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第三章 路のとちゅう
三の八
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清彦はお結を右腕にかかえて、ひたすら走った。普段ののっそりした彼の動作を知っている人がみたら、きっと驚くほど俊敏に、彼は走った。
左脇の、罅がはいった肋骨がずきずきと痛んだ。だがけっして、それを我慢しているわけではなく、興奮で感覚が麻痺してしまっていて、まるで気にもとめないのだった。
――やった、やったぞ。
清彦は狂喜していた。
とうとう、おゆいを取り返すことができた。あの桐野という男のもくろみが完璧なまでに図に当たった。
あの新選組隊士は云った、私の云うとおりに行動すれば必ず娘をとりかえせる、と。
「おゆいは、わたしのものだ、わたしのものだ」
清彦は、こみあげる喜悦をそのまま言葉にして、つぶやくのだった。
この数日、一生懸命に自分を押し殺し、お結をなでまわしたい衝動をこらえ、あの善人ぶった川井という愚か者に頭をさげつづけた成果を、やっとこの手につかむことができたのだ。
その時、右腕に激痛が走った。悲鳴をあげて立ちどまる。
みると、かかえたお結が、腕に噛みついている。
きいきいと、甲高い悲鳴をあげつづけながら、清彦が強引におゆいをひきはがした。そして、街道脇の草むらに、彼女を投げ飛ばした。
お結はすぐに立ちあがり、西にある雑木林にむかって逃げ出した。
「おゆい、おゆい、どこへいく、まて、まつんだ」
息をきらしながら、清彦は叫び、お結を必死の形相で追いかける。
雑木林の手前で、お結に追いついた彼は、彼女の衿をつかんで引き倒した。
「悪い子っ、人を噛むなんて、とっても悪い子っ」
叱りながら、清彦は噛まれた傷を舐めた。それは、痛みをやわらげようと無意識に傷を舐めてしまう本能の動作というより、腕に付着したお結の唾液を丹念に舐め、悦楽にひたっているようであった。
這って逃れようとするお結を、清彦は、反対向きに、つまり、彼女の尻が彼の正面になるように抱え込んだ。
もがいて逃げようとするお結を、片膝をついた姿勢でしっかりと抱えてはなさない。もう、絶対にはなすものかというくらいの執念のこもった腕力で、お結の腹を締めつけるのだった。
「いけない子っ、おまえは、いけない子、ぺんぺんですよっ」
赤ちゃんを叱責するように叫びながら、清彦は、お結の尻を、手のひらで叩いた。何度も、何度も、叩いた。お結の尻の柔らかさを堪能するように、いくども叩きつづけるのだった。ひとつ叩くたびに彼は陶酔していった。必死に苦痛と羞恥を耐える彼女の口からもれでる喘ぎ声に、彼女の身体の熱に。
その耽溺のひと時を邪魔するように、どこかから人が叫ぶ声がする。
「お結、どこだ、お結」
首をまわすと、街道の雑木林に囲まれた一角から、馬にまたがって川井という男が飛びだしてきた。
「おじちゃんっ」
お結が叫んだ。
清彦は彼女をくるりとひっくりかえすと、後ろから抱きしめて、地面に押し倒し、口を手でふさいだ。
こうして草の陰に隠れていれば、みつかることはないだろう。
そして隠れながら、彼は、信十郎に嫉妬した。
あの男は、お結の心の扉を開いていた。清彦の前ではけっして出すことのなかった、感情のこもったお結の叫び声を耳にして、それを察した。
そして彼は信十郎を怨んだ。お結を連れ去り、自分を散々殴打し、人生を、未来を無茶苦茶にした男を、凄絶に怨んだ。
お結が清彦の手ひらを噛んだ。
「痛いっ」
噛まれた痛みで、完全に逆上した清彦はお結の背中にまたがった。腕で頭を押さえつけ、彼女が息ができなくなるほど、思いっきりすべての体重を小さな身体にのせ、
「いけない子、いけない子、おちおきですよっ」
云いながら、あいた手でまたお結の尻をぶちはじめた。
ぴしりぴしりと、尻を叩くたびに響く音色が、彼の耳に心地よくしみわたってくるのだった。
左脇の、罅がはいった肋骨がずきずきと痛んだ。だがけっして、それを我慢しているわけではなく、興奮で感覚が麻痺してしまっていて、まるで気にもとめないのだった。
――やった、やったぞ。
清彦は狂喜していた。
とうとう、おゆいを取り返すことができた。あの桐野という男のもくろみが完璧なまでに図に当たった。
あの新選組隊士は云った、私の云うとおりに行動すれば必ず娘をとりかえせる、と。
「おゆいは、わたしのものだ、わたしのものだ」
清彦は、こみあげる喜悦をそのまま言葉にして、つぶやくのだった。
この数日、一生懸命に自分を押し殺し、お結をなでまわしたい衝動をこらえ、あの善人ぶった川井という愚か者に頭をさげつづけた成果を、やっとこの手につかむことができたのだ。
その時、右腕に激痛が走った。悲鳴をあげて立ちどまる。
みると、かかえたお結が、腕に噛みついている。
きいきいと、甲高い悲鳴をあげつづけながら、清彦が強引におゆいをひきはがした。そして、街道脇の草むらに、彼女を投げ飛ばした。
お結はすぐに立ちあがり、西にある雑木林にむかって逃げ出した。
「おゆい、おゆい、どこへいく、まて、まつんだ」
息をきらしながら、清彦は叫び、お結を必死の形相で追いかける。
雑木林の手前で、お結に追いついた彼は、彼女の衿をつかんで引き倒した。
「悪い子っ、人を噛むなんて、とっても悪い子っ」
叱りながら、清彦は噛まれた傷を舐めた。それは、痛みをやわらげようと無意識に傷を舐めてしまう本能の動作というより、腕に付着したお結の唾液を丹念に舐め、悦楽にひたっているようであった。
這って逃れようとするお結を、清彦は、反対向きに、つまり、彼女の尻が彼の正面になるように抱え込んだ。
もがいて逃げようとするお結を、片膝をついた姿勢でしっかりと抱えてはなさない。もう、絶対にはなすものかというくらいの執念のこもった腕力で、お結の腹を締めつけるのだった。
「いけない子っ、おまえは、いけない子、ぺんぺんですよっ」
赤ちゃんを叱責するように叫びながら、清彦は、お結の尻を、手のひらで叩いた。何度も、何度も、叩いた。お結の尻の柔らかさを堪能するように、いくども叩きつづけるのだった。ひとつ叩くたびに彼は陶酔していった。必死に苦痛と羞恥を耐える彼女の口からもれでる喘ぎ声に、彼女の身体の熱に。
その耽溺のひと時を邪魔するように、どこかから人が叫ぶ声がする。
「お結、どこだ、お結」
首をまわすと、街道の雑木林に囲まれた一角から、馬にまたがって川井という男が飛びだしてきた。
「おじちゃんっ」
お結が叫んだ。
清彦は彼女をくるりとひっくりかえすと、後ろから抱きしめて、地面に押し倒し、口を手でふさいだ。
こうして草の陰に隠れていれば、みつかることはないだろう。
そして隠れながら、彼は、信十郎に嫉妬した。
あの男は、お結の心の扉を開いていた。清彦の前ではけっして出すことのなかった、感情のこもったお結の叫び声を耳にして、それを察した。
そして彼は信十郎を怨んだ。お結を連れ去り、自分を散々殴打し、人生を、未来を無茶苦茶にした男を、凄絶に怨んだ。
お結が清彦の手ひらを噛んだ。
「痛いっ」
噛まれた痛みで、完全に逆上した清彦はお結の背中にまたがった。腕で頭を押さえつけ、彼女が息ができなくなるほど、思いっきりすべての体重を小さな身体にのせ、
「いけない子、いけない子、おちおきですよっ」
云いながら、あいた手でまたお結の尻をぶちはじめた。
ぴしりぴしりと、尻を叩くたびに響く音色が、彼の耳に心地よくしみわたってくるのだった。
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