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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―
サスケの思惑
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ワーウルフは動かなくなり、シモンの勝利は決定的だった。
鬼気迫る戦いの余韻が広間の空気に漂っているように感じられた。
以前、彼が魔術のような力を使うのを見たことがあるが、他の仲間は初めてだろう。
オーウェンを筆頭にリュートやエレンも驚いているように見えた。
「いやはや、厳しい戦いでした。無事に勝ててよかったです」
シモンがのんびりした様子でこちらに戻ってきた。
「シモン、そんな能力まで使えるのか」
「すげえな、鬼に金棒じゃねえか」
「興味深い能力ですね」
俺以外の三人は口々にシモンへの感想を口にした。
「まあ、過去にちょっとありましてね……」
彼は言葉を濁して応じた。
以前、俺が質問した時もこんな感じだった。
きっと、何か話したくないことがあるのだろう。
他の仲間もそれを感じ取ったのか、必要以上に詮索することはなかった。
「オーウェン、サスケはどこに?」
「おやっ、先ほどまで近くにいたはずだが……」
ふと、戦いが終わったのにサスケが姿を現さないことが気にかかっていた。
「二人は見ていないか?」
「いや」
「いいえ」
オーウェンがリュートとエレンに確かめたが、二人とも知らないようだった。
「……サスケはどこへ行ったんだろうか。仕方がない、我々だけで先へ進もう」
オーウェンはサスケがいないことを気にかけているようだが、ひとまずは魔王のところへ進むようだ。それに加えて彼への信用があるからなのか、そこまで心配しているように見えない。
オーウェンの様子とは対照的に疑念から胸がざわつくような感じがした。
キングオークの時から何か違和感がある。
思い過ごしならかまわないが、この状況で信用できない仲間がいるのは危険すぎる。
オーウェンが率先して広間から続く通路へ向おうとした。
――とその時だった。
「オーウェン殿、その男の力は危険ですぞ」
どこからかサスケの声が響いた。
「サスケか? どこにいる?」
オーウェンは足を止めて辺りを見渡した。
少なくともこちらの視界にはサスケの姿は見当たらない。
どこかに隠れているのか。それならばなぜ。
「驚異的な技量に、摩訶不思議な能力。魔王と同じ匂いがします」
姿を見せないサスケの声は冷たく突き放すような空気があった。
わざわざ隠れてまで、彼は何を企んでいるのだろう。
「サスケ! 協力してくれるのにひどいだろ!」
「始まりの青の一員にしては不穏な輩ですね」
リュートとエレンが見えないサスケに向かって言い放った。
しかし、彼からの反応はなかった。
「サスケ、二人の言うことはもっともだ。黙ってないで答えてくれ」
「……何も言うことはありませぬ」
ようやくオーウェンの言葉に反応したが、サスケは聞く耳を持たないようだ。
「シモンは魔王に近い存在」という発言の意図は分からないままだった。
不穏な空気が流れる中、沈黙を破るようにサスケの声が再び響いた。
「その男がどれだけ強くとも、影から攻撃すれば仕留めることができます」
「サスケ、何を言っているんだ」
殺伐とした発言に、さすがのオーウェンもたしなめるような口調になった。
「――やれやれ、勝手に殺してやるとか冗談のつもりですか」
成り行きを静観していたシモンだったが、おもむろに口を開いた。
唐突な殺害予告を受けたにもかかわらず、普段通りの様子を見せている。
「オーウェン、魔王が強敵ならシモン抜きでは厳しいはずです。それに彼を殺そうだなんて、もってのほかだと思います」
サスケが実行しないことに確信がなく、オーウェンに助け舟を求めた。
「カナタの言う通りだが、サスケと我々には信頼関係がある。しかし、シモンとは会って間もない……」
「そ、そんな……」
リーダーのまさかの反応に不安な気持ちになった。
オーウェンが諫めなければ、サスケはシモン殺害を行動に移しそうだ。
リュートとエレンがこちらの味方をしてくれそうなのはせめてもの救いだろうか。
二人は広間の隅から隅へと視線を走らせて、サスケを見つけようとしている。
「ああっもう、本人抜きで話を進めないでほしいですね」
「……シモン」
シモンがうんざりするように声を上げた。
「気配を遮断するのが得意みたいですけど、こっちから筒抜けですよ」
シモンは近くに落ちていた小石を拾い上げて、何もない方向に放り投げた。
その石は何にも当たらず、放物線を描いて床に落ちた。
「……何と面妖な」
サスケが日本語で呟く声がどこからか聞こえてきた。
その反応からして、隠れた場所がシモンに見透かされているのだろう。
シモンの実力を以てすれば、サスケを討ち取ることは容易に思えた。
しかし、彼はそのような素振りを見せていなかった。
「何なら、ここで引き返してもいいんですよ。おれはカナタさえ無事に連れ戻せたらそれで目的達成なんで」
「……待ってくれ。シモンが抜けては戦力が大きく欠けてしまう」
余裕のあるシモンと窮した様子のオーウェン。
どちらが主導権を握っているかは明白だった。
「それじゃあ、怪しいサスケとかいう偵察兵をどうにかしてください」
「……彼にはこの先を案内してもらわなければならない」
こんなにも優柔不断なオーウェンを見たのは初めてだった。
サスケはシモンに圧倒されることを悟ったのか、何も言わなくなっていた。
「……サスケ? どこへ行った?」
オーウェンがサスケに呼びかけたが、返事はなかった。
「話し合いの隙を突いて、逃げられちゃいましたね」
シモンは残念がることもなく、淡々とした口調で言った。
サスケがいないのなら、この先をどう進むのか。
そもそも、先回りされて狙い撃ちにされる危険はないのだろうか。
彼のことを考えるほどに気が重くなった。
追記
シモンの特殊能力や背景については本作で過去に登場しています。
―幕間― 亡国の王子と魔女の実 https://www.alphapolis.co.jp/novel/503630148/997663628/episode/6353629
鬼気迫る戦いの余韻が広間の空気に漂っているように感じられた。
以前、彼が魔術のような力を使うのを見たことがあるが、他の仲間は初めてだろう。
オーウェンを筆頭にリュートやエレンも驚いているように見えた。
「いやはや、厳しい戦いでした。無事に勝ててよかったです」
シモンがのんびりした様子でこちらに戻ってきた。
「シモン、そんな能力まで使えるのか」
「すげえな、鬼に金棒じゃねえか」
「興味深い能力ですね」
俺以外の三人は口々にシモンへの感想を口にした。
「まあ、過去にちょっとありましてね……」
彼は言葉を濁して応じた。
以前、俺が質問した時もこんな感じだった。
きっと、何か話したくないことがあるのだろう。
他の仲間もそれを感じ取ったのか、必要以上に詮索することはなかった。
「オーウェン、サスケはどこに?」
「おやっ、先ほどまで近くにいたはずだが……」
ふと、戦いが終わったのにサスケが姿を現さないことが気にかかっていた。
「二人は見ていないか?」
「いや」
「いいえ」
オーウェンがリュートとエレンに確かめたが、二人とも知らないようだった。
「……サスケはどこへ行ったんだろうか。仕方がない、我々だけで先へ進もう」
オーウェンはサスケがいないことを気にかけているようだが、ひとまずは魔王のところへ進むようだ。それに加えて彼への信用があるからなのか、そこまで心配しているように見えない。
オーウェンの様子とは対照的に疑念から胸がざわつくような感じがした。
キングオークの時から何か違和感がある。
思い過ごしならかまわないが、この状況で信用できない仲間がいるのは危険すぎる。
オーウェンが率先して広間から続く通路へ向おうとした。
――とその時だった。
「オーウェン殿、その男の力は危険ですぞ」
どこからかサスケの声が響いた。
「サスケか? どこにいる?」
オーウェンは足を止めて辺りを見渡した。
少なくともこちらの視界にはサスケの姿は見当たらない。
どこかに隠れているのか。それならばなぜ。
「驚異的な技量に、摩訶不思議な能力。魔王と同じ匂いがします」
姿を見せないサスケの声は冷たく突き放すような空気があった。
わざわざ隠れてまで、彼は何を企んでいるのだろう。
「サスケ! 協力してくれるのにひどいだろ!」
「始まりの青の一員にしては不穏な輩ですね」
リュートとエレンが見えないサスケに向かって言い放った。
しかし、彼からの反応はなかった。
「サスケ、二人の言うことはもっともだ。黙ってないで答えてくれ」
「……何も言うことはありませぬ」
ようやくオーウェンの言葉に反応したが、サスケは聞く耳を持たないようだ。
「シモンは魔王に近い存在」という発言の意図は分からないままだった。
不穏な空気が流れる中、沈黙を破るようにサスケの声が再び響いた。
「その男がどれだけ強くとも、影から攻撃すれば仕留めることができます」
「サスケ、何を言っているんだ」
殺伐とした発言に、さすがのオーウェンもたしなめるような口調になった。
「――やれやれ、勝手に殺してやるとか冗談のつもりですか」
成り行きを静観していたシモンだったが、おもむろに口を開いた。
唐突な殺害予告を受けたにもかかわらず、普段通りの様子を見せている。
「オーウェン、魔王が強敵ならシモン抜きでは厳しいはずです。それに彼を殺そうだなんて、もってのほかだと思います」
サスケが実行しないことに確信がなく、オーウェンに助け舟を求めた。
「カナタの言う通りだが、サスケと我々には信頼関係がある。しかし、シモンとは会って間もない……」
「そ、そんな……」
リーダーのまさかの反応に不安な気持ちになった。
オーウェンが諫めなければ、サスケはシモン殺害を行動に移しそうだ。
リュートとエレンがこちらの味方をしてくれそうなのはせめてもの救いだろうか。
二人は広間の隅から隅へと視線を走らせて、サスケを見つけようとしている。
「ああっもう、本人抜きで話を進めないでほしいですね」
「……シモン」
シモンがうんざりするように声を上げた。
「気配を遮断するのが得意みたいですけど、こっちから筒抜けですよ」
シモンは近くに落ちていた小石を拾い上げて、何もない方向に放り投げた。
その石は何にも当たらず、放物線を描いて床に落ちた。
「……何と面妖な」
サスケが日本語で呟く声がどこからか聞こえてきた。
その反応からして、隠れた場所がシモンに見透かされているのだろう。
シモンの実力を以てすれば、サスケを討ち取ることは容易に思えた。
しかし、彼はそのような素振りを見せていなかった。
「何なら、ここで引き返してもいいんですよ。おれはカナタさえ無事に連れ戻せたらそれで目的達成なんで」
「……待ってくれ。シモンが抜けては戦力が大きく欠けてしまう」
余裕のあるシモンと窮した様子のオーウェン。
どちらが主導権を握っているかは明白だった。
「それじゃあ、怪しいサスケとかいう偵察兵をどうにかしてください」
「……彼にはこの先を案内してもらわなければならない」
こんなにも優柔不断なオーウェンを見たのは初めてだった。
サスケはシモンに圧倒されることを悟ったのか、何も言わなくなっていた。
「……サスケ? どこへ行った?」
オーウェンがサスケに呼びかけたが、返事はなかった。
「話し合いの隙を突いて、逃げられちゃいましたね」
シモンは残念がることもなく、淡々とした口調で言った。
サスケがいないのなら、この先をどう進むのか。
そもそも、先回りされて狙い撃ちにされる危険はないのだろうか。
彼のことを考えるほどに気が重くなった。
追記
シモンの特殊能力や背景については本作で過去に登場しています。
―幕間― 亡国の王子と魔女の実 https://www.alphapolis.co.jp/novel/503630148/997663628/episode/6353629
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