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死の国
一
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その国に、死は存在しない。
はずだった。
足を踏み入れた途端、耐え難い死臭が鼻を劈いた。
中央都市には、人とは言えない化け物が跋扈し
破壊し尽くされ、もはや生存者はひとりも確認できなかった。
明らかに、神は死んでいる。
人も、鬼も、誰も彼も死んでいる。
こうなれば神の亡骸と魂を探すのみ。
僕は救済者ではない。
この国を救うことは出来ない。
瓦礫と死体で埋め尽くされた街を、気をつけながら進んだ。
様子を伺いながら、かつての死の国を思い出していた。
死の国《ネフポリス》
科学の発展により死が存在しない、死を超越した国として知られている大きな国家だ。
この国の技術は、朽ちた身体から魂を取り出し、作られた別の器に入れ替えることにより永遠に生きられる、らしい。
魂を抽出する技術と、器という名の新しい身体を作る技術。
当然だがこの技術が確立されてからというもの、不死を求めるものが殺到し、少し前に処置を受けられる国民を限定していた。
これも全て、人間だけの話だが。
僕みたいな鬼人は、そもそもの体が強すぎる為に致命傷を負う事がない。
そして歳を取るたびに力が摩耗することも無い。
ほぼ不老不死みたいなものだ。
そしてネフポリスの技術は鬼人には使えない。
鬼人たちは望んで不老不死として生まれてきた訳では無い。
人間が何故そんなに永遠に生きたいと願うのか。
この話を聞いた時、理解が出来なかったのを覚えている。
風が冷たい。
空も暗い。空気も、心底悪い。
ザクッザクッと地面を踏む音だけが響く。
だが、そんな画期的な技術を持つネフポリスは
他の国と同様《災厄》に見舞われた。
「正義の国」とも呼ばれているこの国は、神の力で動く《正義の秤》で極めて公平な裁判が行われている。
その秤は《災厄》から国民を守れなかった神を
死刑にした、らしい。
情報屋から聞いた話を信じるのは心底馬鹿らしかったが、こうして国を訪れて、全ての話が真実だったのだろうと悟った。
情報を整理しても、この国の状況は絶望的だ。
だが神の死後、見たことの無い化け物が彷徨いているのはどうしてなのだろうか。
と、ブツブツ呟きながら歩いていると前方に人の影が見えた。
何も考えず、一目散に駆け出した。
「うわあ!」
「グオォオオ」
人だ!人が怪物に襲われている。
怪物の背後に周り、すぐさま首を切り落とす。
怪物は大きな音を立て、そのまま倒れた。
「はあ、あ……」
『大丈夫か?』
生きている人間がいる。
とても綺麗な顔をした青年だった。
青年は息を荒らげ、俯いている。
「はあ……ありがとう、ございます」
『気にするな。
申し訳ないがひとつ聞きたいことが……__
そう口にした瞬間、背後から化け物の声がした。
一体だけではない。
『まずいな』
この子を守りながら大きな化け物を複数体相手にするのは分が悪すぎる。
どうしたものかと悩んでいると、青年が立ち上がって手をこまねいていた。
「お兄さん、こっちに」
どうやら逃げ道を知っているようだ。
僕はそのまま化け物に背を向け、青年を追いかけた。
はずだった。
足を踏み入れた途端、耐え難い死臭が鼻を劈いた。
中央都市には、人とは言えない化け物が跋扈し
破壊し尽くされ、もはや生存者はひとりも確認できなかった。
明らかに、神は死んでいる。
人も、鬼も、誰も彼も死んでいる。
こうなれば神の亡骸と魂を探すのみ。
僕は救済者ではない。
この国を救うことは出来ない。
瓦礫と死体で埋め尽くされた街を、気をつけながら進んだ。
様子を伺いながら、かつての死の国を思い出していた。
死の国《ネフポリス》
科学の発展により死が存在しない、死を超越した国として知られている大きな国家だ。
この国の技術は、朽ちた身体から魂を取り出し、作られた別の器に入れ替えることにより永遠に生きられる、らしい。
魂を抽出する技術と、器という名の新しい身体を作る技術。
当然だがこの技術が確立されてからというもの、不死を求めるものが殺到し、少し前に処置を受けられる国民を限定していた。
これも全て、人間だけの話だが。
僕みたいな鬼人は、そもそもの体が強すぎる為に致命傷を負う事がない。
そして歳を取るたびに力が摩耗することも無い。
ほぼ不老不死みたいなものだ。
そしてネフポリスの技術は鬼人には使えない。
鬼人たちは望んで不老不死として生まれてきた訳では無い。
人間が何故そんなに永遠に生きたいと願うのか。
この話を聞いた時、理解が出来なかったのを覚えている。
風が冷たい。
空も暗い。空気も、心底悪い。
ザクッザクッと地面を踏む音だけが響く。
だが、そんな画期的な技術を持つネフポリスは
他の国と同様《災厄》に見舞われた。
「正義の国」とも呼ばれているこの国は、神の力で動く《正義の秤》で極めて公平な裁判が行われている。
その秤は《災厄》から国民を守れなかった神を
死刑にした、らしい。
情報屋から聞いた話を信じるのは心底馬鹿らしかったが、こうして国を訪れて、全ての話が真実だったのだろうと悟った。
情報を整理しても、この国の状況は絶望的だ。
だが神の死後、見たことの無い化け物が彷徨いているのはどうしてなのだろうか。
と、ブツブツ呟きながら歩いていると前方に人の影が見えた。
何も考えず、一目散に駆け出した。
「うわあ!」
「グオォオオ」
人だ!人が怪物に襲われている。
怪物の背後に周り、すぐさま首を切り落とす。
怪物は大きな音を立て、そのまま倒れた。
「はあ、あ……」
『大丈夫か?』
生きている人間がいる。
とても綺麗な顔をした青年だった。
青年は息を荒らげ、俯いている。
「はあ……ありがとう、ございます」
『気にするな。
申し訳ないがひとつ聞きたいことが……__
そう口にした瞬間、背後から化け物の声がした。
一体だけではない。
『まずいな』
この子を守りながら大きな化け物を複数体相手にするのは分が悪すぎる。
どうしたものかと悩んでいると、青年が立ち上がって手をこまねいていた。
「お兄さん、こっちに」
どうやら逃げ道を知っているようだ。
僕はそのまま化け物に背を向け、青年を追いかけた。
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