青と虚と憂い事

鳴沢 梓

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五章 深碧の追想

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昼下がり。キャッキャと騒ぐ子供たちの声がこだまする。

目の前に座る「院長」は朗らかな女性だった。
私を一目見た瞬間、ポロポロと泣き出したので少し目が腫れている。
ひとしきり撫でられた後、応接室のような場所に通された。


「ちょっと痩せてるけど、元気そうでよかった」

彼女はそう言って麦茶の入ったグラスを置いた。


『電話でお話した通り、何も覚えてなくてごめんなさい』

記憶が無いことに罪悪感があり、まともに顔を見れない。

「生きててくれただけでよかった。そんなこといいの。それに…」

院長は少し戸惑いながらも続ける。



「ここにくれば、探してるものが全部見つかると思うから」

ズキッと、胸の奥深くが痛んだ。


「"透霞とうか"を探しているのよね?」

『はい。私の育ての親だと聞いてます』


院長は目を伏せる。神妙な面持ちでこう言った。


「___今ね、実はどこにいるか知ってるの」


思わず目を見開く。少し身を乗り出すように聞き返した。

『それで今どこに?』

「こうなる前の本人からキツく止められてたの。でも碧ちゃんなら言ってもいいわ」

そう言うと院長はおもむろに携帯を取りだし、真剣な眼差しで指を動かし続けた。


ピコン、とスマホの通知が鳴る。
この時の衝撃を、私は忘れない。


それは消したくて消した記憶。
どうしてもと願って手放した罪の記憶。
もう何も忘れない。

大事な事を、全て思い出したのだから。
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