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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

オーウェンとイアンの対立

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 ベネットは瞬く間にゴブリンを一掃した。
 彼女は息絶えたゴブリンの衣服で剣身を拭った後、鞘に戻していた。

 ダスク側の兵士は既知のことだと思うが、俺やエスラの人間からすれば衝撃の大きい出来事だった。

「イアン、彼女ほどの剣士がいるならば、洞窟に同行させてほしかったが」
「すまない。女王陛下の身の安全を確保するためには仕方なかった」
「それは分かるが、我々は危険な目に遭った。彼女が共にいれば、あそこまで苦戦は強いられることはなかったはずだ」

 オーウェンの不満はもっともだった。
 一歩間違えれば、俺たちはネクロマンサーを相手に全滅しかねなかった。
  
 それにベネットがいたならば、もう少し容易に戦うことができただろう。

 これから力を合わせなければいけないことは理解しているものの、オーウェンの気持ちは十分に理解できるものだった。

「買い被ってくださるのは嬉しいけれど、わたしはただの剣士でしかないわ。大事な作戦の前に揉めないでもらえるかしら」
「ベネット、オーウェン殿の意見はもっともだ」
「女王陛下に何かあれば、ダスクが再建できたとしても意義はあると思う?」
「そうだとしても……」

 イアンはフレア女王を優先したことを申し訳なく思っているように見えた。

「お互い守りたい存在はあるだろう。……ひとまず、この話は保留にしよう」

 オーウェンは諦めたようにこぼすと、そのまま先へと進んでいった。 


 俺たちは気まずい雰囲気のまま移動を続けた。
 最初にベネットがゴブリンを斬り伏せたので、他に見張りは見当たらなかった。

 しばらく歩き続けると、地下通路の向こうに光が差していた。

「出たところにモンスターがいるかもしれない。気をつけてくれ」

 オーウェンはそれだけ伝えると、そのまま先へ進んだ。
 そして、彼は出口のところで立ち止まった。 

 少なくとも、彼が何かを警戒していることだけは理解できた。

 残りの七人で様子を見守っていると、オーウェンがこちらへ引き返してきた。

「……コボルトとゴブリンが全部で十体ほどいる」 

 彼は全員に手招きすると声を潜めて伝えた。
 
「先ほどの戦いで報告がいったかもしれない」
「その可能性はあるわね」

 イアンとベネットが意見を交わした。

「……逃がすことなく、倒せるだろうか」
「八人もいるんだから、大丈夫じゃないかしら」

 自信ありげな彼女に対して、オーウェンは慎重な態度だった。

 重要な選択だったので、口を挟んでいいものかわからなかった。 
 己の立場を考慮すれば、責任の取れないことは慎むべきだと感じた。

「こんなところで話し合っていたら、そのうちに見つかっちまう」
「リュートの言う通りか。ベネット、今度も力を貸してくれ」
「もちろん、そのために来たのだから」

 イアンは口を出さなくなっているが、ひとまず話はまとまったように思えた。

「いい? わたしから行くわよ」

 ベネットは最終確認をするように振り向くと、出口の横穴から飛び出ていった。

「皆、彼女に続いていこう」
「こいつはスピード勝負だな」

 続いて、オーウェンとリュートも出ていった。 
 意を決するような様子で、次々と仲間たちが向かっていく。

 俺も遅れないように彼らに続いた。
 横穴を抜けた後、息を呑みながら正面に視線を向ける。
 
 すると、すでに戦闘は終結していた。

「ベネットが強すぎて、おれの出る幕はなかったよ」

 振り返ったリュートが苦笑気味に言った。 
   
「皆、集まってくれ」

 辺りに転がるモンスターの死体を眺めていると、オーウェンが呼びかけた。

 周囲に散らばっていた仲間たちが彼のところへ集まっていった。
 俺も同じように近づいていく。

「ここまで到達できたなら、後は住民に紛れてモンスターを減らすだけだ」
「そうね、それなら最小限の被害で実行できるかも」
「……そうだな」

 ベネットは乗り気だったが、イアンは微妙な反応を示した。

「あんたたち、頼むぜ。こんなところで仲間割れしてる場合かよ」
「今度ばかりは彼に同意します。二人共、切り替えて下さい」

 リュートとエレンの言葉にオーウェンとイアンは驚いた様子を見せた。

「わかっている。今は作戦を優先したい」
「すまない。君たちの言う通りだ」

 オーウェンとイアンは口々にそう言うと、どちらともなく手を取り合った。

「志は違えども奪還という目的は同じ。協力しなければ」
「こちらこそすまなかった。とにかく、作戦を遂行しよう」

 二人は決意に満ちた眼差しで互いを見ていた。   
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