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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―
白髪少女との魔術戦
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広間で対峙する少女は不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見据えている。
彼女がこちらに向けた殺気がこれまでの戦いを思い起こさせた。
元の世界にいた頃、殺気に反応して臨戦態勢に入ることなどなかった。
平和な日本で暮らしていてそんな必要などあるはずもない。
しかし、異世界に来てからはそれが必要になっていた。
カルマンとの戦い、それ以降の戦い。
モンスターが放つ殺気よりも人間が放つ殺気の方が重たさを感じる。
訓練兵が一兵卒になるように、自然と戦いの感覚が沁みついていた。
理性は「少女を攻撃するべきではない」と落ち着かせようとするが、本能は「相手は危険な存在だ。身を守れ」と声高に主張している。
話し合いの通じない相手とは戦うしかない。
それが自分自身の結論だった。
味方を巻きこむ心配がない以上、自由に魔術が使える。
右手を掲げて威力を高めた雷撃を放った。
迸る稲妻が少女に向かって走る。
直撃したかのように見えたが、何か魔術を発動されて防がれた。
「ほうっ、なかなかやるな。我も手を抜かずにはいられぬ」
彼女が立ち上がった直後、回転する火の玉がいくつか浮かび上がった。
それらは彼女の近くに出現したかと思うと、こちらに向けて放たれた。
「……これはまずい」
咄嗟に氷魔術で盾を作る。
正面でブロックして破壊力のある攻撃を防ぐ。
分厚い氷の盾は高熱の炎に接して、見る見る蒸発していく。
大量の水蒸気がその場に発生した。
「はははっ、面白い。そんな子どもだましの術でいつまで防ぐつもりか」
少女はまだ本気を出していないようで隙だらけだった。
俺は再び右手を掲げ、今度は炎の魔術を発動させた。
正面に浮かんだ火球が少女に向かって飛んでいく。
しかし、直撃する前に透明な何かに阻まれてしまった。
焦る気持ちが生じる一方で、その防御法に意識が向いた。
こちらは氷魔術を発動して防いでいるのに、彼女はマナの流れのような物で防御したように感じた。効率よく守れそうだが、真似するにはリスクが高すぎる。
思考に意識が傾きかけたところで、再び少女の周りで巨大な火球が浮かんだ。
――集中を欠くことは命取りだ。
防御に失敗すれば、地獄の業火のような火の玉に焼き尽くされてしまう。
ここは慎重に氷魔術で防ぐべきだろう。
少女が掲げた手を振り下ろすと、複数の火球が向かってきた。
――全身を流れるマナに意識を向ける。
俺は自分の背丈ほどの氷を生じさせてブロックした。
一度目と同じように大量の水蒸気が舞い上がり、広間の床が水浸しになる。
氷魔術で防御するしかない俺、造作もなくこちらの魔術を防ぐ少女。
防戦一方の状況を打開するために何らかの策が必要だった。
火球による攻撃が止み、反撃の機会が訪れていた。
俺はマナを右手に集中させて、攻撃魔術を発動させようとした。
しかし、途中まで力を溜めたところでそれを中断した。
「……同じような威力だと、火氷雷のどれを選んでもダメだよな」
苦々しい思いが胸に去来した。
このままではじわじわといたぶられながら殺されるだけだろう。
対峙する少女は獲物を弄ぶ猫のような目で俺を見ていた。
その余裕はこちらを敵と認識しているのかさえ怪しかった。
彼女にとって赤子の手を捻るようなものなのかもしれない。
――マナの制限は魔術の基本ですよ。
絶望的な気持ちになりかけたところで、耳になじんだ声が聞こえた気がした。
――慣れないうちはマナ焼けを起こします。そのうち力加減に慣れるはずです。
それは魔術の師匠であるエルネスの声だった。
彼の言う通りに初心者はマナの扱いに慣れず、不相応な魔術を使おうとする。
その結果、体内のマナが不足して体調不良を起こす。
マナ焼けは何度か経験した。頭痛や吐き気や倦怠感を伴う苦い体験だった。
慣れてからは加減が楽になり、自然とバランスが取れるようになった。
――自分はいつの間にか無意識にリミッターをかけていたかもしれない。
……不思議な時間の流れだった。
長い時間考えていた気もするが、少女はまだ攻撃を仕掛けてこない。
俺は魔術の扱いに慣れる中で、自然と威力を抑えていたことに気づいた。
それならば、それを超える威力の魔術を放てば功を奏すかもしれない。
――コントロール不要ならば、威力を出しやすい雷魔術を選ぼう。
俺は両手を掲げてそこに普段の何倍ものマナを集中させた。
バチバチと音を立てて、静電気の塊のような物が発生する。
これでも体内のマナが枯渇することはない。
反撃されたのならまた防げばいいだろう。
俺は両手の先に迸る稲妻を少女に向けて放った。
広間の空気を引き裂くように、凄まじい雷光が走る。
今度は何かが防がれたような気配はなく、直撃したように見えた。
「……やったか?」
砂埃と煙が舞い上がり、攻撃の結果を判別できなかった。
念のため、防御態勢を取って反撃に備えた。
少女が座っていた玉座は粉々になり、周囲の床には大きな亀裂が走っていた。
「……窮鼠(きゅうそ)猫を噛むとはこのことか」
煙が晴れていくと、少女のシルエットが見えた。
口を開いたということは倒すことはできなかったのか。
彼女の動きに注意しながら、畳みかけるべきか防御に転ずるべきか考えていた。
こちらが注視していると彼女は足を引きずるように歩いたかと思うと、そのまま消えるようにいなくなってしまった。
「……逃げたのか」
集中を維持したまま周囲を確かめていると、広間の様子に変化があった。
部屋の端から通路が二方向に伸び、どこかにつながっているように見えた。
「――おいっ、通路の出口が見つかったぞ」
片方の通路から誰かの声が聞こえた。
そこから、リュートやエレン、オーウェンとシモンが順番に顔を出した。
「カナタ、一人で戦っていたのか?」
「……ええまあ」
オーウェンは戦闘の影響で荒れ放題になった広間を目にして言った。
白髪の少女を退けて、仲間と合流することができたようだ。
彼女がこちらに向けた殺気がこれまでの戦いを思い起こさせた。
元の世界にいた頃、殺気に反応して臨戦態勢に入ることなどなかった。
平和な日本で暮らしていてそんな必要などあるはずもない。
しかし、異世界に来てからはそれが必要になっていた。
カルマンとの戦い、それ以降の戦い。
モンスターが放つ殺気よりも人間が放つ殺気の方が重たさを感じる。
訓練兵が一兵卒になるように、自然と戦いの感覚が沁みついていた。
理性は「少女を攻撃するべきではない」と落ち着かせようとするが、本能は「相手は危険な存在だ。身を守れ」と声高に主張している。
話し合いの通じない相手とは戦うしかない。
それが自分自身の結論だった。
味方を巻きこむ心配がない以上、自由に魔術が使える。
右手を掲げて威力を高めた雷撃を放った。
迸る稲妻が少女に向かって走る。
直撃したかのように見えたが、何か魔術を発動されて防がれた。
「ほうっ、なかなかやるな。我も手を抜かずにはいられぬ」
彼女が立ち上がった直後、回転する火の玉がいくつか浮かび上がった。
それらは彼女の近くに出現したかと思うと、こちらに向けて放たれた。
「……これはまずい」
咄嗟に氷魔術で盾を作る。
正面でブロックして破壊力のある攻撃を防ぐ。
分厚い氷の盾は高熱の炎に接して、見る見る蒸発していく。
大量の水蒸気がその場に発生した。
「はははっ、面白い。そんな子どもだましの術でいつまで防ぐつもりか」
少女はまだ本気を出していないようで隙だらけだった。
俺は再び右手を掲げ、今度は炎の魔術を発動させた。
正面に浮かんだ火球が少女に向かって飛んでいく。
しかし、直撃する前に透明な何かに阻まれてしまった。
焦る気持ちが生じる一方で、その防御法に意識が向いた。
こちらは氷魔術を発動して防いでいるのに、彼女はマナの流れのような物で防御したように感じた。効率よく守れそうだが、真似するにはリスクが高すぎる。
思考に意識が傾きかけたところで、再び少女の周りで巨大な火球が浮かんだ。
――集中を欠くことは命取りだ。
防御に失敗すれば、地獄の業火のような火の玉に焼き尽くされてしまう。
ここは慎重に氷魔術で防ぐべきだろう。
少女が掲げた手を振り下ろすと、複数の火球が向かってきた。
――全身を流れるマナに意識を向ける。
俺は自分の背丈ほどの氷を生じさせてブロックした。
一度目と同じように大量の水蒸気が舞い上がり、広間の床が水浸しになる。
氷魔術で防御するしかない俺、造作もなくこちらの魔術を防ぐ少女。
防戦一方の状況を打開するために何らかの策が必要だった。
火球による攻撃が止み、反撃の機会が訪れていた。
俺はマナを右手に集中させて、攻撃魔術を発動させようとした。
しかし、途中まで力を溜めたところでそれを中断した。
「……同じような威力だと、火氷雷のどれを選んでもダメだよな」
苦々しい思いが胸に去来した。
このままではじわじわといたぶられながら殺されるだけだろう。
対峙する少女は獲物を弄ぶ猫のような目で俺を見ていた。
その余裕はこちらを敵と認識しているのかさえ怪しかった。
彼女にとって赤子の手を捻るようなものなのかもしれない。
――マナの制限は魔術の基本ですよ。
絶望的な気持ちになりかけたところで、耳になじんだ声が聞こえた気がした。
――慣れないうちはマナ焼けを起こします。そのうち力加減に慣れるはずです。
それは魔術の師匠であるエルネスの声だった。
彼の言う通りに初心者はマナの扱いに慣れず、不相応な魔術を使おうとする。
その結果、体内のマナが不足して体調不良を起こす。
マナ焼けは何度か経験した。頭痛や吐き気や倦怠感を伴う苦い体験だった。
慣れてからは加減が楽になり、自然とバランスが取れるようになった。
――自分はいつの間にか無意識にリミッターをかけていたかもしれない。
……不思議な時間の流れだった。
長い時間考えていた気もするが、少女はまだ攻撃を仕掛けてこない。
俺は魔術の扱いに慣れる中で、自然と威力を抑えていたことに気づいた。
それならば、それを超える威力の魔術を放てば功を奏すかもしれない。
――コントロール不要ならば、威力を出しやすい雷魔術を選ぼう。
俺は両手を掲げてそこに普段の何倍ものマナを集中させた。
バチバチと音を立てて、静電気の塊のような物が発生する。
これでも体内のマナが枯渇することはない。
反撃されたのならまた防げばいいだろう。
俺は両手の先に迸る稲妻を少女に向けて放った。
広間の空気を引き裂くように、凄まじい雷光が走る。
今度は何かが防がれたような気配はなく、直撃したように見えた。
「……やったか?」
砂埃と煙が舞い上がり、攻撃の結果を判別できなかった。
念のため、防御態勢を取って反撃に備えた。
少女が座っていた玉座は粉々になり、周囲の床には大きな亀裂が走っていた。
「……窮鼠(きゅうそ)猫を噛むとはこのことか」
煙が晴れていくと、少女のシルエットが見えた。
口を開いたということは倒すことはできなかったのか。
彼女の動きに注意しながら、畳みかけるべきか防御に転ずるべきか考えていた。
こちらが注視していると彼女は足を引きずるように歩いたかと思うと、そのまま消えるようにいなくなってしまった。
「……逃げたのか」
集中を維持したまま周囲を確かめていると、広間の様子に変化があった。
部屋の端から通路が二方向に伸び、どこかにつながっているように見えた。
「――おいっ、通路の出口が見つかったぞ」
片方の通路から誰かの声が聞こえた。
そこから、リュートやエレン、オーウェンとシモンが順番に顔を出した。
「カナタ、一人で戦っていたのか?」
「……ええまあ」
オーウェンは戦闘の影響で荒れ放題になった広間を目にして言った。
白髪の少女を退けて、仲間と合流することができたようだ。
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