平安ROCK FES!

優木悠

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第三章 まもるやつら

三ノ六 救出開始

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 翌日、朱天組の家にやってきたさかえを居間に通すと、彼女は懐から手紙をとりだして朱天に渡した。

「兄からの手紙が届けられました。届けてくれたのは、なんでも、山田氏の使用人らしいのですが、閉じ込められている兄を不憫に思い、手紙だけでも渡したいと思った、ということでした」

 朱天はそれを手に取って広げて、縁側から差し込む陽射しにてらして読んだ。

「というと、この手紙というのは……。ふむふむなるほど。お兄さんである新庄史生は山田大丞の屋敷に捕らわれて、書類の改ざんをさせられている、と。ふむふむ、なんと、仕事が終わったら口封じに殺される。仕事が終わる三日後の夜に助けに来て欲しい。今は見張りが三人いて厳重だが、仕事が終わった直後なら警戒もゆるむだろう。なるほど」

「届けられたのは昨日の夕刻でしたので、刻限まであと二日になります」

「ううむ」

「いかがなさいました。なにかご不審な点でも?」

 朱天の頭の片隅になにかひっかかるようなものがあったが、それがなにかはわからない。
 手紙を二度ほど読み返したが、なにかおかしいという気はするのだが、どこがどうおかしいとは言えない。
 のどに魚の骨が刺さったような気分ではあったが、

「なるほど、ではさっそく救出作戦の準備をはじめましょう」

 朱天は、さかえを安心させるように、にこやかに言うのだった。

「なんでしたら、俺が今夜にでも忍び込んでさらってきましょうか。いくら警戒が厳重とはいえ、数人ならなんとかなりますよ」

 と切り出した虎丸に、

「いや、どうも、この仕事が終わった後に、というところに意味がある気がするんだ」

「けど仕事が終わったとたんに、殺されたらどうしようもないぜ」茨木が言う。

「屋敷内で殺害する、という可能性は低いと俺は見ている。仕事が終わった後に新庄氏が家に帰る、その道すがら、なんていうのはありそうだ。夜盗の仕業と見せかけられるしな」

「じゃあどうする、二日後の夜にでも山田屋敷に潜入して、隠れて機会を待つか」金時が案をだした。

「そうだな、その辺がよさそうだ。虎丸は、屋敷に忍び込んで詳しい見取り図を作ってくれ。星は武器を調達してきてくれ。ちょっとしゃくだが、あやめ殿を頼ろう」



 そうして翌日、荷車に乗せられて、あやめから届けられた武器は、

 太刀五本、大太刀三本、槍十本、弓八張り、矢数十本、皮の鎧六領、手裏剣、煙玉、鈎爪エトセトラ、エトセトラ。

「おいおい、俺達はこれから合戦にでもいくのかよ」

 朱天があきれて言うのへ、星が、

「あって困るものでもないだろうと、お頭が」

「いや、困るから」

 ほぼ同時に、山田屋敷の見取り図も出来上がってきた。
 綿密に偵察して屋敷内の建物の配置が描きこまれていただけではなく、屋敷の周囲の家家も丹念に描かれており、虎丸のその手腕は、頼光四天王の碓井貞光の密偵としてならしただけのことはあった。

「みんな、この絵図を頭に叩き込んでおけ」

 と朱天組の面面に回して覚えさせた。



 そして、次の日、夕闇にまぎれて朱天達は行動を開始した。

 五条西洞院の山田屋敷まで行くと、身軽な虎丸が塀を乗り越えて侵入し、裏木戸を開け、そこからぞろぞろと朱天組は屋敷内へと入っていった。

 新庄宗親の監禁されている離れ家を取り囲むようにして、ばらばらになって庭木の影に伏せ、時を待った。
 朱天、茨木、虎丸が屋敷の内で、星、熊八、金時が屋敷の外で見張る。
 内側にいるメンバーは、屋敷内で新庄が殺されかけた場合に凶行をとめるために、外のメンバーは、新庄が連れ出された場合に奪い去るために。

 冴え冴えとした初冬の、満月に近い月がのぼり、火がなくても人の顔が判別できるくらいの明るさがあった。

 冷たい夜がだんだんふけていく。

 いいかげん、配置についた朱天組の面面もあくびを何度も噛み殺しはじめたころであった。

 離れのなかから、

「おお、ようやってくれた。ありがとう、ありがとう」

 と甲高い声が聞こえてきた。

 山田助広のものであろう。

「これで心置きなく、民部省へと移れるわえ」

「いえいえ、お世話になった大丞のためですから」

 話しながら、ふたりの影が縁側に現れた。

「なんとけなげな。私は感涙にむせぶよ、新庄史生。では、お礼に一献差し上げよう」

「お心づかいは大変ありがたいのですが、私はすぐにでも家に帰りたいのです。家の者も心配しているでしょうし」

「そうか、では引きとめるのも悪いな。夜もずいぶん更けてしまったし、従者に送らせよう」

「いえいえ大丈夫です。ひとりで帰れます」

「そう言わないで、ぜひ送らせてくれたまえ」

 と、その時である。

 山田大丞が、

「あ痛っ!?」

 何かが頭に当たったのか、額を押さえて、

「誰だ、誰かいるのか!?」
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