上 下
162 / 237
こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

町への潜入

しおりを挟む
 町の周囲は切り立った崖になっていて、関所以外からは出入りが困難に見えた。
 アルヒやタラサでは木材で作られた建物が中心だったが、ここでは石材で作られた建物が並んでいる。

 緑や橙など、色とりどりの民族衣装のような服を身につけた人たちが通りを行き交っていた。一見した感じではモンスターの支配があるとは考えられなかった。

「俺たちの服装は目立つから表通りを歩くのはやめない?」
「たしかにそうですね。人通りの少ない道を選びましょうか」
 
 俺とメリルは方向転換して、移動を開始した。
 
 中心の通りを離れるだけで、通行人の数はずいぶん減っている。
 周囲を観察していると、ところどころに露天商の姿が目に入った。

「町の真ん中に比べると治安が悪そうだ」
「モンスターの姿は見えませんが、雰囲気がいいとは言えなそうですね」

 メリルは固い表情になっていた。
 辺りの様子を警戒しているのだろう。

 視線を受けるのを感じながら裏通りを歩いた。
 見慣れない格好の俺たちを物珍しく思っているようだが、特に危害を加えてこようとする様子は見られなかった。

 露店では食べ物や雑貨のような物が並べられ、買い物客がちらほら目に入る。
 日常的な光景に見えるものの、彼らのほとんどが訝しげな視線を向けてきた。
 
「……早く通りすぎましょう」
「そうだね」

 俺たちは裏通りを抜けて歩き続けると、人気のまばらな高台についた。
 あえてたずねることはなかったが、メリルはどこに行くべきか定まらないようで、漠然と道なりに歩いているような雰囲気だった。

「この町にも組織の仲間が潜伏しているはずなのですが、人口が多いところなので見つけるには時間がかかりそうです」

 メリルの言葉から戸惑いを感じた。
 ここからは町の様子を見渡すことができるが、建物の数が膨大で一軒一軒回るのは現実的とは言いがたい。合流するのは至難の業だろう。

「仲間同士で連絡を取れる手段があればいいのにね」
「……連絡ですか?」

 彼女はよく分からないといった様子で、不思議そうな顔をしていた。
 ウィリデやフォンスほど文明が栄えていないので、そのような手段は存在しないのかもしれない。
 
「いや、何でもない。忘れて」

 俺は曖昧に笑みを浮かべて、気まずさから逃れようとした。

 ――とその直後だった。
 
 どこかで爆発音がして、複数の悲鳴や叫び声が聞こえてきた。

「――カナタさん」
「ああっ、行こう」  
  
 俺たちは高台を離れて、音のした方へ走り出した。

 最初は大まかな方向しか分からなかったが、煙が上がり始めたのでその方角に向かった。

「戦いが始まったぞ!!」
「早く逃げなきゃ!!」

 多数の通行人がこちらに向かって逃げてくるので上手く進めない。
 ほとんどの人たちがパニックになっていて、勢いで弾き飛ばされそうだった。
 
 俺とメリルは人通りの少ない道を選びながら、急いで目的地に向かった。

 やがて、それらしき現場に到着すると、すでに戦闘が始まっていた。

「メリル、これは……」
「はい、始まりの青の仲間とモンスターが交戦中です」

 複数の戦士がモンスターと戦っているが、彼らがメリルの仲間なのだろう。
 すでに負傷者が出ており、モンスターの死体やケガ人が見受けられた。

「わたしたちも戦いましょう!」
「ああっ、もちろん」 

 俺はマナの密度を高めながら、右手に意識を集中した。

「――危ない!」

 一体のコボルトが剣を振り下ろしてきたところで、メリルが割って入るようにして攻撃を防いだ。
 反撃のためにすぐさま氷魔術を放つと氷漬けにすることに成功した。
  
 他にも敵は大勢いて、こちらに向かってくるモンスターが視界に入っている。 
 
「これは気が抜けそうにないね」
「何とか切り抜けましょう」

 俺とメリルは二人で連携するようなかたちで迎撃体制に入った。
 獲物を見つけた獣のようにモンスターが迫ってくる。

 戦いの最中で冷静さを失うとどうなるかは、カルマンとの戦いで教えられた。
 肌の上を冷たい何かがつたうのを感じながら、魔術の発動に意識を傾けた。
 
 メリルや友軍を巻きこまないためには、出力を抑える必要がある。
 まずは各個撃破するつもりで戦わなければならない。

 そうこうするうちに、近くにきたゴブリンとメリルが剣を交えた。
 続けてその間に、他のモンスターが接近している。

 まずは彼女の援護をしなければと狙いを定めていると、数秒後にゴブリンがその場で崩れ落ちた。

「やりました!」
「まだ来るよ、油断しないで」
「――はい!」
 
 今度は突進してくるオークに狙いを定めて火球を放った。
 直撃すると短い悲鳴を上げて、そのまま倒れ込んだ。
 
 俺とメリルは同じ場所で戦闘を繰り返した。
 何体か連続して倒したものの、まだまだ敵がいる。

「このままではキリがないな」
「今までとは比べものになりませんね」

 次第にモンスターを追い払うまで戦う決意が固まってきた。 
 長い戦いになりそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...