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序章
一
しおりを挟む俺の状態を敢えて気にせず走るヤマ。
身も心も繋がりたくて堪らない俺は、意地悪なヤマにポロポロ涙が溢れてくる。
「ヤマァ、ヤマァ」
「ちょ、その声は反則だって!」
俺を上下左右に激しく揺さぶりながら、どこかに運び込もうとしているらしい。
風を切り、校舎に入ったヤマ。
その足取りに迷いはなく、初めから目的地を決めていたようだ。
真っ直ぐ前だけ見ているから、目も合わない。
あぁ、涙が止まらない。
イヤだ、イヤだ、ヤマに見つめられたい。
その目に映すのは俺だけにして欲しい。
熱に浮かされた俺の耳に、両手の塞がっているヤマが足で扉を蹴飛ばす派手な音が響く。
そのまま中へと駆け込んだ先にいたのは。
「ん?
なんかあった・・・って、聞きたくねぇなぁ。
去年に続いて、今年は桜宮か?」
ヤマと俺の乱入に、早速職務放棄したがる田栗養護教諭だった。
このまま生徒会室へ向かえば、誰にも邪魔される心配もないのに。
わざとそこを避け、保健室に向かっていたらしい。
田栗養護教諭は、学園祭の負傷者対応のために教師の誰よりも先に出勤しているからな。
ヤマのことしか考えられない俺に比べ、ヤマは冷静に判断していたようだ。
それを示すように、走っている間に少しはヤマの発情が治まったらしい。
切ないと痙攣していた身体の震えは止まっていた。
でも、熱はまだ引いていない。
ここが保健室で、机の奥には田栗養護教諭が座っていて、学園祭の準備の途中で、俺達は生徒会役員で。
通常なら見ただけでわかること、状況から考えつくことが俺の頭をすり抜けていく。
重要なのは、ヤマの発情を受け止めることだ。
そのために必要なものはそこにあるじゃないか。
緩い頭で判断出来たのは、この場にヤマとベットがあるということ。
あぁ、ヤマ、なんでこんなところで立ち止まっているんだ?
早くそのベットに俺を連れて行ってくれ。
ギュッとヤマの服を掴み、心配そうに見下ろしてくるヤマへとろりと蕩けた瞳と唇で甘くねだる。
「ヤマ、早くぅ」
「うわぁ、もぉ、俺のせいでカナがこんなに可愛いなんて・・・」
俺を抱えたまま天を仰ぐヤマと、番の発情に引っ張られたままの俺。
田栗養護教諭は、乱入者達が自分の問いに応える余裕が微塵も無いとわかったらしい。
ボリボリ首の後ろや付け根を掻きながら、呆れた顔で椅子から立ち上がり、開け放たれたままの扉を閉めに動いた。
「はぁ~、避けてたってぇのに、こんな青臭い未完成なところをわざわざ俺に晒しに来るなよなぁ。
力をつける前に、へし折りたくなるだろうが」
そのボヤキも、ヤマと俺には届かない。
校門前では我慢していたヤマの愛情たっぷりなフェロモンが、瞬く間に保健室を占領。
「胸焼けするから止めろ!」
田栗養護教諭が、慌ててヤマに叫んだがもう遅い。
とろとろに蕩けた俺を抱いたヤマは、「にゃあにゃあカナが可愛くて抑えられない」とうっとり惚気けていた。
身も心も繋がりたくて堪らない俺は、意地悪なヤマにポロポロ涙が溢れてくる。
「ヤマァ、ヤマァ」
「ちょ、その声は反則だって!」
俺を上下左右に激しく揺さぶりながら、どこかに運び込もうとしているらしい。
風を切り、校舎に入ったヤマ。
その足取りに迷いはなく、初めから目的地を決めていたようだ。
真っ直ぐ前だけ見ているから、目も合わない。
あぁ、涙が止まらない。
イヤだ、イヤだ、ヤマに見つめられたい。
その目に映すのは俺だけにして欲しい。
熱に浮かされた俺の耳に、両手の塞がっているヤマが足で扉を蹴飛ばす派手な音が響く。
そのまま中へと駆け込んだ先にいたのは。
「ん?
なんかあった・・・って、聞きたくねぇなぁ。
去年に続いて、今年は桜宮か?」
ヤマと俺の乱入に、早速職務放棄したがる田栗養護教諭だった。
このまま生徒会室へ向かえば、誰にも邪魔される心配もないのに。
わざとそこを避け、保健室に向かっていたらしい。
田栗養護教諭は、学園祭の負傷者対応のために教師の誰よりも先に出勤しているからな。
ヤマのことしか考えられない俺に比べ、ヤマは冷静に判断していたようだ。
それを示すように、走っている間に少しはヤマの発情が治まったらしい。
切ないと痙攣していた身体の震えは止まっていた。
でも、熱はまだ引いていない。
ここが保健室で、机の奥には田栗養護教諭が座っていて、学園祭の準備の途中で、俺達は生徒会役員で。
通常なら見ただけでわかること、状況から考えつくことが俺の頭をすり抜けていく。
重要なのは、ヤマの発情を受け止めることだ。
そのために必要なものはそこにあるじゃないか。
緩い頭で判断出来たのは、この場にヤマとベットがあるということ。
あぁ、ヤマ、なんでこんなところで立ち止まっているんだ?
早くそのベットに俺を連れて行ってくれ。
ギュッとヤマの服を掴み、心配そうに見下ろしてくるヤマへとろりと蕩けた瞳と唇で甘くねだる。
「ヤマ、早くぅ」
「うわぁ、もぉ、俺のせいでカナがこんなに可愛いなんて・・・」
俺を抱えたまま天を仰ぐヤマと、番の発情に引っ張られたままの俺。
田栗養護教諭は、乱入者達が自分の問いに応える余裕が微塵も無いとわかったらしい。
ボリボリ首の後ろや付け根を掻きながら、呆れた顔で椅子から立ち上がり、開け放たれたままの扉を閉めに動いた。
「はぁ~、避けてたってぇのに、こんな青臭い未完成なところをわざわざ俺に晒しに来るなよなぁ。
力をつける前に、へし折りたくなるだろうが」
そのボヤキも、ヤマと俺には届かない。
校門前では我慢していたヤマの愛情たっぷりなフェロモンが、瞬く間に保健室を占領。
「胸焼けするから止めろ!」
田栗養護教諭が、慌ててヤマに叫んだがもう遅い。
とろとろに蕩けた俺を抱いたヤマは、「にゃあにゃあカナが可愛くて抑えられない」とうっとり惚気けていた。
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