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夢に咲く花

2*一応、主人公を治療してるだけ*

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「準備はできた?」


 カダンが孝宏に声を掛ける。


 孝宏は淵にもたれ掛かり、気持ち良さそうに目を閉じていたが、声を掛けられ、うつらうつらと言った様子で、言葉になっていない返事を返した。


「脱ぐのは上だけで良いのに、何で下も脱いでいるんだよ」


「だって、温泉だろう?本当は下着も脱ぎたいんだけどな」


「それはダメ。地球人は人前で裸になる習慣でもあるの?」


「地球っていうか、俺の国の温泉は、大体裸で入る。それがルールだ」


「あっそ……」


 カダンは服を着たまま温泉に入った。

 湯の高さは彼の腰近くまである。孝宏の傍で、片膝を付いてしゃがんだ。


「さてと、じゃあ始めようか」


 カダンは孝宏の手を取り、両手の掌にある傷を比べた。ほとんど塞がりかけている右手、真新しい傷口の左手。


「本当にするのか?やっぱりそのままでも……」


 孝宏は事前に何をするのか、説明を受けて、この場にいる。

 何をされるのか、知っていても若干怖かった。孝宏は躊躇した。


「ダメ、治す。じっとしてて」


 言うと同時に、カダンの目が青く光った。

 途端に孝宏は、深い色に引き込まれ、目が離せなくなった。

 孝宏は言われるでもなく、深く息を吸って、ゆっくりと吐く。


「ズ、ル……イ」


 それだけ絞りだし、抗議する。

 それに対し、カダンはニヤリと笑っただけだった。


 カダンはまず、左手の傷に口づけた。


(あぁ……熱い……)


 孝宏は左手に、ソコトラでルイに癒してもらった時とは、比べ物にならないほどの熱を感じた。

 同時に、文字通り、腹の奥が疼く。

 カダンの唇が掌に何度も落とされ、患部の上で音を立てる。


「カダン…………変な、くぅ……感じがする……っ……」


 孝宏は左手をカダンに預けたまま、空を仰ぎ目を閉じ、空いている右手の指を噛んだ。

 カダンの唇が肌を滑り、傷口を伝っていく。

 掌から手首へ、手首から腕へ。

 唇が患部を這う度、熱い吐息が体内に流れ込む度に、孝宏の腹の奥がざわついた。


 孝宏はそれが本当に恐ろしい。


 孝宏は体を強張らせ、右手をぎゅっと握り込んだ。


「まてっ……てっ……マズい……気が……はぁっ……はっ……」


 このままではいけないと思うのに、孝宏を押さえつけるカダンの腕は力強く、また、青い魔力にひきづられ、思うように力がでない。


 孝宏の形ばかりの拒絶に、カダンは、己の暗示が効いているのだと知りつつ、機嫌良くニッと笑った。



 すでに左の掌は薄っすら跡が残るばかりで、傷口はすっかり塞がっている。

 腕の傷口で塞ぎながら、カダンが左手を、孝宏の口元にかざした。

 人差し指が孝宏の唇に触れると、カダンはそのまま下に滑らせた。

 喉を通り過ぎ、胸元を撫でながら下りていく。


 孝宏は目を閉じた。

 閉じた瞼から淡い光が見えるだけになるが、想像力というのは一層増すようだ。

 カダンの指が触れた部分を痛い程に感じ、暗転した世界に、一筋の光が縦に伸びていく。


 カダンはみぞおち辺りで手を止め、掌を殴られた痣に重ねた。


 そこはアベルに思いっきり殴られた場所で、未だ、痛みの引かない所でもあった。

 それ故に、カダンはこの治療を強行したのだが、切り傷程度でこれだけ苦しいのだ。

 本命はどれだけだろうと、孝宏は一瞬身構えた。


「ぐっ……ん……?」


 カダンの掌はほんのり温かった。

 むしろ心地良く、痛いほどの熱も、むず痒さもない。


 孝宏は薄っすら目を開け見た。カダンが眉間に皺を寄せ、苦悶の表情を浮かべている。

 カダンの呼吸は浅く、吐く息が震えている。


 顔を上げ、孝宏と目が合うと、カダンは照れくさそうに頬を赤らめ、疲労感の滲む笑顔を見せた。

 カダンは孝宏の前方に伸ばし、投げ出した足をまたいで膝を付いた。水面が顔近くまで迫る。


「お……い……大丈夫、かよ?」


「ん……まだ、いける」


 カダンは両手とも指を絡ませ、しっかりと孝宏の手を握った。


「なあ……この体制……おかしくないか?な……」


 孝宏が息も切れ切れに訴えるも、次の瞬間には、驚きと痛みと苦しみとが一度に襲って来て、最後は声にならなかった。

 

 カダンは身をかがめ、孝宏の胸元に顔を埋めた。

 顔がお湯に浸かるのも構わず、カダンはみぞおちに唇を這わせ、歯を立てた。


「は!?い、いやいや。ちょっ……う、ん……」


 ここまで来ると、驚きよりも羞恥心の方が大きい。

 孝宏は腹の奥に溜まっていく熱が、先ほどよりもずっと重く、熱く、感じられ、カダンを止めるどころでなくなっていた。

 何せ、息が上手く吸えないのだ。

 熱が痛みとなり、体を内側から蝕む。息を吸う度熱が存在感を増し、孝宏は呼吸が浅く早くなっていく。


 カダンは水中から顔を出して息を整えては、繰り返しみぞおちに熱烈な口づけを繰り返した。


「イヤだカダン!駄目だ……これは……ダメ……だ……」


 必要に繰り返される行為に、孝宏は体中を熱に犯されていく。

 苦しさから逃げようと、力の限り身をよじり、何もない所を足で蹴った。

 何度もカダンの名前を呼び、止めてと懇願する。


(体の内から溶けていくみたいだ……訳わかんねえ……)


 やがて熱に浮かされ、意識が内へ内へと落ちていく。

 吐く息は荒々しく震え、汗が額を滑り落ちる。

 潤んだ瞳はもう何も映してはいない。


『ああ、熱い……ぁ……ら…、ん……ぐぅっ……』


 孝宏は訳も分からず日本語で呟いていた。


 熱と痛みと苦しさで、どうしようもなく、体が冷気を求めている。


 孝宏は身じろいで腰を浮かせ、体を仰け反らせ、淵に背中を乗せた。


 この頃になると、カダンの力も幾分か弱まっていた。少なくとも、無我夢中の孝宏が抵抗できるほどには、弱っていた。
 
 その理由を孝宏は知らなかったが、この隙を突かない理由もなく、逃れたい、その一心で抗った。


「じっと……してて……はぁ……はぁ…………加減……むず、か、し……んだ」


 カダンも苦しそうだった。


 孝宏が逃げ、温泉の淵に座ると、カダンも立ち上がり、孝宏を石が転がる地面に押し倒した。

 カダンの息は苦し気で、眼光は鋭く瞬き一つない。

 きゅっと唇を噛み、血走った眼が孝宏を見下ろした。

 カダンのシャツは塗れて肌に張り付き、普段は隠れている体のラインが露わになっている。

 引き締まり、均等のとれた筋肉は逞しく美しい。

 孝宏程度の腕力ではビクともしそうにない。


 カダンは両手でしっかりと孝宏を押さえつけると、痣に再び口づけを落とした。


『カダン、駄目……だ。く、苦しいっも、う…………はぁ……はぁ……くっ限界が……近い!』


 カダンから落ちた水滴が、孝宏の肌を滑り落ちていく。それすらも今の孝宏には刺激となり、その度に唇を噛んで耐えた。


『待って……カダ……ン!ホントっん……ヤバいって……』


 孝宏はカダンの手をぎゅっと握った。

 答えてカダンも握り返してくる。


「もう……少し、ん……だから……はぁ、はぁ……我慢して、くっはぁ……」


 孝宏は両手を上に思いっきり押し上げたが、それ以上にカダンが押し返す力が強かった。


『いや……だ、ぁあ……もうダメだ……』


 腹の奥の疼きが止まらない。熱を持ったそれが外に出たがって、今にも爆発してしまいそうだ。


「無理……い、だぁ!」



















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