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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―
シモンの救援
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両目でじっとその姿を眺める。
追いこまれた状況が見せた幻ではなく、たしかに彼はそこにいた。
短く黒い髪と細身の体型、余裕さえ感じさせる薄い笑み。
それらは記憶の中のシルエットと一致した。
「……シモン」
「感動の再会の前にアレを倒しましょう」
シモンは長剣の先をケラスに向けた。
敵に対して宣戦布告するように。
「……ありえん、こんなことが」
ケラスは恨みがましい様子で言った。
今までとは一変して、怒りに打ち震えているように見える。
「下等な人間ごときが!」
やつは残った左手を掲げて、攻撃を仕掛けてきた。
青い炎が再び襲いかかってくる。
俺は氷魔術を作り、それを防いだ。
シモンは軽やかな身のこなしでかわしていた。
「そんな単調な攻撃だと隙だらけってもんです」
彼は敵の攻撃範囲から逃れたかと思うと、即座に間合いを詰めていた。
あまりの速さにケラスは反応できていないようだ。
この目では捉えきれないほどのスピードで下段から上段へ剣が振り上げられた。
シモンの一撃はケラスの左手首を斬り落とした。
傷口からは青と黒の絵の具を混ぜたような血が噴き出している。
「おのれ、許さん……」
ケラスは顔をシモンに向けたかと思うと、口を大きく開いた。
そこから眩しい光が放たれようとしている。
「――その手は食いませんよ」
シモンは淡々と口にして剣を横に振った。
流れるような斬撃でケラスの首がすとんと地面に落下した。
首から上を失った胴体はバランスを崩し、正面に力なく倒れこんだ。
胴体だけでは動かないことを確認してから、ようやく緊張の糸が解けた。
シモンは剣を振って剣身の汚れを払い、手慣れた様子で鞘に収めた。
戦いの幕が閉じて、辺りには静寂が戻った。
「……すごい、こんな簡単に」
「ふぅ、短期決戦で正解だったみたいですね。状況次第でどうなっていたか」
絶命したケラスの死体が横たわっているが、ネクロマンサーの時のように消滅しない。
「やつは魔人と名乗っていたけど、死体がそのままだ」
「魔人、ですか……なるほど」
「シモン、何か知っていることが?」
「ちょっとばかし自分の身とつながりがあるんですが、秘密にしておきます」
シモンは意味深な笑みを浮かべており、話を煙に巻こうとしているようだ。
「それはそれとして、この魔人、元は人間だったと思いますよ」
「人間? 尋常じゃない強さだし、肌や血の色は独特だったけど」
「……おれも似たようなもんです。あそこまで変容しなかっただけで」
シモンは一瞬だけ真顔になって、そう呟いた。
聞き返していいのか分からず、そのまま何も問わなかった。
それから、俺たちは砦に戻ることにした。
シモンがケラスの死体を焼いてくれと頼んできたので、火の魔術で燃やした。
彼は敵であるはずの魔人が炎に包まれる様を、感情の読み取れない表情でじっと見つめていた。
戦いの起きた場所から離れると、数人の仲間が向かってくるところだった。
「カナタ殿、外に出た者たちが戻ってこないので、探しに行くところです」
「……急に敵が襲ってきて、彼らは――」
起きたことをそのまま伝えていいものか迷った。
「襲撃が!? ならば駆けつけなければ」
「いえ、敵は彼が倒しました」
「……なるほど、そちらのご仁はどなたで?」
仲間の一人がシモンのことを警戒しているように見えた。
「彼は俺と同じ地域から来ました」
「どうも、シモンです。よろしく」
シモンは自然な雰囲気で自己紹介をした。
緊張した空気を気に留める素振りは見えない。
「そうでしたか。これは失礼しました」
仲間たちは半信半疑といった様子だったが、シモンを受け入れてくれそうだ。
俺たちは再び砦に向かって歩き出した。
「シモン、ここまで距離はあるし、どうやって?」
「カナタが飛んで行った日に目撃した人がいたんですよ」
シモンは前を向いたまま話を続けた。
「行方不明になったと騒ぎになって、おれが探しに出ると立候補しました。ウィリデに遠征慣れした人はいませんから。それで支援として丈夫な馬を出してもらって来たわけです。最近、その馬は路銀を得るために少し前に売っちゃいましたけど」
途中から冗談めいた調子だった。
俺がいなくなったことで騒ぎになったらしい。
「こっちでは乗りかかった船なんだ。それが終わったらどうにかして帰るよ」
「たしかにそんな雰囲気ですよね。戦いの匂いがします」
そう口にした瞬間、シモンの表情が鋭く見えた気がした。
追いこまれた状況が見せた幻ではなく、たしかに彼はそこにいた。
短く黒い髪と細身の体型、余裕さえ感じさせる薄い笑み。
それらは記憶の中のシルエットと一致した。
「……シモン」
「感動の再会の前にアレを倒しましょう」
シモンは長剣の先をケラスに向けた。
敵に対して宣戦布告するように。
「……ありえん、こんなことが」
ケラスは恨みがましい様子で言った。
今までとは一変して、怒りに打ち震えているように見える。
「下等な人間ごときが!」
やつは残った左手を掲げて、攻撃を仕掛けてきた。
青い炎が再び襲いかかってくる。
俺は氷魔術を作り、それを防いだ。
シモンは軽やかな身のこなしでかわしていた。
「そんな単調な攻撃だと隙だらけってもんです」
彼は敵の攻撃範囲から逃れたかと思うと、即座に間合いを詰めていた。
あまりの速さにケラスは反応できていないようだ。
この目では捉えきれないほどのスピードで下段から上段へ剣が振り上げられた。
シモンの一撃はケラスの左手首を斬り落とした。
傷口からは青と黒の絵の具を混ぜたような血が噴き出している。
「おのれ、許さん……」
ケラスは顔をシモンに向けたかと思うと、口を大きく開いた。
そこから眩しい光が放たれようとしている。
「――その手は食いませんよ」
シモンは淡々と口にして剣を横に振った。
流れるような斬撃でケラスの首がすとんと地面に落下した。
首から上を失った胴体はバランスを崩し、正面に力なく倒れこんだ。
胴体だけでは動かないことを確認してから、ようやく緊張の糸が解けた。
シモンは剣を振って剣身の汚れを払い、手慣れた様子で鞘に収めた。
戦いの幕が閉じて、辺りには静寂が戻った。
「……すごい、こんな簡単に」
「ふぅ、短期決戦で正解だったみたいですね。状況次第でどうなっていたか」
絶命したケラスの死体が横たわっているが、ネクロマンサーの時のように消滅しない。
「やつは魔人と名乗っていたけど、死体がそのままだ」
「魔人、ですか……なるほど」
「シモン、何か知っていることが?」
「ちょっとばかし自分の身とつながりがあるんですが、秘密にしておきます」
シモンは意味深な笑みを浮かべており、話を煙に巻こうとしているようだ。
「それはそれとして、この魔人、元は人間だったと思いますよ」
「人間? 尋常じゃない強さだし、肌や血の色は独特だったけど」
「……おれも似たようなもんです。あそこまで変容しなかっただけで」
シモンは一瞬だけ真顔になって、そう呟いた。
聞き返していいのか分からず、そのまま何も問わなかった。
それから、俺たちは砦に戻ることにした。
シモンがケラスの死体を焼いてくれと頼んできたので、火の魔術で燃やした。
彼は敵であるはずの魔人が炎に包まれる様を、感情の読み取れない表情でじっと見つめていた。
戦いの起きた場所から離れると、数人の仲間が向かってくるところだった。
「カナタ殿、外に出た者たちが戻ってこないので、探しに行くところです」
「……急に敵が襲ってきて、彼らは――」
起きたことをそのまま伝えていいものか迷った。
「襲撃が!? ならば駆けつけなければ」
「いえ、敵は彼が倒しました」
「……なるほど、そちらのご仁はどなたで?」
仲間の一人がシモンのことを警戒しているように見えた。
「彼は俺と同じ地域から来ました」
「どうも、シモンです。よろしく」
シモンは自然な雰囲気で自己紹介をした。
緊張した空気を気に留める素振りは見えない。
「そうでしたか。これは失礼しました」
仲間たちは半信半疑といった様子だったが、シモンを受け入れてくれそうだ。
俺たちは再び砦に向かって歩き出した。
「シモン、ここまで距離はあるし、どうやって?」
「カナタが飛んで行った日に目撃した人がいたんですよ」
シモンは前を向いたまま話を続けた。
「行方不明になったと騒ぎになって、おれが探しに出ると立候補しました。ウィリデに遠征慣れした人はいませんから。それで支援として丈夫な馬を出してもらって来たわけです。最近、その馬は路銀を得るために少し前に売っちゃいましたけど」
途中から冗談めいた調子だった。
俺がいなくなったことで騒ぎになったらしい。
「こっちでは乗りかかった船なんだ。それが終わったらどうにかして帰るよ」
「たしかにそんな雰囲気ですよね。戦いの匂いがします」
そう口にした瞬間、シモンの表情が鋭く見えた気がした。
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