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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

謎の存在の正体

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 謎の人物が召喚しているようでグールが絶え間なく現れている。
 俺たちは協力しながら攻撃を防いでいた。

「まさか、モンスターを召喚する魔術があるなんて」
 
 今までの経験では、そんなことが可能だとは想像もつかなかった。
 だが、現にグールはどこからか現れて襲いかかってくる。 

 精鋭たちの力で応戦できているものの、劣勢になるのは時間の問題だ。

「……今ならやれるか」
 
 謎の人物が鍵を握っていることは明らかだった。
 俺は波状攻撃の隙を突いて、玉座に座る人物へと火球を放った。

「くっ、ダメか……」

 威力が不十分なようで見えないか何かに遮断された。

「カナタ、あいつを攻撃したいのか?」
「ええ、どう見てもあれが怪しいです」
「よしっ、任せろ」

 オーウェンは懐から短剣を取り出すと、謎の人物に向けて投げつけた。
 それは速度を保ったまま頭部に直撃した。

「――やったか!?」

 たしかに短剣は頭部を居抜いたはずだった。
 
 しかし、血が流れることもなければ叫び声が上がることもなかった。

「……どうなってるんだ」

 得体の知れない存在に恐怖を覚えていた。

 謎の人物は何事もなかったかのように突き刺さった短剣を抜き取ると、他愛もないと言いたげな動作で投げ捨てた。ナイフの着地する金属音が空(むな)しく鳴り響く。

 ふと、いつの間にか目深に被っていたフードが脱げていることに気づいた。

「――何と奇妙な!?」
「……不気味ですね」

 俺とオーウェンはその様子に注視していた。

 フードの下にはむき出しの骸骨と怪しい光を浮かべる二つの赤い瞳があった。

「おいおい! 突っ立てたら危ないぞ!」

 俺とオーウェンが気を取られていると、リュートが援護してくれた。
 いつの間にか複数のグールが近づいていた。

 咄嗟に火の魔術を発動して、正面にいる敵を吹き飛ばした。


 やがて、同じ空間にいるグールを全て倒しきった。 

 この期に及んでも、謎の人物は玉座に陣取ったままだった。 
 身じろぎせずに赤く不気味な瞳でこちらを見ている。

「ほう、なかなかやるではないか」

 くぐもったような奇妙な声が響いた。

「ガイコツ野郎、何が目的だ」

 リュートが挑戦的な様子で語りかけた。

「我はネクロマンサー。死を司る者なり」

 謎の人物は彼の言葉を無視して、名乗りを上げた。

「何、ネクロマンサーだと……」

 オーウェンが困惑したように言った。

「何か知ってますか?」
「大した情報は持ち合わせてないが、ネクロマンサーとは伝承に登場する死神の一種だ。本来なら死を司る存在がそれがなぜこんなところに……」

 彼の死を司る者という言葉に恐怖を覚えた。

「……もしや、さらわれた人々はグールにされたということか」
「猛き戦士よ、おぬしの想像通りだ。配下を増やすためにさらった」
「貴様、何ということを……」

 オーウェンは拳を握りしめて、怒りの感情を露わにした。
 今にも飛びかからんとばかりに険しい表情をしている。

「おいっ、ちょっと待て。おれたちが斬ったのは市民だったということか」 
「あのドクロの話が本当なら、そういうことになりますね」

 リュートとエレンは意見が一致したように互いを見合わせた。

「それを聞いて、生かしておけるわけがねえ!」
「癪ですが、同意見ですよ」

 二人は軽やかな身のこなしで駆け出した。
 チーターなどの猛獣を彷彿とさせる素早い動作だった。

 そして、彼らは距離を詰めてネクロマンサーに突きを見舞った。  
   
 二本の槍がフードの外れた骸骨に突き刺さった。

「どうだ!」
「座ったままだなんて、いくらなんでも隙だらけですよ」 
 
 リュートとエレンは勝ち名乗りを上げるように言葉を吐いた。

「――槍使い諸君、これで終わりかね」

 がらんどうの頭部から気怠さを纏うような声が発せられた。
 そして、からからと嘲るような声が聞こえた後、突風が吹き抜けた。

「くっ、何だ!?」
「一体、何が!?」

 二人はその風に飛ばされて、こちらに戻ってきた。

「これは手こずりそうな相手ですね」
「カナタ、簡単に諦めてくれるなよ」
「ええ、当然です」

 オーウェンは助力を求めるような表情でこちらを見ていた。
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