上 下
18 / 23

ただのアクセサリーだと思っていたのに

しおりを挟む



「マーガレット先輩、少し、よろしいですか?」



 生徒会室で二人きりになったところを見計らって、私は彼女に話しかけた。

 先輩は嫌な顔一つせず、笑顔でこちらを向いてくれる。



「あら、何でしょう?」

「……ゾフィー・ドロテアの件で。生徒会が彼女に目をつけているというのは本当ですか?」



 これまで、マーガレット先輩がゾフィーのことをどう思っているのか、ゾフィーの事情をどこまで知っているのか、面と向かって訊ねたことはなかった。だから勇気を出して切り出してみたのだけど、



「本当です。彼女は非常に優秀な生徒ではありますが、同時に危険分子も孕んでいますから」



 マーガレット先輩の口調はきっぱりしていた。

 それから私の顔を見て、決まり悪そうに付け加える。



「貴女のご友人を悪く言うつもりはないのですが」

「……ゾフィーはただ、勉強熱心なだけですわ」

「彼女が図書室で、どのような書物を読み漁っているのかはご存知?」



 いいえ、とかぶりを振ると、



「魅了魔法、記憶操作、人体の入れ替わり――どれも物騒なものばかりです」



 豊富な知識と高度な技術、そして何より才能がなければ扱えない、禁忌魔法。



「今のところ、彼女が禁忌魔法を使ったという証拠はありませんが……」



 黙り込む私に、マーガレット先輩は言いづらそうに続けた。



「エメリン、貴女が彼女と親しくなった理由も、禁忌魔法によるものではないかという、疑いの声も上がっておりまして……」



 それは違うと断言したかった。

 けれど、



「マーガレット先輩、屋上での出来事、本当に何も覚えていないのですか?」

「え? ええ」



 不思議そうに瞬きを繰り返す先輩を前にすると、正直、自信がない。



 ――もう、誰のことも疑わないと決めたのに……。 



「エマ、何かあったの?」



 帰りの馬車の中、心配そうにジョシュアに顔を覗き込まれて、私はそのことを話した。

 彼は笑って、私の不安を吹き飛ばした。



「残念ながら、エマに関しては、それはありえない」

「どうしてですか」

「エマにあげたその指輪、魔法効果を打ち消す力があるんだ」



 ただのアクセサリーだと思っていたのに。

 思わずぎょっとしてしまう。



「発動中は石の色が赤色に変化するんだけど、どうだった?」

「変色したことは一度もありません」

「だったら大丈夫だよ」



 やっぱりジョシュアはすごいと感心しつつ、指輪を見下ろす。



「さすがに大掛かりな魔法までは無効化できないけどね」

「……結界魔法とかですか?」

「そう。あと時間操作の魔法とか」



 その言葉に、どきりとしてしまう。



「どれも膨大な魔力を必要とするし、効力も広範囲に及ぶから。あ、でも、エマの魔力量なら、無効化できるかも」



 今度試してみる? と言われて、ぶんぶんと首を横に振る。



「む、難しそうなので、お断りします」

「そんなことないよ。指輪の石の部分に魔力を注ぎ込むだけだから」



 改めて考えると、妙な感じだった。

 今の私は、魔力を暴走させたことで一年前に戻り、過去をやり直している状態だ。



「例えばの話ですけど」



 そう前置きして、私は慎重に口を開いた。



「時間操作の魔法が無効化されると、どうなるのですか?」

「魔法を行使する前の状態に戻る」



 あっけらかんとしたジョシュアの言葉に、ショックを覚えた。

 これまでのことが全て、なかったことにされるなんて……。



「心配しなくても、さすがのゾフィーでも、時間操作の魔法までは使えないよ。あれは発動中、常に体内の魔力を消費し続けるから。王族の中でも、特に強力で膨大な魔力を有する者にしか行使できない」



 それは知らなかった。



 ――だから最近、魔法の練習をしなくても、魔力が体内に蓄積されないのね。



 思わず考え込んでしまったらしく、ジョシュアが不機嫌そうな顔でじっと私を見ていた。



「ゾフィーのことがそんなに頭から離れない?」

「そういうわけでは……」

「そうだ、エマ。明日の昼休み、中庭に来てくれないかな?」



 とびきりの笑顔を浮かべてジョシュアは言った。



「君に見せたいものがあるんだ」



 

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

最愛の人が他にいるのですけど

杉本凪咲
恋愛
ああ、そういうことですか。 あなたは彼女と関係をもっていて、私を貶めたいのですね。 しかしごめんなさい、もうあなたには愛はありません。

処理中です...