青と虚と憂い事

鳴沢 梓

文字の大きさ
上 下
34 / 53
番外編 神楽の恋歌

しおりを挟む
その日は騒音で目が覚めた。
誰かが玄関のドアを絶え間なく殴打していた。

寝ぼけ眼でドアの前へと向かう。
そのタイミングで、ポケットにある携帯が着信音を奏でていた。

「おい神楽!!!」

玄関を隔てて聞こえたのは隼人の声だった。
すぐにドアを開ける。

隼人はすかさずできた隙間に手を入れ、こじ開ける。
その衝撃で、思わず外に飛び出てしまった。

「おわっ」

「神楽何してんだよお前」

飛び出た拍子につまづき、なんとか体制を立て直すと
そこには怒り心頭の隼人と碧がいた。
その後ろには、不安そうな表情の悠。

「みんな勢揃いでどうしたの?こんな朝から」

「朝じゃねえよもう昼だよとりあえず中入れてもらうぞ」

ハッと携帯の画面を開くとそこには12時の文字が。
激務で疲れて寝ていたようだ。

ぼーっとしていると3人は次々に自室へ入り込んでいた。

「ごめん汚いよ」

「知ってる、この服とか全部踏むけどいいよな?」

「いや良くないって待ってよ」

ずかずか奥まで行ってしまう隼人を止めて、玄関の鍵を閉めた。



とりあえず3人をリビングの椅子に座らせ、少し待つように告げた。
ドリッパーをセットしてコーヒーを淹れる。
芳醇な香りが鼻をくすぐるが、3人の雰囲気はそれどころでは無かった。

その雰囲気に気圧されて、一言も発さずにそれぞれの前にコーヒーを置いた。

そして俺が座った瞬間に、隼人が口を開く。

「お前これ、どういうことか説明しろ」

前に置かれたのは隼人のスマホ。
そこに表示されていたのは信じ難い光景だった。


Twitterのとあるツイート。
そこには俺のアカウントがメンションされており、顔写真付きで
「Recollectionの神楽玲音に注意
妊娠したのに責任を取らず捨てられました」
と書いてある。

下を見ると既に1000以上のRTがついており大炎上していた。

見た途端、目眩がする。
何なんだこれ。

「いや、あの、身に覚えがないというか」

「ふざけんなよ!」

しどろもどろで返す俺に、隼人は激高する。

「散々気をつけろって言っただろ頭下半身野郎が、こうなる事予想出来ただろボンクラ!」

「音無さん!」

大声で怒鳴る隼人を碧が止める。

「いま碧さんがどれだけ大変な思いしてると思ってんだ?俺らもやっと売れ始めてこれからって時に何でこんな事が出来んだよ!
最もらしい言い訳があんなら言ってみろ!」

それでも隼人は止まらず喚き散らかす。
視線をそっと悠に移してみると、腕を組みながら困ったような怒ったような複雑な表情をして俺をじっと見ていた。

その後も隼人がなんやかんや言っていたが、
ただ一方的に身に覚えのない事を問い詰められた俺は、耐えられずに大声で返してしまった。

「違う!違うんだよ俺はこんなこと出来るはずがないんだよ」

「は?じゃあ言ってみろ」


隼人の言葉に、場は静まりかえる。
まるで、俺の言葉を待つという様に。


「不能なんだよ、だから無理だ」

「え?」
「ん?」
「はい?」


3人からの、理解が得られないと言う風な返答もつかの間、ひと息ついて言う。


「俺、童貞なんだ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

処理中です...