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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

ゴブリンとの遭遇

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 町の中心部を物陰から観察していた。

 しばらくすると、町の人たちと三体のゴブリンがやってきた。

 アルヒ村と同じく強制的に働かされているようで、戻ってきた人たちの顔には一様に疲れの色が浮かんでいるように見えた。

 耳を澄ましていると、ゴブリンたちの会話が聞こえてきた。
 
「おらおら、しゃっきと歩け! のろのろしてると食べちまうぞ」
「アニキ、勝手に食べたりしたら、オラたちが魔王様にお仕置きされる」
「人間どもの管理はかったるいな。俺様は前線で戦いたいぜ」
「オトウト、オラたちゴブリンが前線に行っても、五秒ともたない」

 細長い耳に特殊メイクでも施したようなつるりとした緑色の肌。
 切れ長な二つの目からは残忍そうな性質が窺える。

 実際に妖怪人間が存在したらこんな感じだろうと想像した。

 地肌に直接ベストのような物を着こみ、ボロ布のようなズボンを履いている。
 オークと同じように言葉を喋り衣服を身につけているので、多少の知能は有しているようだ。

 彼らの会話の内容からすると、三兄弟といったところか。

 特に屈強でもなければ、手に負えないほど素早いようにも見えない。
 率直な感想として、この場で葬り去ることは十分に可能という印象を受けた。
 
 メリルに目線で確認したが、彼女からは待つようにと反応があった。

 そのまま様子を眺めていると、ゴブリンたちは引き上げていった。

「実はゴブリンにさらわれた人がいるという情報があったので、今からゴブリンたちを尾行したいと思います」
「そういうことか。それじゃあ行こう」

 俺たちが町の人たちにできるのはゴブリンを倒すことぐらいだ。
 彼らのことを気の毒に感じたが、メリルと共にその場を後にした。

 ゴブリンたちは賢そうには見えなかったが、それは予想通りだった。
 尾行を開始しても気づく素振りはなく、罠の類も見当たらなかった。

 それでも、見つかるわけにはいかないので、慎重にゴブリンたちの後を歩いた。
 
 メソンの町を離れたところで、徐々に背丈の高い藪が目立つようになってきた。
 彼らがよく使う道らしく、何回も行き来した痕跡が獣道のように残っている。
 
 ところどころ曲がりくねっていて、藪に身を隠して進むには最適だった。
 見失わないように追い続けると、前方に立派な巨木が目に入った。
 
 今まで見たことのないような幅の広い幹がどっしりと構えていて、人がぶら下がってもびくともしなさそうな太い枝が四方八方に伸びている。

 生気を感じる若葉がついているので朽ちた木ではないようだ。

 根っこが地面からせり出すように生えていて、ゴブリンたちはその下に空いた空間に入っていった。

 こちらからでは奥行きが分からず、追跡すべきか判断がつかなかった。
 まずはメリルと話し合った方がいいだろう。

 俺は藪の陰に隠れたまま、前にいる彼女に声をかけた。
 
「どうする? あの中はゴブリンの住処みたいだし、下手に突っこんだら返り討ちに合いそうな気がするけど」
「さらわれた人が中にいるなら、あまり刺激しない方がいいと思います。わたしも突入には賛成できかねます」

 俺たちの意見は同じだった。
 ただ、救出を考慮する場合、手をこまねいているわけにもいかない。

「――わたしに考えがあります」

 メリルに作戦を聞いてから、それを実行するべく行動を開始した。


「……頭悪そうなモンスターだったから、こういう手でいいのか」

 ゴブリンたちの住処を前にして、そんな言葉が口をついた。
 メリルは後方で様子を見守っている。 

「さて、やるとするか……」

 俺は拾ってきた数本の木の枝に、火の魔術で着火して穴の中に投げ入れた。

 害虫駆除の手伝いをしているよう気分だが、ゴブリンが普通に呼吸をする個体なら耐えきれずに出てくるはずだ。

 そのまま待つこと、一、二分後。

 穴の中から複数の足音が聞こえてきた。
 慌ただしいその様子に、スモーク作戦の効果を実感した。

 外に出てきた三体のゴブリンが正面に姿を現した。

「どこのどいつだ。こんなものを投げこんだのは!?」

 おそらくゴブリン長兄が、炭になった木の枝を乱暴に投げ捨てた。
 予想通りではあるものの、ずいぶんご立腹のようだ。

「……アニキ、あそこに人間が」
「あいつが犯人か。俺様が成敗してやる」

 弟ゴブリン二体も、それなりに怒っているように見えた。

「ちょっと待った。一つ質問が」

 メリルとの打ち合わせと違うが、直接確かめた方が手っ取り早いだろう。

「さらってきた人はその中にいる?」

 俺は穴の方を指さした。

「はっ? 何だって? 我らがさらってきた人間を助けにきたのか」

 怒りマックスだと思っていたが、意外にもゴブリン長兄は反応を示した。

「まったくもってその通りだけど?」
「はははっ、残念だな。その人間なら移送した。それにお前はここまでの命だ」
 
 怒りの矛先が見つかったことで、ゴブリン長兄はご機嫌になったようだ。
 薄気味悪い笑い声を上げてから、腰に提げた刃物を引き抜いた。

「アニキ、こいつは奴隷じゃないから食べてもいいよ」
「人間よ、少しは抵抗してくれよ。弱すぎては訓練にならん」

 弟二体も臨戦態勢に入ったようだ。

「……ごめん。先に謝っておく」

 俺とゴブリンまでの距離は十メートル以上離れている。
 シモン級の武人でもない限り、この間合いは安全圏だった。

 俺は魔術を発動して、三体同時に狙いを定めた。

 ほんの少し戸惑うような素振りを見せたゴブリンたちに向けて、凍てつく空気が吹きつける。

「――うぁっ……」

 小柄で背丈の低いゴブリンを凍らせるのは簡単だった。
 緑色の肌に霜のようなものが張りつき、三体とも動きを止めた。
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