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冬に咲く花
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しおりを挟むマリーの言葉を聞いて、カダンは何故が浮かない表情だ。
「俺が言うのも変だけど、どうしてそこまでするの?マリーやタカヒロには関係ないじゃないか。この村も、この世界も……」
「酷いこと言うのね。私たちもう仲間でしょう?次関係ないって言ったら、ぶっ飛ばすよ」
仲間、この単語が孝宏の胸の深い場所で引っかかった。
不確かな疑惑が、宙ぶらりんのまま心の中でブランコのように揺れている。
心拍に合わせて1・2・3、心の中で数えた。……7・8・9・10を数える時には決心がついた。
孝宏はカダンに向かい合った。
「カダンに聞きたい事があるんだ」
「な、ナニ?」
孝宏の雰囲気の変化を感じ取ったのか、カダンの声が上ずった。
「カダンさ、あの時ボウクウさんに何かしただろう?」
「あの時って?」
「結界を破った後だよ。俺とボウクウさんとカダンでいた時。ボウクウさんいきなり意見変えた」
「ああ、あれか。すごいね、どうしてわかったの?」
拍子抜けするほど、カダンはあっさり認めた。
彼の中では、特別でない出来事の一つでしかないのだろう。
感情に任せて孝宏を包む火の勢いが増した。
片手をお腹に当て、服をぎゅっと握り込んで、精神を落ち着かせようとしても、火は弱まるどころか、徐々に勢いを増している。
「やっぱりそうなんだ?」
握る拳に力が入り、そういう孝宏の声は震えている。
「余計な興味を持って欲しくなくて、ボウクウに暗示をかけたんだよ。早くどこかに行って欲しかったし」
それは最も原始的な魔法だと、カダンは言った。
どんな言葉も力を持ち、やがて現実になろうと働く性質を持っている。その言葉に魔力を乗せるだけの魔術。
本能で使う魔術なのだそうだ。
大昔にはどの種族も使えたが、今では現代では極僅かな種族が使えるだけになった。その代り、昔には無かった魔術が、今ではいたるところに溢れている。
「他の魔法と違って、形式的なのは一切ないから、気付かれたことないんだけどな。どうしてわかった?」
「そりゃぁ、見ればわかるよ」
納得のいかないカダンは何度も首を捻り、目をチカチカ光らせ、マリーと顔を合わせながらどうだろうなどと言い合っている。
「じゃあ、夕方の林でのもそうなんだ?」
「は?」
カダンは首を傾け孝宏を見た。
孝宏は全身の炎を一瞬にして消し去った。空気が肌を刺すのも気にならない。
孝宏はカダンの肩を掴んで、無理やり体をこちらを向かせた。きょとんとしたカダンと目が合う。
「林の中で、俺にも暗示をかけたろう?」
「あ……」
カダンが顔が明らかに引きつった。
暗い中でもわかる程に動揺しており、手で口を押え、視線が泳ぐ。
孝宏の手を振りほどこうと身じろぐが、孝宏が一層力を込めるのですぐに諦め、孝宏を見上げた。
「やっぱり、その魔法で俺を操ったんだ?操って、結界を燃やさせたんだ」
「いや、俺はそんな……そんなつもりじゃぁ……あ、そうじゃなくて……」
「ずっと妙な感じはしてたんだ。あれは魔法をかけられていたなんだ」
「俺はそんなつもりじゃ……誤解だよ」
「何が誤解?俺に暗示をかけのは本当だろう!?俺が鳥の力を使うように、暗示をかけたんだろう!?」
「だから俺は………」
「今更なんだって……」
「ちょっと待ちなさい!二人とも!」
孝宏とカダンの間にマリー割って入った。カダンを背にし、孝宏に向き合う。
「それまでよ。ちゃんとお互いの話を聞かないでどうするの?」
「だって……」
「だってじゃない!決めつけられて、話を聞いてもらえないのは辛いものよ?タカヒロだって解るでしょう?」
そう言われては孝宏も黙るしかなかった。
二人の間からマリーが退いて、一度はカダンと目が合ったものの、すぐに反らして俯いた。
「俺にはタカヒロが自信を持っていないように見えてた」
過剰な自信は慢心を生み、失敗の原因にもなる。逆に自身を執拗に卑下するのもまた、失敗を生む要因の一つになる。
言葉とはやがて現実になろうと働く性質を持っている。それを言霊という。
カダンの使う原始的な魔法とは違うが、言葉にするだけで、良いも悪いも起こってしまうという考え方だ。
言葉は外へ発せられるものに限定されず、思えばそれだけで自分自身に影響が出るものだ。
「だから俺は自信を持てるよう、暗示を……軽くかけた。それだけだよ。でも結界をタカヒロに壊してもらうつもりだったから、操った言えるのかな。だってそうすれば孝宏は、引き受けてくれるって分かってたから」
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