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最後の戦いの後日譚
畑の様子と農場主
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カナタはどのような獣がいるか確かめようとするが、すでに逃げた後のようで、姿を見ることはできなかった。
彼は農夫たちの様子が落ちついてから、そのうちの一人に声をかけた。
「相談所の依頼で訪れた者です。害獣について教えてもらえますか?」
十代後半の若者から中年までと年齢層は幅広いようだ。
その中で精悍な顔立ちの男性がカナタに応じた。
「おおっ、よく来てくれた。オレは農場主のクンツだ」
「カナタです。よろしく」
「それで害獣についてだったな。ちょうど逃げられたところだが、シカがよく来るんだ。それとイノシシも。シカは姿を現すからマシな方で、イノシシは人間を警戒して夜中に来るんだ。そもそも見回りは畑仕事じゃないからな。ホント、こればっかりはたまらんよ」
クンツのことを気の毒に思いつつ、カナタは害獣について知ることができたと思った。
ウィリデでは巨大なウサギだったが、ここではモンスターというよりも野生動物の食害などに困っているようだ。
「まずはシカから何とかしましょうか。日中かつ姿を見せるなら、何かしらできることはあると思います」
「よしっ、そういうことか。シカは懲りずに来るだろうから、その辺で待ってれば、そのうちに現れるだろうよ」
「今日は様子見になりそうですけど、お邪魔じゃなければ待ってみます」
「ああっ、よろしく頼んだぜ。――あと、これをやるよ」
クンツが何かを投げて、カナタに手渡した。それはトウモロコシだった。
もっとも、日本で見かけるような黄色い粒のものとは色が異なる。
紫キャベツのように、粒が紫色に染まっているのだ。
「これ、食べれるってことですか?」
「そこそこ甘くてみずみずしいから、のどを潤すのにいいぜ」
「ありがとうございます」
カナタはトウモロコシを掲げて、感謝を示した。
彼がそれをかじると、クンツの説明通りにほのかな甘みがした。
「とりあえず、オレは畑仕事に戻る。シカなりイノシシなりが近づいたら、よろしく頼むぜ」
「ええ、任せてください」
カナタはしっかりとした声で言った。
同じところで立ったままというわけにもいかず、彼は畑の周りを歩き出した。
広大な面積に色んな作物が育っている。
ウィリデにも農耕地は存在したが、こことは野菜の種類が異なるようだ。
クンツたちが追い払ったばかりであるため、害獣の気配は感じられない。
周囲の木々や茂みが隠れみのになっている感もあるが、全て伐採するわけにもいかないだろう。
日本人のカナタからすれば、自然破壊のようなことは提案しにくい面もある。
「……まずは見回りをしてみるか」
すぐに姿を現すようには見えないが、依頼を引き受けた以上は状況を把握する必要がある。
カナタは周囲の状況を観察しながら、畑の周囲を歩き回った。
広大な土地を二回りしたところで、カナタはクンツに声をかけることにした。
動物の気配はなく、やることが何もなかった。
「あの、害獣の気配がないみたいで、いるだけなのは依頼としてどうなのかなと」
「いや、いるだけでいいんだ。人がいるだけで近づく可能性が下がる。まあ、いても関係なく来ることもあるんだが……。魔法が使えるなら、それで追い払ってくれてもいいんだぜ」
「ああっ、そういうことですか」
カナタはクンツと意思疎通が十分ではなかったと気づいた。
依頼を引き受けた者としてやるべきことも、会話を通じて明確になった。
彼がクンツから離れたところで、少し離れた茂みが動いたように見えた。
「――おっ、あれは」
じっと見守っていると、一頭のシカが姿を現した。
日本にいるものよりも体毛が黒く、角の生え方も変わっている。
目当ては作物のようで、葉物野菜をかじろうとするところだった。
「……ここからだと距離が遠いか」
カナタは体内の魔力に意識を向けると、片方の手を掲げて火球を放つ。
それは直線的にシカへと飛来して、角先をかすめていった。
「――ビャッ!?」
シカは甲高い鳴き声を出すと、一目散に茂みの中へと引き返していった。
「これで同じ個体はしばらく来ないけど、他にもいるんだよな」
カナタはシカの出てきた茂みへと足を運んだ。
近くで確かめると背の高い草がびっしりと生えている。
とてもではないが、奥まで歩いていくのは難しそうだ。
いつかの巨大なウサギの時は勝手を知るエルネスと二人だった。
しかし、今は一人で対応せざるを得ない状況にある。
過去を思い返すことで、カナタの中に懐かしい気持ちが湧き上がった。
感傷に浸りつつ、彼はあることに気づいた。
害獣に困っているという割には柵のようなものもなければ、接近を知らせるような音た出る類(たぐい)のものも見当たらない。
これでは農夫たちがいる時にしか、害獣に気づくことはできないだろう。
「彼らは意図的に設置していないのか、あるいはそういった意識を持ち合わせていないのか……。いずれにしても、提案するだけしてみる意味はありそうな気がするな」
カナタは茂みの前から離れると、クンツの元へと移動を開始した。
彼は農夫たちの様子が落ちついてから、そのうちの一人に声をかけた。
「相談所の依頼で訪れた者です。害獣について教えてもらえますか?」
十代後半の若者から中年までと年齢層は幅広いようだ。
その中で精悍な顔立ちの男性がカナタに応じた。
「おおっ、よく来てくれた。オレは農場主のクンツだ」
「カナタです。よろしく」
「それで害獣についてだったな。ちょうど逃げられたところだが、シカがよく来るんだ。それとイノシシも。シカは姿を現すからマシな方で、イノシシは人間を警戒して夜中に来るんだ。そもそも見回りは畑仕事じゃないからな。ホント、こればっかりはたまらんよ」
クンツのことを気の毒に思いつつ、カナタは害獣について知ることができたと思った。
ウィリデでは巨大なウサギだったが、ここではモンスターというよりも野生動物の食害などに困っているようだ。
「まずはシカから何とかしましょうか。日中かつ姿を見せるなら、何かしらできることはあると思います」
「よしっ、そういうことか。シカは懲りずに来るだろうから、その辺で待ってれば、そのうちに現れるだろうよ」
「今日は様子見になりそうですけど、お邪魔じゃなければ待ってみます」
「ああっ、よろしく頼んだぜ。――あと、これをやるよ」
クンツが何かを投げて、カナタに手渡した。それはトウモロコシだった。
もっとも、日本で見かけるような黄色い粒のものとは色が異なる。
紫キャベツのように、粒が紫色に染まっているのだ。
「これ、食べれるってことですか?」
「そこそこ甘くてみずみずしいから、のどを潤すのにいいぜ」
「ありがとうございます」
カナタはトウモロコシを掲げて、感謝を示した。
彼がそれをかじると、クンツの説明通りにほのかな甘みがした。
「とりあえず、オレは畑仕事に戻る。シカなりイノシシなりが近づいたら、よろしく頼むぜ」
「ええ、任せてください」
カナタはしっかりとした声で言った。
同じところで立ったままというわけにもいかず、彼は畑の周りを歩き出した。
広大な面積に色んな作物が育っている。
ウィリデにも農耕地は存在したが、こことは野菜の種類が異なるようだ。
クンツたちが追い払ったばかりであるため、害獣の気配は感じられない。
周囲の木々や茂みが隠れみのになっている感もあるが、全て伐採するわけにもいかないだろう。
日本人のカナタからすれば、自然破壊のようなことは提案しにくい面もある。
「……まずは見回りをしてみるか」
すぐに姿を現すようには見えないが、依頼を引き受けた以上は状況を把握する必要がある。
カナタは周囲の状況を観察しながら、畑の周囲を歩き回った。
広大な土地を二回りしたところで、カナタはクンツに声をかけることにした。
動物の気配はなく、やることが何もなかった。
「あの、害獣の気配がないみたいで、いるだけなのは依頼としてどうなのかなと」
「いや、いるだけでいいんだ。人がいるだけで近づく可能性が下がる。まあ、いても関係なく来ることもあるんだが……。魔法が使えるなら、それで追い払ってくれてもいいんだぜ」
「ああっ、そういうことですか」
カナタはクンツと意思疎通が十分ではなかったと気づいた。
依頼を引き受けた者としてやるべきことも、会話を通じて明確になった。
彼がクンツから離れたところで、少し離れた茂みが動いたように見えた。
「――おっ、あれは」
じっと見守っていると、一頭のシカが姿を現した。
日本にいるものよりも体毛が黒く、角の生え方も変わっている。
目当ては作物のようで、葉物野菜をかじろうとするところだった。
「……ここからだと距離が遠いか」
カナタは体内の魔力に意識を向けると、片方の手を掲げて火球を放つ。
それは直線的にシカへと飛来して、角先をかすめていった。
「――ビャッ!?」
シカは甲高い鳴き声を出すと、一目散に茂みの中へと引き返していった。
「これで同じ個体はしばらく来ないけど、他にもいるんだよな」
カナタはシカの出てきた茂みへと足を運んだ。
近くで確かめると背の高い草がびっしりと生えている。
とてもではないが、奥まで歩いていくのは難しそうだ。
いつかの巨大なウサギの時は勝手を知るエルネスと二人だった。
しかし、今は一人で対応せざるを得ない状況にある。
過去を思い返すことで、カナタの中に懐かしい気持ちが湧き上がった。
感傷に浸りつつ、彼はあることに気づいた。
害獣に困っているという割には柵のようなものもなければ、接近を知らせるような音た出る類(たぐい)のものも見当たらない。
これでは農夫たちがいる時にしか、害獣に気づくことはできないだろう。
「彼らは意図的に設置していないのか、あるいはそういった意識を持ち合わせていないのか……。いずれにしても、提案するだけしてみる意味はありそうな気がするな」
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