平安ROCK FES!

優木悠

文字の大きさ
上 下
20 / 72
第二章 たすけるやつら

二ノ二 面倒な人助け

しおりを挟む
「いやあ、さて、どこから話してよいものやら、さっぱりだよ」

 自分から悩みを聞けと言いながら、男は頭の中でなにもまとめていないようすであった。

「あそうそう、私の名前は上野孝安うえの たかやすと言う。地下じげ(下級公家)の三男であるが、縁あって藤原実資ふじわら さねすけ様に仕えている。自慢ではないが、そこそこ実資様には気に入っていただいており、身の回りのお世話などもやらせてもらっている」

 ケヤキの下で話しを聞く朱天組の者らを風が撫で過ぎて行った。
 陽射しはまだ暑いくらいだったが、風にはもう秋の気配が感じられる。
 朱天達の、秋風のような冷たい視線に気づいたか、孝安は、

「おほん」
 とひとつ咳払い。
「それでだ、私は賭け事が大好きだ」

「知らんがな」茨木が思わずツッコミを入れてしまう。

「それでだ、先日、鮫九郎さめくろうという男と知り合った。獅子蔵というならず者を束ねる男の子分で、一家での位のほどはわからぬが、そこそこの地位にいる男であった」

 ――獅子蔵一家か。

 と朱天の心に嫌なものがこみあげてきた。
 あの時は、熊八の一件できわどい橋を渡ったものだ。

「で、その鮫九郎と、双六をすることになった。ひょんなことから、まあ、酒を呑んだ勢いで。で、勝負の流れははぶくが、結果、俺は負けた。大負けだ」

「それで、借金がかさんだから、どうにかしてくれか?」朱天は首すじを掻いた。「獅子蔵親分とはひと悶着あったから、あんまり近づきたくないんだよな」

「まてまて、そう先を急ぐな。で、そういう負け双六が、まあ、なんというか、何回も続いて、いや、何十回と続いてだな、俺は莫大な借金を背負ってしまった」

「知らんがな」茨木があきれた。

「まあ、それくらいなら、なにも悩むことはない。実資様には大目玉を喰らうだろうし、場合によっては追放されるだろうが、命にかかわることではない。が、命にかかわる仕儀にいたってしまった」

「回りくどいだな、早く結論を話してくれ」さすがののんびり屋熊八も先をうながした。

「鮫九郎がある時こう言うんだ。藤原北家に伝わる釈迦如来像という絵画を見せて欲しい。まあ、門外不出の品ではあるが、見るだけで借金が減るならと安易な考えで、釈迦如来様の掛け軸を持ち出し、とある空き家で鮫九郎に見せた。そうして、酒を呑んで見物しているうちに、私はいつのまにか眠ってしまい、気がつけば、鮫九郎も掛け軸も姿を消していた、と言うわけだ」

「そりゃお前、完全にハメられたんじゃねえの。眠り薬とか入れられたんだよ」茨木はさらにあきれている。

「いや、そうなんだけどさ。これが実資様に知られたら、追放で済む話じゃないんだよ、ヘタすると、首を切り落とされかねないくらいの大事おおごとだよ」

「なんとしても、中納言様(実資のこと)に気づかれる前に、釈迦如来の掛け軸を取り戻したい、というわけだ」朱天がまとめた。

「そう」

「むり」

「んな殺生な」

「殺生もなにも、俺達は獅子蔵親分とは因縁があるの。近づきたくないの」

「そう言わないで、ね、助けて、お願い」

「そ、そう言われてもな。う~ん、どうしようかな」

「迷うなよ、ダンナ」

「いや、だって茨木、こいつかわいそうじゃん」

「かわいそうじゃねえよ。自業自得だよ」

「そうだなぁ」朱天が頭をひねる「獅子蔵親分を避けて、うまく鮫九郎だけと接触できたらいいんだがな」

「そういうことなら」と虎丸がぼそりと言った。「俺の得意分野だ。そいつを見つけ出して、引っ張り出してこよう」

「おお、虎丸が意外と乗り気だ。やってくれるか」

「けど、ひっぱりだしてどうするよ」

「そこだよ茨木。ひっぱりだしたところで、借金を返す銭もねえしな。そうだな、もういちど賭けをして取り戻すか」

「そう簡単にいくのかよ。だいいち、双六とかできるのかよ」

規則ルールは知ってるんだがな、俺、まったく苦手なんだ。お前はどうだ、茨木」

「いや、まったく知らねえ」

「他のみんなは」

 虎丸、熊八、星が、一斉に首を横に振った。

「う~ん、何か手を考えよう。必ず勝つ賭けをな」

「必ず勝つ?勝てるのか?そんな賭けがあるのか?」不安げに孝安が問うた。

 朱天はただ、にやりと不敵に笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。  だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。 その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。

黄金の檻の高貴な囚人

せりもも
歴史・時代
短編集。ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを囲む人々の、群像劇。 ナポレオンと、敗戦国オーストリアの皇女マリー・ルイーゼの間に生まれた、少年。彼は、父ナポレオンが没落すると、母の実家であるハプスブルク宮廷に引き取られた。やがて、母とも引き離され、一人、ウィーンに幽閉される。 仇敵ナポレオンの息子(だが彼は、オーストリア皇帝の孫だった)に戸惑う、周囲の人々。父への敵意から、懸命に自我を守ろうとする、幼いフランツ。しかしオーストリアには、敵ばかりではなかった……。 ナポレオンの絶頂期から、ウィーン3月革命までを描く。 ※カクヨムさんで完結している「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」のスピンオフ短編集です https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129 ※星海社さんの座談会(2023.冬)で取り上げて頂いた作品は、こちらではありません。本編に含まれるミステリのひとつを抽出してまとめたもので、公開はしていません https://sai-zen-sen.jp/works/extras/sfa037/01/01.html ※断りのない画像は、全て、wikiからのパブリック・ドメイン作品です

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

浅葱色の桜

初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。 近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。 「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。 時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

風と夕陽と子守唄 ――異聞水戸黄門――

北浦寒山
歴史・時代
孤高の渡世人・文十と謎の遊び人・小八郎。ひょんなことから赤ん坊抱え、佐倉へ運ぶ二人旅。 一方、宿命に流される女・お文と水戸藩士・佐々木は別の事情で佐倉へ向かう。 小八郎を狙うは法目の仁兵衛。包囲網が二人を追う。 迫る追手は名うての人斬り・黒野木兄弟は邪剣使い。 謀略渦まく街道過ぎて、何が起こるか城下町。 寒山時代劇アワー・水戸黄門外伝。短編です。 ※他サイトでも掲載。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...