平安ROCK FES!

優木悠

文字の大きさ
上 下
4 / 72
第一章 うごめくやつら

一ノ四 ライバルは渡辺綱

しおりを挟む
「ウォッ!ウォッ!ウォッ!ウォッ!ウォッ!ウォーーーッ!」

 朱天の奏でる琵琶の音にあわせて、茨木が躍る。
 観客が、それにあわせて喚声をあげる、手を叩く。

 朱天のほとんど自己流の情熱的な音楽と、茨木の前衛的な踊りとが、ぴったりとシンクロする。
 朱天も茨木も、自分の音楽や踊りと調和する表現者などこの世にいないと思っていた。
 それが、今、現れた。

 この感情の昂揚。

 ひとりでパフォーマンスしていた時とはまるで違う、異様な感覚に、ふたりはつつまれていた。

 ちなみにここは三条大橋たもとの広場。
 つい昨日、ふたりが放免に難癖をつけらたばかりの場所であった。

 でもかまやしない。
 また来るなら、来い。
 今の俺達は無敵だぜ。
 少なくとも音楽と踊りでは。

 すると、突然観客が静まり返った。

 朱天も茨木もぴんときた。
 またきた、放免だな。

 が、人垣を太刀で伐り割るように割ってあらわれたのは、見た所二十なかばの目元涼やかであるが、刃物のような冴えた光をもつ瞳を持った男。
 頭には細纓さいえいの冠、紺色の闕腋けってきほう(動きやすいように脇を縫い付けない着物)に身を包み、目にもまぶしい朱鞘の太刀を佩き颯爽と立っている。
 背後には同じような衣装に身を包んだ男たちを数人従えている。

「やめろ」

 静かに、目つきと同じ刃物のような冷たさで、男は言った。

 しかし、朱天は演奏をやめない。
 茨木も踊りをやめない。

 男は無表情のまま、ゆっくりと、太刀を引き抜いた。
 春の陽射しがきらりと刀身に反射した。

 そしてその切っ先を、つっと茨木に突きつけて、

「やめろ」

 もう一度言った。

「ああん?俺に言ってんのか、兄ちゃん」

 茨木が動きをとめ、突きつけられた切っ先をものともせずに言った。

「口のきき方に気をつけろ。我が名は渡辺綱わたなべのつな源頼光みなもとのよりみつ公、四天王が筆頭である」

「ははははは。なんでえ、偉そうにのたまわっているが、我が輩は虎の威を借る狐です、ってことじゃあねえか」

 綱の眉がピクリと、わずかにひきつったが、誰もそれには気づかない。

「貴様であろう、昨日、五条河原で放免達相手に大立ち回りを演じたという、奇妙ないでたちの男というのは」

「だったら、なんだってんだ」

「おとなしく、縛につけ」

「つかん」

「おい」
 と綱は後ろの子分たちに向けて、
「誰か、この下郎に太刀を貸してやれ。素手の男を斬ったとなれば、武士の名折れだからな」

「よろしいので」子分のひとりが答えた。

「かまわん」

「はっ」と答えて、ひとりの男が前に出、鞘ぐるみ茨木に突き出した。

 茨木は刀のつかだけつかんで抜いた。

「腕の一本ぐらいは覚悟しろよ、赤髪」

「お前さんは、命のひとつくらい覚悟しろよ、頼光の狐」

 ふたりは、じっと見合った。

 ふたりは、刀を構えない。

 ふたりは、だらりと腕をたらし、互いの目を見つめている。

 見つめ合う目と目の間の空気が凍りついたようにかたまった。

 そしてふたりは同時に動いた。

 太刀と太刀が、彼らの中間で火花を散らした。

 パキン。

 冷たい音とともに、二本の太刀が折れた。

 なかばから折れた二本の太刀の先の方が、虚空でくるくると回転しつつ、同時に大地に突き刺さった。

 子分たちが、いっせいに綱をかばおうと、身を乗り出すのを、手をあげて綱が制した。

「よい。この勝負は引き分けだ」

 そう無表情に、冷静極まりない調子で言うと、綱はくるりとひるがえって、歩き出す。

 その後を追う子分たちのひとりに、ほいと茨木が刀をなげる。
 子分があわててそれを受けとって、去っていった。

 一団が去っていくのを腕を組んで見送った茨木は、

「なんだい、ありゃあ」あきれたようにつぶやく茨木に、

「今を時めく藤原道長の側近、源頼光の一の家臣さ」朱天が答えた。

「左大臣の子分の子分、じゃねえか、それであそこまで偉そうにできるもんかねえ」

「さあ」

「あ~あ、なんかしらけちまったなあ」

「今日はけっこう稼げたし、なんかうまいもんでも食いに行くか、茨木」

「だな、朱天のダンナ」

「つっても、昨日の四条河原の飯屋な」

「いや、あそこはうまくねえから」

 ぼやきながらも、朱天と茨木は四条河原に向かって歩きだした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

金蝶の武者 

ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。 関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。 小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。 御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。 「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」 春虎は嘆いた。 金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

空蝉

横山美香
歴史・時代
薩摩藩島津家の分家の娘として生まれながら、将軍家御台所となった天璋院篤姫。孝明天皇の妹という高貴な生まれから、第十四代将軍・徳川家定の妻となった和宮親子内親王。 二人の女性と二組の夫婦の恋と人生の物語です。

戦国三法師伝

kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。 異世界転生物を見る気分で読んでみてください。 本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。 信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

けもの

夢人
歴史・時代
この時代子供が間引きされるのは当たり前だ。捨てる場所から拾ってくるものもいる。この子らはけものとして育てられる。けものが脱皮して忍者となる。さあけものの人生が始まる。

柿ノ木川話譚4・悠介の巻

如月芳美
歴史・時代
女郎宿で生まれ、廓の中の世界しか知らずに育った少年。 母の死をきっかけに外の世界に飛び出してみるが、世の中のことを何も知らない。 これから住む家は? おまんまは? 着物は? 何も知らない彼が出会ったのは大名主のお嬢様。 天と地ほどの身分の差ながら、同じ目的を持つ二人は『同志』としての将来を約束する。 クールで大人びた少年と、熱い行動派のお嬢様が、とある絵師のために立ち上がる。 『柿ノ木川話譚』第4弾。 『柿ノ木川話譚1・狐杜の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/905878827 『柿ノ木川話譚2・凍夜の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/50879806 『柿ノ木川話譚3・栄吉の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/398880017

処理中です...