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ただのアクセサリーだと思っていたのに
しおりを挟む「マーガレット先輩、少し、よろしいですか?」
生徒会室で二人きりになったところを見計らって、私は彼女に話しかけた。
先輩は嫌な顔一つせず、笑顔でこちらを向いてくれる。
「あら、何でしょう?」
「……ゾフィー・ドロテアの件で。生徒会が彼女に目をつけているというのは本当ですか?」
これまで、マーガレット先輩がゾフィーのことをどう思っているのか、ゾフィーの事情をどこまで知っているのか、面と向かって訊ねたことはなかった。だから勇気を出して切り出してみたのだけど、
「本当です。彼女は非常に優秀な生徒ではありますが、同時に危険分子も孕んでいますから」
マーガレット先輩の口調はきっぱりしていた。
それから私の顔を見て、決まり悪そうに付け加える。
「貴女のご友人を悪く言うつもりはないのですが」
「……ゾフィーはただ、勉強熱心なだけですわ」
「彼女が図書室で、どのような書物を読み漁っているのかはご存知?」
いいえ、とかぶりを振ると、
「魅了魔法、記憶操作、人体の入れ替わり――どれも物騒なものばかりです」
豊富な知識と高度な技術、そして何より才能がなければ扱えない、禁忌魔法。
「今のところ、彼女が禁忌魔法を使ったという証拠はありませんが……」
黙り込む私に、マーガレット先輩は言いづらそうに続けた。
「エメリン、貴女が彼女と親しくなった理由も、禁忌魔法によるものではないかという、疑いの声も上がっておりまして……」
それは違うと断言したかった。
けれど、
「マーガレット先輩、屋上での出来事、本当に何も覚えていないのですか?」
「え? ええ」
不思議そうに瞬きを繰り返す先輩を前にすると、正直、自信がない。
――もう、誰のことも疑わないと決めたのに……。
「エマ、何かあったの?」
帰りの馬車の中、心配そうにジョシュアに顔を覗き込まれて、私はそのことを話した。
彼は笑って、私の不安を吹き飛ばした。
「残念ながら、エマに関しては、それはありえない」
「どうしてですか」
「エマにあげたその指輪、魔法効果を打ち消す力があるんだ」
ただのアクセサリーだと思っていたのに。
思わずぎょっとしてしまう。
「発動中は石の色が赤色に変化するんだけど、どうだった?」
「変色したことは一度もありません」
「だったら大丈夫だよ」
やっぱりジョシュアはすごいと感心しつつ、指輪を見下ろす。
「さすがに大掛かりな魔法までは無効化できないけどね」
「……結界魔法とかですか?」
「そう。あと時間操作の魔法とか」
その言葉に、どきりとしてしまう。
「どれも膨大な魔力を必要とするし、効力も広範囲に及ぶから。あ、でも、エマの魔力量なら、無効化できるかも」
今度試してみる? と言われて、ぶんぶんと首を横に振る。
「む、難しそうなので、お断りします」
「そんなことないよ。指輪の石の部分に魔力を注ぎ込むだけだから」
改めて考えると、妙な感じだった。
今の私は、魔力を暴走させたことで一年前に戻り、過去をやり直している状態だ。
「例えばの話ですけど」
そう前置きして、私は慎重に口を開いた。
「時間操作の魔法が無効化されると、どうなるのですか?」
「魔法を行使する前の状態に戻る」
あっけらかんとしたジョシュアの言葉に、ショックを覚えた。
これまでのことが全て、なかったことにされるなんて……。
「心配しなくても、さすがのゾフィーでも、時間操作の魔法までは使えないよ。あれは発動中、常に体内の魔力を消費し続けるから。王族の中でも、特に強力で膨大な魔力を有する者にしか行使できない」
それは知らなかった。
――だから最近、魔法の練習をしなくても、魔力が体内に蓄積されないのね。
思わず考え込んでしまったらしく、ジョシュアが不機嫌そうな顔でじっと私を見ていた。
「ゾフィーのことがそんなに頭から離れない?」
「そういうわけでは……」
「そうだ、エマ。明日の昼休み、中庭に来てくれないかな?」
とびきりの笑顔を浮かべてジョシュアは言った。
「君に見せたいものがあるんだ」
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