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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

キングオークの脅威

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 俺が広間を通り終えた後、続いてリュートたちが来ようとしていた。

 壁の影からオークの巨体を確かめると、目をつぶって眠っているように見えた。
 今のうちなら安全かもしれない。

 すぐにリュートが通路を出てこちらに歩いてきた。

 武芸に秀でているだけあって、必要以上に音を立てずに通り過ぎた。
 王様のようなキングオークはまだ眠っている。

 エレンは出るタイミングを見計らっている。
 あちらからはオークの状態が分からず、慎重になっているようだ。

 先に通過して状況を把握したリュートがエレンを急がせるように手で合図する。
 彼はやや憮然とした表情を見せた後、通路を出てこちらへ向かおうとした。

 よしっ、最後の一人がこれで完了だ。

 そう思いかけたところで――何かがビュンと風を切った。
 
 その直後、地面に重量のある何かが落下する音がした。

「……くっ」

 エレンの方を見ると、彼の近くに巨大な斧が落ちていた。

「……ウマそうなニンゲンのにおいがするぞ」

 オークが目を閉じたまま声を上げた。
 エレンの位置を正確に狙った投擲から、とても眠っているように見えなかった。

 さすがの彼もオークの脅威を前に身動きが取れなくなっている。

「サスケ、彼を助けに行けないか?」
「……無闇に飛び出すのは危険です」

 オーウェンの呼びかけをサスケは諫めるように制した。

 しかし、リュートは堪えきれなくなったようで、エレンのところに向かった。

 二人は合流して、すぐにこちらへ向かおうとした。
 そこへ進行を遮るように普通の大きさのオークが数体現れた。

 彼らの実力なら簡単に倒せる相手。
 瞬く間にオークたちを退けた。

 だがしかし、その時間が命取りになってしまった。
 寝ていたはずのキングオークが起きていた。

 危険な状況に身震いした。
 寝起きにもかかわらず、その視線はリュートとエレンを捉えているように見えた。
 
 そして、その巨体とは裏腹に素早い動作で二人に接近した。

 キングオークは地面に突き刺さった斧を抜き取り、猛然と襲いかかった。

「――オーウェン殿、助けたいお気持ちは分かります。しかし、先を急ぐ必要が」
「……ああっ、分かっている」

 サスケとオーウェンの悲痛なやりとりが耳に入った。

 二人の考えも理解できる。
 ただ、俺とサスケにオーウェン、シモンの四人だけで魔王を倒せるのだろうか。

 そもそも、旅を共にした二人の槍使いを見捨てていいはずがない。

「……シモン、二人を助けたい。力を貸してくれる?」
「もちろん、お安い御用で」

 シモンはこちらの頼みを快諾すると、死角から飛び出て参戦した。
 俺も遅れを取らないように、リュートたちの戦う場へ駆け出した。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 ここは森の中に比べて広い。 
 味方を巻きこまないように注意すればどの魔術も使えるはずだ。

 リュートとエレンだけでは押され気味だった。
 しかし、凄腕のシモンが加わったことで互角の戦いになっている。

 キングオークはその腕力を活かして、巨大な斧を風車のように回している。
 その動きは凄まじい速さと破壊力があり、接近戦に向かない魔術師の領分ではないと感じた。

 俺にできることは、隙を突いて遠目から魔術で攻撃することだろう。

 氷で動きが止められるとは思えず、雷魔術のように流動的では味方を巻きこんでしまう。
 おそらく、この状況で発動するなら炎の魔術がベストになる。
  
 集中を高めて、千載一遇の好機に狙いを定める。

 キングオークはウドの大木であってほしいと思っていた。
 しかし、シモンの剣戟を捌ききるということは決して弱くない。

 もっとも、腕前は優れていても人間を食らうことは受け入れられない。

 やつの椅子の近くには無造作に捨てられた人骨と血の飛び散ったような痕跡がある。
 人間を美味そうと表現する以上、そういったことは想定してもいいはずだ。

 端的に言って、戦闘不能になることはキングオークの胃袋に直行することを意味する。
 何が何でも倒さねばならない。
 
 リュートとエレン、それに加えてシモンが攻撃を繰り出すしても動きを止められるほどのダメージに至らなかった。

 額をイヤな汗が伝う。
 シモンが攻めあぐねているのを初めて見た気がした。

 時折攻撃が当たってはいるものの、厚い毛皮に覆われた体躯を傷つけるのは難しいようだ。

 キングオークから距離を置いて好機を窺っているが、つけ入る隙がない。
 無闇に魔術を使えば、三人を巻きこみかねなかった。

「……カナタ、サスケが手助けしてくれるようだ」

 ふいに後ろから声をかけられた。
 振り向くとオーウェンが立っていた。

「……どうしました?」
「彼らの腕前なら動きさえ止められたら好機を作れる。それに魔術で攻撃できるはずだ。その隙をサスケが作れるようだ」

 オーウェンの近くにサスケもおり、何かを手にしていた。

「ここは戦わずに通るつもりだった。ただ、オーウェン殿が頼むから仕方ないわな」

 サスケは煩わしげな様子だった。
 こちらに聞こえるようにするためなのか、日本語で呟いている。

「オークとて所詮は猪(しし)。脅かせば怯むもの」

 そう言って、彼は大きな癇癪玉のような物をキングオークの向こうに投げた。

 バンっと何かが爆ぜるような大きな音がした。

 リュートたちも驚いていたが、それ以上にキングオークに効き目抜群だったようだ。
 存分に振り回していた斧を床に落とし、茫然とした様子で棒立ちになっている。
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