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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

戦闘開始

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 行軍に遅れが見え始めたところで、オーウェンから休むように指示が出た。

 メリルと旅を続けてきたこともあり、俺はそこまで疲れを感じていなかった。
 ただ、他の仲間たちは装備の重量がかさむので、それも影響しているのだろう。

 身を隠せそうな岩陰を見つけた後、分散して腰を下ろした。


 全員が簡単な食事や給水を済ませた後、再び歩き始めた。

 途中までは平らで何もない草原が続いていたが、ところどころ大きな岩が点在するようになっていた。

 敵が潜んでいたら奇襲を受けそうだと警戒を強めたところで、前方から「敵襲!」と声がした。慌てて前を向くと、複数の矢が先の方に飛んできた。

 先頭にいる仲間は剣で払ったり、盾でその攻撃を防いでいた。
 近くにいたシモンはすでに剣を抜いて先へと進んでいる。
 
 俺も魔術を発動できるように集中を高めて、前方に駆けつけることにした。

 先へと進みながら矢の攻撃を警戒しているが、ここまでは飛んでこない。
 慎重に距離を詰めるうちに先頭の背中が近づいた。

 彼らは弓矢を手にしたコボルトを倒しながら突き進んでいる。
 その後ろについていくと、今度は斧のような武器を手にしたオークが現れた。
 
 全部で十体以上いて、仲間が打ち漏らした敵がこちらに近づいてきた。
 射程距離に入ったところで、すかさず氷魔術を放つ。

 凍てつく空気が風を切りながら飛来して、接触したオークは大きな氷柱のように氷漬けになった。

 仲間を巻き添えにしそうなので、炎や雷魔術は使いづらい。
 この状況ではこれが最善の攻撃手段だろう。

 
 次から次へとオークが現れたが、俺も仲間も目立った負傷をすることなく切り抜けられた。モンスターが弱いというより、彼らが強いだけなのかもしれない。
 
 戦いに区切りがついたところで、物陰に隠れて息を整えていた。

 歴戦の勇士ということもあり、ほとんどの仲間が疲れを感じさせない。
 少し前にオーウェンが小休止を指示したことも的確だったように思われた。

 シモンは少し離れたところで、始まりの青の戦士と話しこんでいた。身振り手振りを交えて、ここまでの戦況やこれからのことを話し合っているように見える。

「こんなにも厚い守りは珍しい。おそらく、敵の拠点が近いようだ」

 腰を下ろして休んでいると、オーウェンが声をかけてきた。

「何度も連続して攻撃を受けたのは初めてです。気をつけた方がいいですね」 
「待ち構えたところに攻めていくのだから不利ではある。できるだけ犠牲は少なくしたいが、敵の勢力が読めないのは痛い」

 彼は険しい表情で道の先に視線を向けた。

 
 短い休憩を挟んで行軍を再開した。
 この先も岩が多く、待ち伏せが容易にできる。

 危険だと承知しているものの、慎重に進まざるを得ない状況がもどかしく感じる。

 見通しがよかった平原に比べて全体の進む速度が低下していた。
 周囲に意識を傾けながら進む以上、ペースがゆっくりになるのは仕方がない。

 同行している仲間たちは精鋭だけあって、隙のない動きを見せている。
 時折、岩陰からモンスターが飛び出てきたり、不意打ちのように矢が向かってきても、軽い身のこなしで対応している。

 こういった場面では攻撃までにタイムラグがある魔術は少々不利な気がする。
 
 メリルから剣術の基礎を教わったものの、護身用の剣を使う機会は少ない。
 それだけ仲間がカバーしてくれているということでもある。


 やがて、道の先に立ち並ぶ岩に切れ目が見えた。
 その先は開けた場所になっており、このまま進めば姿を晒すことになる。 

 すぐに把握できるようなことはすでに予測済みなようで、先頭の味方から慎重に進むようにと手で合図が送られた。

 前列から順番に姿勢を低くして先へと進む。

 この一帯で多数のモンスターが待機していたことを考えれば、他に待ち構えていてもおかしくない。

 前方の様子に注意していると、仲間の誰かが息を潜めながら切れ目の先を覗こうとしている。

 その辺りは少し上りの勾配がついており、彼はゆっくりと頭を出して前方を観察した。
 そして、何かを見つけたようで、先頭の集団が慎重な動きで後退してきた。

「――中規模の拠点を発見。見張りのモンスターがいるため、接近には警戒が必要かと」
「……そうか」

 味方の伝達にオーウェンは固い表情で頷いた。

 それから彼は近くに何人かの戦士を集めて指示を出した。
 連携が必要な戦術のようで、外部の人間である俺はそこには加わらなかった。

 息の詰まるような時間が過ぎた後、オーウェンが攻めこむ合図を送った。
 
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