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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

精鋭たちの潜入作戦

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 今までは死者はおろか負傷者さえ見かけることはほとんどなかった。

 しかし、モンスターの大群を退けた後、仲間の何人かが傷ついていた。
 幸いにも重傷者はいないようだったが、血の跡や傷口が生々しかった。

「乱戦のたびにこれでは、味方が消耗してしまう。魔王のところへ先を急がねば」
「オーウェン殿、潜入経路はここから離れていません。すぐに案内しましょう」

 わずかに焦燥感を漂わせるオーウェンに対し、冷静沈着なサスケが投げかけた。

 オーウェンは何も言わずに頷き、選ばれた者たちに声をかけ始めた。
 そして、すぐに俺のところにもやってきた。

 彼は、さあ行こうとだけ言うと離れていった。

 想像以上に厳しい状況となり、オーウェンが余裕を失いかけているのを見た。
 自制が効かないほどではないようなので、作戦の進行は問題ないだろう。

 オーウェンの呼びかけが終わると、魔王のところへ向かうメンバーが集まった。

 サスケは表情を変えず、落ち着いているようにも不機嫌なようにも見える。
 もしかしたら、案内役としての重圧を感じているのかもしない。

 リュートは危険を前にしているにもかかわらず、鷹揚な様子を見せている。
 エレンは何かを考えるような表情をしているが、不安はほとんど感じさせない。

「乗りかかった船なんで、魔王とやらを倒してウィリデに戻りましょう」

 心細い気持ちでいると、シモンが声をかけてきた。

「ああっ、そうだね」
「カナタとこうして話していると、カルマンの戦いを思い出しますな」

 シモンはしみじみとした感じで遠くを見上げた。 

 たしかにクルトやシモンと共に戦った頃から時間が経過している。
 偶然にここまでやってきて、モンスターの支配する世界で旅を続けた。

「我々は魔王討伐に向かう。邪魔が入らぬように後方の守りは任せた」
「……ご武運を」

 仲間の一人が神妙な顔つきでオーウェンに声をかけた。

「……無事に戻ってくることを約束しよう」

 彼は強がりを感じさせない自然な態度で、しっかりと言った。

「さあ、魔王を討つぞ!」

 オーウェンの呼びかけに選ばれた仲間たちが声を上げた。
 シモンは陽気な様子で拳を振り上げている。

 いよいよ、決戦の時だと思うと全身に身震いするような感覚が走った。
 
 不安もあるが、この仲間たちが一緒ならきっと大丈夫だ。
 そう自分に言い聞かせながら、先へと足を運んだ。


 サスケの案内で細い通路を進み始めた。
 少し歩いたところで、オーウェンがサスケに質問をした。

「サスケ、敵の一陣が多かったが、この先はどうなのだ?」
「オーウェン殿、こちらのルートは後方から攻められない限り、大軍に押されるようなことはないと思います。ただ……」
「ただ? 何かあるのか」

 近くで聞いていた俺もサスケの間が気にかかった。

「潜入した際に腕の立ちそうなモンスターがいくつかおりました。あまり見かけたことのない種類なので、警戒が必要かと思います」
「うむ、そうか……」

 サスケの説明を聞いて、オーウェンは考えこむような態度を見せた。  

 彼が悩むのも理解できる気がした。

 精鋭を絞りこんだとはいえ、強敵を相手にしていたら魔王まで辿り着けるか分からない。それに戦力がダウンした状態で魔王を討てるだろうか。

 サスケが説明したモンスターに出会わないことを願うばかりだった。

 
 細く長い通路を慎重に進み続けると、道の先に広間があった。

 ようやく広い場所に出るところで、サスケが制止するように合図を送ってきた。
 それぞれに少し離れて歩いていたが、それを見た仲間たちは一箇所に集まった。

「この先に危険なモンスターがいます。動きは鈍いですが、狙われると厄介です」
「……わかった。皆も注意してくれ」
「ワタシが先に行くので、それに続いてください」

 サスケはやけに固い表情をしている。
 その様子から相当危ないモンスターがいることを想像した。

 それから、サスケが最初に行くことになった。

 彼は広間を進みかけたところで、再確認するように音を立てるなと注意喚起のハンドシグナルを送った後、通り抜ける風のように広間の中を進んだ。

 続いてオーウェンが進み、シモンがその後に続いた。
 二人とも問題なく、広間の向こう側へと移動していた。

 残る俺、リュート、エレンの三人は互いを見渡した。
 二人の槍使いは意見が一致したようで、まずは俺が行くように促された。 

 何も言わずに頷いて、細い通路を出た。
 広間は想像以上に大きく、座席の取っ払われたホールぐらいの大きさがあった。
 
 どんな危険があるのか気になりながら、音を立てないように慎重に進む。
 ゆっくりにしか歩けないので、反対側までの距離がやけに長く感じる。

 ――ふと、視界の端に何かが見えた気がした。
 
 気に留めている場合ではないのだが、どうしても気になってしまう。
 顔を正面に向けたまま目だけを横に向けて、ちらりと見やる。 

 ――な、なんだ、あれは!?

 思わず声が出そうになったのを押し殺した。

 広間の奥には玉座のような特大の椅子があり、背丈が三メートル以上ありそうな巨大なオークが鎮座していた。

 こんな巨体に襲いかかられてはまずい。
 本能的な脅威を感じつつ、そそくさと広間の端へと通過した。

 先を行くサスケたちのところへ着くと、イヤな汗が額から垂れていた。
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