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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

最後の戦い―異空間の死闘― その2

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「――はっ!」

 再び火球が飛来したところで、シモンが前に出た。

 彼は両手を正面に突き出し、魔術の壁のような物を発動した。
 炎を遮るように光の膜が展開される。

 押しこまれそうになったが、シモンは見事に防ぎ切った。

「ふうっ、何とかやれましたね」
「シモン、大丈夫なのか」
「たくさんは無理ですね。早めに決着を頼みます」

 シモンの言葉に頷き、攻撃魔術を準備する。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 敵が遠慮なしならば、こちらも手加減している場合ではないだろう。

 マナがショートしない程度に限界まで威力を高める。

 俺は両手を掲げて、雷魔術を発動した。
 激しい稲妻が魔女目がけて飛んでいく。

 エルネスの発動した火球も同じタイミングで向かった。

 二つの魔術は見えない壁にぶつかることなく魔女に直撃した。

 爆風と白煙が周囲に広がって視界が遮られる。
 手応えはあったので、ダメージは与えられたはずだ。 
  
「油断しない方がいいです。簡単に倒せるとはとても」
「ああっ、分かってる」

 ――俺も彼女と戦ったから。 

 瀕死の状態に追いこんだはずなのに、再度立ちはだかった。
 その生命力は尋常ではないだろう。

 敵の様子を注視していると、ふいに身体に違和感が現れた。

「……なんだ、この感覚」
「カナタさん、大丈夫ですか? ここまででずいぶん魔術を使いましたね?」
「はい、限界を超えていてもおかしくないかも」

 確実に決着が着くまではマナが足りてほしい。
 それは切実な想いだった。
 
 白煙が晴れると、服が破れて裸同然の魔女が佇んでいた。

 大幅なダメージを与えたはずだが、なおもこちらに敵意を向けている。

「――カナタさん、シモン、攻撃が来ます!」
「ここは任せてもらいますよ!」

 シモンが前に出て、魔女の攻撃を防ぎに入った。

 彼も限界が近いのだろう。
 露出した肌がさらに緑がかっていた。

 シモンは覆い被さるような炎を必死で防御している。
 威力が強すぎて、いつ破られてもおかしくない。

「――人間ども、そろそろ終わりにするか」

 今まで無言だった魔女が口を開いた。
 否、言葉というより音声のように脳裏に響いてくる。

「お前は危険すぎる。これ以上好きにはさせない」
「はっはっはっ、たった三人で何ができる」

 少女の姿から発せられているとは思えない歪んだ声音だった。
 ただただ不快で耳障りなノイズ。

 魔女は俺たちを虫けら程度にしか思っていないようだ。

 攻撃を防ぎ切ったシモンのところに駆け寄ると、満身創痍の状態だった。
 必要以上に力を行使すれば魔人になってしまうのではないか。  

「……シモン、もうこれ以上は」
「どうでしょう、あと一発ぐらいは防げそうですかね」

 いつもの調子で答えたが、明らかに限界が近づいている。

「シモン、あれを倒すにはどうしたらいい?」
「……方法はゼロはないですけど、あんまりおすすめできませんね」
「……教えてくれ。このままじゃ、全滅するだけだ」

 残された選択肢はゼロに近かった。
 こちらから攻撃できたとしても、これ以上は防御しきれない。

 もう一度俺とエルネスが魔術で攻撃したとして、確実に倒せる保障などなかった。
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