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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

死闘の決着

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 オーウェンは優れた戦士であるが、今度の動きは目で追いきれなかった。
 鬼神の如き速さで間合いを詰め、ネクロマンサーが防ぐ前に攻撃を仕掛ける。

 やつはこちらの魔術に気を取られていたので、わずかに隙が生じていた。

 オーウェンの一撃は首の辺りに直撃した。
 その勢いでネクロマンサーの頭部が落下した。

「……今度こそ、やったか」

 通常のモンスターとは異なるため、これで絶命するのか不安があった。

 やがて、ネクロマンサーの頭部と残された胴体は黒い煙を上げながら消滅した。

「カナタ、やったぞ」

 オーウェンが笑みを浮かべて戻ってきた。
 他の仲間たちを見ると、制圧の魔術から解放されて動けるようになっている。

「やれやれ、二人にいいところを持って行かれちまったな」
「無事に解決したんだからよしとしましょう」

 解放されて早々にリュートとエレンが小競り合いを始めた。

「二人とも止めてくれ。まずは砦に戻ろう」

 オーウェンの指示で俺たちはネクロマンサーのアジトを後にした。
 
 行きとは違い暗くなった洞窟を抜けて森に出る。
 親玉を倒したとはいえ、仲間たちは周囲の様子を警戒していた。
 
 俺は火の魔術を、松明が残る者たちはそれを掲げて灯りを取っている。

 相変わらず真っ暗で不気味な森の中を歩き始めた。 
 隣にはオーウェンが並んでいる。

「……カナタ、一体あれは何だったのか」
「さあ、オーウェンが分からない以上、俺も検討がつきません」
「それはそうか。もっともなことだ」

 皆、口数が少なく、ネクロマンサーに遭遇した余韻が残っているように感じた。

「魔術がなければ、あいつを倒すことはできなかった。これからも協力を頼む」
「それは、もちろん」

 オーウェンの声は重みがあった。
 彼らに協力すると決めた以上、この戦いが終わるまで付き合うつもりだった。

 
「おおっ、無事だったか! 心配していたんだ」

 砦の中に入ると、イアンと数人の仲間が駆け寄ってきた。

「ええ、どうにか帰ってこれました」

 俺がそう答えた後、出迎えた仲間たちから歓声と拍手が湧き起こった。

 それから、帰還した仲間たちと一緒にネクロマンサーの洞窟で起きたことを説明した。
 会議のようなかたちで限られた人数が集められ、砦の一室で話すことになった。

「……そうか、そんな危険な存在が原因だったとは」
  
 イアンは俺たちの話を聞き終えると神妙な顔つきになった。 
 
「無事に戻ってこれたのは奇跡みたいなものだ」

 オーウェンは落ち着いた様子で話した。

「魔術は危険な能力だ。カナタ殿が味方で心強い」
「そういってもらえるとありがたいです」

 イアンの言葉に照れくさい気持ちになった。

「よくぞ、戦い抜いて下さった」
「英雄の如き活躍だ」

 その場にいた仲間が口々に賞賛の言葉を述べていた。
 何だか恥ずかしくなって、その場を離れたくなった。 

「……そうか、勇者の伝説だ」
「奇遇だな。私も同じことを考えていた」

 イアンとオーウェンが互いに見合っている。
 
「ただの昔話かと思っていたが、あながち的外れではない」

 オーウェンがこちらを見たところで、自分の話題だと察した。

「……何か?」 
「広くこの地に伝わる伝承なのだ」

 ――窮地に陥った時、彼方の地より勇者が現れ、救いの奇跡を起こすだろう。
 
 彼はこう説明してくれた。

 自分は勇者などではないと弁解しようと思ったが、それはそれで彼らの希望を壊してしまうような気がした。

 俺は否定も肯定もしないでおこうと考えた。


 話し合いが終わった後、女王や市民も待機している広間に戻った。
 メリルはそこで警護をしていて、こちらに気づくと近づいてきた。

「カナタさん、無事でよかったです」
「ありがとう。なかなかの強敵だったよ」

 彼女は微笑みを浮かべて、嬉しそうな様子だった。

 こうして帰ってこれてよかったと思う。
 ネクロマンサーは今まで戦った中で一番危険だった。

 マナをかなり消費したし、まずは休むとしよう。

 俺は古びた椅子に腰掛けて、そっと目を閉じた。
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