55 / 59
美食の街ルエドで愛の告白に舌鼓
55
しおりを挟む「アネーシャ、見て。綺麗な花が咲いているよ」
「うわぁホントだーきれー」
「セリフが棒読み。露骨に興味ないね」
「私、花より団子派なので」
「そんなドヤ顔で言わなくても」
朝食後、アネーシャはダガーを連れて外へ出た。部屋でじっとしているよりも、動き回ったほうが記憶が戻りやすいだろうと思ったからだ。
「ダガーはどこか行きたいところある?」
「特には……」
「だったらギルドに行ってみようか?」
「ああ、そういえばドラゴンハンターだったね、僕は」
「他人事みたいに言うねぇ」
「実際、他人事みたいに感じるんだ」
「ウルスさんに会ったら何か思い出すかも」
「……うるす?」
「ドラゴンスレイヤーのウルス・ラグナさん。シアの……ダガーの大好きな人だよ」
彼もジェミナと同じく、しばらく宿にも戻っていないので、果たしてギルドにいるかどうかは分からないが、とりあえず行ってみることにする。ギルドは町外れにあるので、結構な距離だ。それでもお昼頃には着くだろうし、運がよければ一緒に……、
「アネーシャにとってはどういう人なの?」
考え事をしていたせいか、「へ?」と聞き返してしまう。
「君もその彼のことが大好きなのかい?」
「そ、そんな、ま、ましゃか……」
動揺するあまり噛んでしまった。
そんなアネーシャを見、ダガーはガッカリしたように肩を落とす。
「そうか、好きなんだね」
「か、勝手に決めつけないで」
「なら嫌い?」
「そんなわけ……」
「素直じゃないね」
哀れむような視線を向けられて、「うー」と言葉に詰まってしまう。
「それとも素直になれない理由でもあるのかな?」
鋭い。
「例えば彼は妻子持ちとか?」
「独身です」
「特定の相手がいる可能性は?」
「……無きにしも非ず」
なるほど、とダガーはうなずく。
「さぞかしモテる男なんだろうね」
「……そう」
「そして君は自分に自信がない」
その言葉に、アネーシャは愕然としてしまう。
――聖女でなくなったら、もう二度と、コヤ様の声を聞くことはできない。
――そしてコヤ様は新しい聖女のところへ行っちゃう。
――私は絶対に結婚しない。
コヤと離れたくないから、コヤとずっと一緒にいたいから。
だからこれまで、ウルスへの淡い恋心を認められずにいた。
懸命に気づかないふりをしてきた。
けれど今ダガーに指摘されたことで、気づいてしまったことがある。
――聖女でなくなったら、私は無価値な孤児に戻ってしまう。
美しくもなければ教養もない。
実の母親ですら見放した自分を、ウルスは愛してくれるだろうか?
愛し続けてくれるだろうか?
ダガーの言う通りだ。
アネーシャは自分に自信がなかった。
――けれど聖女であり続ければ、コヤ様がそばにいてくれる。
たとえ老いて醜くなってしまっても、コヤは愛してくれるだろう。
信者たちは自分を必要としてくれるだろう。
アネーシャは愛されたかった。
俯いて唇を噛み締めるアネーシャを見、ダガーは慌てた。
「アネーシャ、ごめん。気に障ったのなら謝る」
「……記憶喪失のくせに……よくも他人の急所を……」
「本当にごめん。傷つけるつもりはなかったんだ」
道中、立ち寄った土産物店でたらふくお菓子を奢ってもらい、アネーシャはようやく機嫌を直した。それでも、ダガーに言われた言葉がずっと胸に突き刺さっていて、自然と足取りが重くなってしまう。
「アネーシャ、あれがギルドかい?」
「正確には出張所ね」
ただし、この町にはドラゴンの肉を扱う高級料理店が数多くあるので、討伐依頼も多いらしく、出張所とはいえそこそこ大きな造りになっている。ハンターが寝泊りできる部屋もあるらしい。
出入口付近へ行くと、中からぞろぞろとハンターらしき男たちが出てきた。
「まさか神殺しの剣の捜索依頼までくるとはな」
「ドラゴン関係ねぇじゃん」
「盗んだ犯人が凶暴な奴なんだろ、きっと」
「……または組織的犯行か」
「町長直々の依頼じゃ、断れねぇしな」
「おまえ、受けるか?」
「報酬は魅力的だよなぁ」
「俺はやらねぇぞ。どうせ骨折り損のくたびれ儲けだ」
開けっ放しの扉から、アネーシャは首を伸ばして中をのぞきこむ。
幸いなことに、彼はいた。
ウルスは長身なのですぐに見つけられたものの、
「……誰、あの女」
「どうしたんだい、アネーシャ。怖い顔して」
「女と話してる」
「誰? ウルスさんが?」
「……そう」
アネーシャの後ろからダガーも中を覗き込む。
「うわぁ、すごい美人だ」
グサッ。
「それにずいぶんと親しげだね」
グサッ。
「もしかして恋人かな」
その言葉が決定打となった。
色々な意味で打ちのめされたアネーシャはよろよろと後退する。
「か、帰る」
「大丈夫だよ、アネーシャ。僕は君のほうが好みだからね」
「う、嬉しくない」
追い打ちをかけられて、アネーシャはその場から逃げるように駆け出した。
0
お気に入りに追加
1,496
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
持ち主を呪い殺す妖刀と一緒に追放されたけど、何故か使いこなして最強になってしまった件
玖遠紅音
ファンタジー
王国の大貴族であり、魔術の名家であるジーヴェスト家の末っ子であるクロム・ジーヴェストは、生まれつき魔力を全く持たずに生まれてしまった。
それ故に幼いころから冷遇され、ほぼいないものとして扱われ続ける苦しい日々を送っていた。
そんなある日、
「小僧、なかなかいい才能を秘めておるな」
偶然にもクロムは亡霊の剣士に出会い、そして弟子入りすることになる。
それを契機にクロムの剣士としての才能が目覚め、見る見るうちに腕を上げていった。
しかしこの世界は剣士すらも魔術の才が求められる世界。
故にいつまでたってもクロムはジーヴェスト家の恥扱いが変わることはなかった。
そしてついに――
「クロム。貴様をこの家に置いておくわけにはいかなくなった。今すぐ出て行ってもらおう」
魔術師として最高の適性をもって生まれた優秀な兄とこの国の王女が婚約を結ぶことになり、王族にクロムの存在がバレることを恐れた父によって家を追い出されてしまった。
しかも持ち主を呪い殺すと恐れられている妖刀を持たされて……
だが……
「……あれ、生きてる?」
何故か妖刀はクロムを呪い殺せず、しかも妖刀の力を引き出して今まで斬ることが出来なかったモノを斬る力を得るに至った。
そして始まる、クロムの逆転劇。妖刀の力があれば、もう誰にも負けない。
魔術師になれなかった少年が、最強剣士として成り上がる物語が今、幕を開ける。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる