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冬に咲く花

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「僕が作った杖使ってないの?」


 火柱の影響か焦げてしまっているが、間違いなく今手に持っているのはルイから貰った、彼お手製の杖だ。


「ずっと持ち歩いているから、他のと間違えてないと思う………けど……」


 しかし、地面から吹き出したのは水ではなく火。

 どこかですり替わる事など、あり得ないと考えていても、孝宏は自信が持てず、尻すぼみに声が小さくなっていく。

 火柱は十秒ほどで小さくなり始め、三十秒も経たない内に完全に消えてしまった。後には黒く煤けた地面が残る。

 孝宏はルイに杖を渡した。


「呪文は間違いなく、水の呪文なんだけど。なんで火柱なんだろう」


 こんな棒切れルイが他にあるとは思えず、だとすると心当たりは一つしかなかった。つい先ほど判明した事実だ。


「やっぱりあの時何かあったんだ」


「あの晩?何それ」


 孝宏があの晩の出来事を口早に説明した。


「ほら、ここに来たばかりの頃。皆は俺が寝ぼけてたって、言ったあの時だよ」


「ああ!あの時。でも何も燃えていなかったし、火事の跡もどこにもなかった……よね?」


「てかついさっきカダンに言われて気がついたんだ。さっき見せたろ、凶鳥の兆したぶんあれは火傷の跡なんだよ」


 孝宏はシャツの上から、アザを押さえ付けた。


「あの時から、体の中に火が住み着いたんだ」


「待って、待って。僕には話が良く分からない。凶鳥の兆しが火傷?タカヒロは何を知ってるの?」


 何をと言われても、孝宏は凶鳥の兆しの事など、カダンから聞いただけしか知らない。持っている知識、推測も含まれるが、今話した事が全てだ。


 何も知らない。孝宏がそう言うとルイは首を横に振った。


「タカヒロは勇者でしょ?僕が魔法を使わなくても、この国の言葉を喋ったし、この世界の知識はあった」


 だから、これから起きる事も、知っていると言いたいのだろう。


 確かに孝宏は他の二人と違い初めから言葉を完ぺきに喋り、この世界に対する基礎知識もあった。

 そしてこれは誰にも言っていない事だが、嫌な事が起こるかもしれないと、予感めいたのもあったのも事実だ。


 片言だったマリーや、全く喋れなかった鈴木と比べると、謎めいてるかも知れない。

 それは自分でもそう思うのだから、ルイからすると奇妙に映っただろう。

 だが言語を操り知識もあった孝宏を、異世界から来たなど嘯く怪しい奴と責めるならまだしも、勇者にしたい彼らの気持ちはどうしても理解できない。


「初めに言ったと思うけど、俺は勇者じゃないよ」


 アザが熱を持ち、ドックン……ドックンと大きく、しかしゆっくりと脈打つ。


 おそらくはルイを呼びつけたカダンは、何か起こるとルイを急かせたのだ。だから今日中に魔力を操れるようにと言ってきたのだ。

 何か知っているのはむしろカダンの方だろう。

 夢で見たと言っていたのが本当なのか、孝宏の方こそが疑りたくなると言うものだ。


――ギャッギャッギャッギャッギャー――


 五番鳥が正午を告げる。

 祈る気持ちで見上げた空。二つの太陽が、重なり合い一つになっていた。

 大きな太陽に小さな太陽が隠れて、僅かに気温が下がった気になる。それも少しばかりの辛抱だ。


(何も起きませんように)


 祈りは二人を呼ぶ声にかき消され、立ち込めた暗雲が僅かな光さえも遮った。
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