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番外編 神楽の恋歌
七
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「話って何」
目を腫らし、ぶっきらぼうに彼女は呟く。
琴音は心底不満そうな表情を浮かべていた。
「いきなり呼び出してごめんね。
このツイートの事なんだけど」
スっとスマホを差し出すと、一切の表情を変えずに画面を覆いながら、こちらに差し戻してくる。
「よくわかったね。それで?消して欲しくて言い訳しに来たの?」
「違う、琴音にちゃんと話しておきたいことがあって」
「…ふーん?」
彼女は「どうぞ」と言って机に肘をついて、ため息を吐いた。
「…あの時、琴音に告白された時、適当な事言ってた。ごめん」
「そうね」
「俺さ、恋愛感情が湧かない人間なんだ」
そこまで言うと、彼女は俺の顔をパッと見た。
「恋愛感情も性欲も感じた事無くて、今まで誰とも関係持った事がない。付き合った人はいるけど誰に対しても好きだって思えなくて、もうやめた。
女の子に対しては、綺麗だって思った時に咄嗟に口に出しちゃうから考え無しに言ってた。
弄ぶつもりも浮ついてるつもりもない。
でも、ちゃんと話さなかった俺のせいだ。
俺がバカなせいで、泣かせて傷つけてごめん。」
俺はそう言って、彼女の顔を見ずに頭を下げた。
「今度はそういうルートで来たか」
琴音のその言葉で、何もかも伝わってない事を理解してしまった。
「…いきなりこんな事言って信じて貰えないのは分かってる」
「ん~、本当だとして今そうなってるだけじゃないの?試しに私と付き合ってみたらいつか好きになれるかもしれな」
「ない」
「え、何?」
「俺にはいつかは無い」
琴音の顔が険しくなっていく。
それを見ても、俺の言葉は止まらなかった。
「俺には今しか無い。いつかいつかって、そう思いながら押し殺して普通になろうって
何回も思った。
それで、何回もなれなかった」
「…」
彼女は何かを言おうとして押し黙る。
「俺の言動が浅はかで軽率だったのは分かってる。本当にごめん。
それでも、いつかなんて言葉は俺の中にはない。
俺がどうこう言われるのは構わないけど、俺の大切なものに迷惑がかかるような事はやめて欲しい」
「私の大切なものをぶっ壊したんだからそっちが壊されるのも当然じゃない?」
「……それは言い返せない。ごめん」
そこまで言って頭を下げる。
彼女は俺を見て、ため息をつき
もういいよ、と頭を上げさせた。
「やっと目を見て話してくれた」
え?と聞き返す前に、彼女は続ける。
「私が告白する前までは目を見て話してくれたのに、告白してからは一度も目が合わなかった。
当たり障りの無い事だけ言って何も言い返さないで、避けてばっかり」
そういえば、と以前の事を思い返した。
彼女の真っ直ぐで純粋な好意が怖かった。
理解が出来なかったし、向き合うのが嫌だった。
いつしか、適当なことばかり言って避けてきた。
全てのツケが、回り回って、来るべくして来たんだと思った。
「内容はウソくさいし相変わらず適当だけど、話してくれた事は嬉しかったから許してあげる。ほら」
そう言って琴音は俺の前にスマホを差し出した。
例のツイートが削除されていた。
「全部嘘でしたってツイートもしておくよ。
迷惑かけて、嘘ついて、酷いことしてごめんね。
でもおあいこだから」
「そうだね、ありがとう」
琴音は俺の言葉を聞くなり、普段の可愛らしい笑い方で微笑んだ。
それを見てほっと胸を撫で下ろす。
終わったんだ。
「はーあ、こんなに好きだったのに。
ほんと罪な男、今度は刺されないように気をつけなよ」
「こ、今度はないから!」
琴音はバーカ!と中指を立てながら、俺の前から立ち去った。
それを確認して、ひとりになった瞬間。
ものすごく長いため息のようなものが、口から吐き出された。
確実に自分の弱みを握られたし、言いふらされる可能性も無くはないが。
何よりあの子の笑顔をまた見られたこと。
そしてずっと隠してた事を正直に話せたのは、自分の中で大きいものだと実感した。
さっそく、心配して叱責してくれたメンバーたちに報告しなければ。
目を腫らし、ぶっきらぼうに彼女は呟く。
琴音は心底不満そうな表情を浮かべていた。
「いきなり呼び出してごめんね。
このツイートの事なんだけど」
スっとスマホを差し出すと、一切の表情を変えずに画面を覆いながら、こちらに差し戻してくる。
「よくわかったね。それで?消して欲しくて言い訳しに来たの?」
「違う、琴音にちゃんと話しておきたいことがあって」
「…ふーん?」
彼女は「どうぞ」と言って机に肘をついて、ため息を吐いた。
「…あの時、琴音に告白された時、適当な事言ってた。ごめん」
「そうね」
「俺さ、恋愛感情が湧かない人間なんだ」
そこまで言うと、彼女は俺の顔をパッと見た。
「恋愛感情も性欲も感じた事無くて、今まで誰とも関係持った事がない。付き合った人はいるけど誰に対しても好きだって思えなくて、もうやめた。
女の子に対しては、綺麗だって思った時に咄嗟に口に出しちゃうから考え無しに言ってた。
弄ぶつもりも浮ついてるつもりもない。
でも、ちゃんと話さなかった俺のせいだ。
俺がバカなせいで、泣かせて傷つけてごめん。」
俺はそう言って、彼女の顔を見ずに頭を下げた。
「今度はそういうルートで来たか」
琴音のその言葉で、何もかも伝わってない事を理解してしまった。
「…いきなりこんな事言って信じて貰えないのは分かってる」
「ん~、本当だとして今そうなってるだけじゃないの?試しに私と付き合ってみたらいつか好きになれるかもしれな」
「ない」
「え、何?」
「俺にはいつかは無い」
琴音の顔が険しくなっていく。
それを見ても、俺の言葉は止まらなかった。
「俺には今しか無い。いつかいつかって、そう思いながら押し殺して普通になろうって
何回も思った。
それで、何回もなれなかった」
「…」
彼女は何かを言おうとして押し黙る。
「俺の言動が浅はかで軽率だったのは分かってる。本当にごめん。
それでも、いつかなんて言葉は俺の中にはない。
俺がどうこう言われるのは構わないけど、俺の大切なものに迷惑がかかるような事はやめて欲しい」
「私の大切なものをぶっ壊したんだからそっちが壊されるのも当然じゃない?」
「……それは言い返せない。ごめん」
そこまで言って頭を下げる。
彼女は俺を見て、ため息をつき
もういいよ、と頭を上げさせた。
「やっと目を見て話してくれた」
え?と聞き返す前に、彼女は続ける。
「私が告白する前までは目を見て話してくれたのに、告白してからは一度も目が合わなかった。
当たり障りの無い事だけ言って何も言い返さないで、避けてばっかり」
そういえば、と以前の事を思い返した。
彼女の真っ直ぐで純粋な好意が怖かった。
理解が出来なかったし、向き合うのが嫌だった。
いつしか、適当なことばかり言って避けてきた。
全てのツケが、回り回って、来るべくして来たんだと思った。
「内容はウソくさいし相変わらず適当だけど、話してくれた事は嬉しかったから許してあげる。ほら」
そう言って琴音は俺の前にスマホを差し出した。
例のツイートが削除されていた。
「全部嘘でしたってツイートもしておくよ。
迷惑かけて、嘘ついて、酷いことしてごめんね。
でもおあいこだから」
「そうだね、ありがとう」
琴音は俺の言葉を聞くなり、普段の可愛らしい笑い方で微笑んだ。
それを見てほっと胸を撫で下ろす。
終わったんだ。
「はーあ、こんなに好きだったのに。
ほんと罪な男、今度は刺されないように気をつけなよ」
「こ、今度はないから!」
琴音はバーカ!と中指を立てながら、俺の前から立ち去った。
それを確認して、ひとりになった瞬間。
ものすごく長いため息のようなものが、口から吐き出された。
確実に自分の弱みを握られたし、言いふらされる可能性も無くはないが。
何よりあの子の笑顔をまた見られたこと。
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さっそく、心配して叱責してくれたメンバーたちに報告しなければ。
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