帯刀医師 田村政次郎

神部洸

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第一話 上野の辻斬り

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 深夜、田村政次郎は何者かに抱きしめられるような感覚に目を覚ました。その犯人はお花だった。
 お花は隣の政次郎の布団に入ってきて政次郎を抱きしめながら静かに寝ていた。それから政次郎は、振り払うこともできず、でも諦めて寝ることもできずに朝を迎えてしまった。 
 その後一睡もできなかった政次郎のもとに一人の同心がやってきた。
 田中隆太郎と名乗った男は、近くを流れる川の辺りで変死体が出たので検分してほしいとの事だった。今からでも寝てしまいたい身体を押してその川へ向かった。
 
 川についた頃には野次馬に囲まれていた。その人々をかき分けるように中へと入り死体を確認した。
 死体は武家の男と見られ、胴をたったの一閃されただけで絶命していた。心配そうに政次郎を見ていた隆太郎に、
「この死体は、胴を一閃された事により絶命したと思われます。」
またかと落胆する隆太郎にどうかしたのかと問うと
「上野の辻斬りですよ聴いたことぐらいあるでしょ」
上野の辻斬り。自分の頭の中を探し回ったが、そんな言葉は出て来ない。上野の辻斬りとは何か聞くと近頃上野で武家の者だけを、よく晴れた夜に、しかも胴をたったの一閃で斬り殺す、悪魔のような辻斬りで、今までに6人が殺されていると言う。
 それを聞いた政次郎は、急ぎ家へと帰り、夜に備えて寝た。
 お花に事情を話すと、止めておけと何度も言われたが、もはや政次郎は止められなかった。
 まるで政次郎には、今夜の天気が晴天の夜空になることが分かっているかのように。
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