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最後の戦いの後日譚
害獣を追い返す
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翌朝、カナタは宿舎で目を覚ました。
新しい部屋にはまだ慣れなくて、起きるごとにここはどこだったかと思い出す必要があった。
彼は身支度を整えて朝食を済ませた後、魔法使い相談所に所属している他の者たちとの世間話を通じて情報交換をした。
メリルたちのいた世界のようにモンスターの脅威に晒されることはなく、どちらかというとカナタが初めに訪れたウィリデの情勢に近いようだ。
魔法使いへの依頼が害獣駆除なっていることからもそれが窺える。
それに少なくともトリムトの町近辺では戦乱の気配もない。
かつての戦いはカナタを消耗させた側面もあり、平和であることにホッと胸をなで下ろすのであった。
手持ち無沙汰になり宿舎を出たが、ホイヤーのところへ行くには早い時間である。
カナタは他の魔法使いに教わったカフェで時間がすぎるのを待った。
ハーブティーを何杯かおかわりして、待つのに飽きてきた頃、正午の鐘が鳴った。
彼はカフェを出てホイヤーの店へと向かった。
店の前に到着するとホイヤーが背中を伸ばして、ストレッチのようなものをしていた。
「どうも、こんにちは」
「おう。そろそろ来るところだと思った」
カナタが声をかけるとホイヤーは待っていたと言わんばかりの様子だった。
彼はついてくるように言って、店の中に歩いていった。
続けて中に入ると、ホイヤーは店内で何かを触っていた。
カナタの目にはそれが依頼した装置であることが理解できた。
「昨日、たまたまアロイスに会ってな」
「へえ、そうなんですか」
「害獣の件で農家の人らは困ってるそうだな」
ホイヤーはそこまで話したところで、金属製の鐘のようなものを見せた。
頂点の部分に細い穴が空いており、そこから糸を通すことが分かる。
「たった一日でこれだけのことができるんですね」
カナタは見本に見せられたものと同じものが複数置かれていることに気づいて、感心したような声を上げた。
「大したこたあない。これなんだが、アロイスから面白い素材をもらって工夫してみた。ほれ触ってみ」
カナタは言われるがままに触れてみた。
触った感じはただの金属で違いが分からない。
「魔法のことはよく分からんが、ほんのちょびっと魔力を流すんだ」
「魔力、ですか?」
カナタは戸惑いつつわずかな魔力を手にした完成品へと流した。
その直後、けたたましい音が鳴り響いた。
「ええっ? 何ですか!?」
ホイヤーはこうなることが分かっていたかのように耳栓をしていた。
それを外してカナタの質問に答える。
「糸が通っていればオンとオフが切り替わるんだが、今はオンのままになっとる。だから、魔力が流れると大きな音が鳴るっちゅうわけだ。またわし直々に微調整はさせてもらうが、糸伝いに振動が伝わると作動するようになっとる」
「うーん、なるほど」
カナタは耳鳴りの残る両耳に手を当てながら、ホイヤーの話に頷いた。
あれだけの音が出るのならば、きっと害獣も逃げていくだろうと手応えを感じた。
その一方で確実に作動するのか半信半疑だった。
異世界でもサラリーマンの時の癖が残っているのか、依頼人――クンツ――に対してしっかりしたかたちで応じたいと思った。
「ところで、今って忙しいですか?」
「これから昼休みにしようと思ったが、手伝いがいるなら協力しちゃろう」
「ありがとうございます。それが実際に作動するか確かめたくて。二人で設置した方が早いですし」
「そりゃわしが作った以上、作った本人が手伝えば早いわな」
ホイヤーはにんまりと笑い、乗り気のようで同行してくれるようだ。
彼は必要な道具と完成した装置を手にすると、カナタと鍛冶屋を出発した。
途中で糸を雑貨屋で購入して、クンツの畑へと向かった。
ちょうど農夫たちもお昼時のようで、皆で地面に座って昼食中だった。
カナタがクンツに声をかけると、好きにやってくれと返ってきた。
それから、獣が出没しやすい奥の方に向かった。
奥まって人の目が届きにくく、トウモロコシが収穫を控えていることで、獣に狙われやすいようだ。
カナタはもちろんのこと、ホイヤーとクンツも猟師ではないため、どんな動きをしてどこに仕かければいいのか想像するしかない。
カナタとホイヤーは話し合いながら、作物を囲うように糸を伸ばしていく。
「捕まえるならともかく、追い払うだけでいいなら楽勝だわい」
「鍛冶をやられているだけあって器用ですね」
ホイヤーは荷物に入れて抱えてきた棒を軸にして、糸を張り巡らしていた。
カナタにはそれが何か分からないが、地面と接する部分を固定しているので、簡単に抜けそうにはないように見える。
二人で糸を張る作業を終えると、ホイヤーが等間隔で鐘のような装置をつけ始めた。
すでに張られた糸と鐘を結んで振動が伝わるか確かめている。
「たぶん、最初のうちは誤作動もあるかもしれん。お前さんの依頼人には申し訳ないがな」
「こちらこそそこまで報酬があるわけでもないのに」
「アロイスとは長い付き合いだしな。わしはこれを改良して儲けることもできる。この畑の分に関しては、ちゃんとアフターフォローもしっかりするから安心せい」
「ありがとうございます」
カナタはホイヤーの職人としての矜持に感心するのだった。
新しい部屋にはまだ慣れなくて、起きるごとにここはどこだったかと思い出す必要があった。
彼は身支度を整えて朝食を済ませた後、魔法使い相談所に所属している他の者たちとの世間話を通じて情報交換をした。
メリルたちのいた世界のようにモンスターの脅威に晒されることはなく、どちらかというとカナタが初めに訪れたウィリデの情勢に近いようだ。
魔法使いへの依頼が害獣駆除なっていることからもそれが窺える。
それに少なくともトリムトの町近辺では戦乱の気配もない。
かつての戦いはカナタを消耗させた側面もあり、平和であることにホッと胸をなで下ろすのであった。
手持ち無沙汰になり宿舎を出たが、ホイヤーのところへ行くには早い時間である。
カナタは他の魔法使いに教わったカフェで時間がすぎるのを待った。
ハーブティーを何杯かおかわりして、待つのに飽きてきた頃、正午の鐘が鳴った。
彼はカフェを出てホイヤーの店へと向かった。
店の前に到着するとホイヤーが背中を伸ばして、ストレッチのようなものをしていた。
「どうも、こんにちは」
「おう。そろそろ来るところだと思った」
カナタが声をかけるとホイヤーは待っていたと言わんばかりの様子だった。
彼はついてくるように言って、店の中に歩いていった。
続けて中に入ると、ホイヤーは店内で何かを触っていた。
カナタの目にはそれが依頼した装置であることが理解できた。
「昨日、たまたまアロイスに会ってな」
「へえ、そうなんですか」
「害獣の件で農家の人らは困ってるそうだな」
ホイヤーはそこまで話したところで、金属製の鐘のようなものを見せた。
頂点の部分に細い穴が空いており、そこから糸を通すことが分かる。
「たった一日でこれだけのことができるんですね」
カナタは見本に見せられたものと同じものが複数置かれていることに気づいて、感心したような声を上げた。
「大したこたあない。これなんだが、アロイスから面白い素材をもらって工夫してみた。ほれ触ってみ」
カナタは言われるがままに触れてみた。
触った感じはただの金属で違いが分からない。
「魔法のことはよく分からんが、ほんのちょびっと魔力を流すんだ」
「魔力、ですか?」
カナタは戸惑いつつわずかな魔力を手にした完成品へと流した。
その直後、けたたましい音が鳴り響いた。
「ええっ? 何ですか!?」
ホイヤーはこうなることが分かっていたかのように耳栓をしていた。
それを外してカナタの質問に答える。
「糸が通っていればオンとオフが切り替わるんだが、今はオンのままになっとる。だから、魔力が流れると大きな音が鳴るっちゅうわけだ。またわし直々に微調整はさせてもらうが、糸伝いに振動が伝わると作動するようになっとる」
「うーん、なるほど」
カナタは耳鳴りの残る両耳に手を当てながら、ホイヤーの話に頷いた。
あれだけの音が出るのならば、きっと害獣も逃げていくだろうと手応えを感じた。
その一方で確実に作動するのか半信半疑だった。
異世界でもサラリーマンの時の癖が残っているのか、依頼人――クンツ――に対してしっかりしたかたちで応じたいと思った。
「ところで、今って忙しいですか?」
「これから昼休みにしようと思ったが、手伝いがいるなら協力しちゃろう」
「ありがとうございます。それが実際に作動するか確かめたくて。二人で設置した方が早いですし」
「そりゃわしが作った以上、作った本人が手伝えば早いわな」
ホイヤーはにんまりと笑い、乗り気のようで同行してくれるようだ。
彼は必要な道具と完成した装置を手にすると、カナタと鍛冶屋を出発した。
途中で糸を雑貨屋で購入して、クンツの畑へと向かった。
ちょうど農夫たちもお昼時のようで、皆で地面に座って昼食中だった。
カナタがクンツに声をかけると、好きにやってくれと返ってきた。
それから、獣が出没しやすい奥の方に向かった。
奥まって人の目が届きにくく、トウモロコシが収穫を控えていることで、獣に狙われやすいようだ。
カナタはもちろんのこと、ホイヤーとクンツも猟師ではないため、どんな動きをしてどこに仕かければいいのか想像するしかない。
カナタとホイヤーは話し合いながら、作物を囲うように糸を伸ばしていく。
「捕まえるならともかく、追い払うだけでいいなら楽勝だわい」
「鍛冶をやられているだけあって器用ですね」
ホイヤーは荷物に入れて抱えてきた棒を軸にして、糸を張り巡らしていた。
カナタにはそれが何か分からないが、地面と接する部分を固定しているので、簡単に抜けそうにはないように見える。
二人で糸を張る作業を終えると、ホイヤーが等間隔で鐘のような装置をつけ始めた。
すでに張られた糸と鐘を結んで振動が伝わるか確かめている。
「たぶん、最初のうちは誤作動もあるかもしれん。お前さんの依頼人には申し訳ないがな」
「こちらこそそこまで報酬があるわけでもないのに」
「アロイスとは長い付き合いだしな。わしはこれを改良して儲けることもできる。この畑の分に関しては、ちゃんとアフターフォローもしっかりするから安心せい」
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