰めるのは得意でないし、そもそもどの面下げて、元気を出せと励ませるのか。
彼らの両親を救えたかもしれないのに、慢心から死なせてしまった。
(俺が殺したも同然なのに……)
「ルイ、あ、その……」
かける言葉が見つからなかった。
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