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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

周辺の状況について教わる

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 案内された民家の中は、外観に比べて小綺麗で床も壁も木製だった。

 部屋の中心に木材で作られた簡素な椅子と机が並び、壁際に調理場のような物がある。
 それから保存食と思しき乾燥した肉が壁に吊り下げられていた。
 
「どうぞ、好きなところに座ってください」

 ここに連れてきた人物からそう促されて、近くの椅子に腰かけた。
 相手が向かいに腰を下ろしたところで、その人物が女性だと気づいた。

 声がやや高く肌もしっとりしているように見えたが、彼女が線の細い体型で胸がさほど大きくないこともあって、性別の見分けがつきにくかった。

「わたしはメリルといいます」
「俺はカナタ。この辺りの人間ではないから、色々と教えてほしいかな」
「ええ、そのつもりです」

 先ほどの少年は同席しておらず、彼女と二人きりの状況だった。
 初対面の相手をそこまで信用することはないので、何か込み入った話でもするつもりだろうか。

「先に一つ質問をよろしいですか?」
「ああっ、どうぞ」
「その黒髪とモンスターのことを知らない様子からして、どこか遠くからいらしたのですか?」

 メリルは鋭い目つきはそのままに、こちらを探るような目をしている。
 あまり不審に思われることはしたくないが、そんな目で見られると物怖じしてしまう。

「ええまあ、だいぶ遠くから」
「……この村以外にも、近隣にはモンスターがいるはずですが、よく捕まらなかったですね」
「人目を避けて移動してたから、大丈夫だったのかと」

 空を飛べるということは重要事項な気がしたので、無闇に打ち明けることは避けることにした。

「そうですか。モンスターを倒そうとしていたので、腕に自信があるのでしょうか。それにその装備も戦士が使いそうなものですし」

 たしかに装備だけは一流の戦士が身につけるものと大差ないのかもしれない。

「正直、腕に自信ありってほどではない。あと、多少は魔術が使えるかな」
「……魔術ですか? ということは魔術師?」
「まあ、そんな感じ」

 メリルは険しく見える表情を緩めていた。
 何かを考えるような間があった後、再び口を開いた。

「お気づきかもしれませんが、この村、そして周辺の地域はモンスターに支配されています。わたしとその仲間はその状況に反旗を翻すために活動しているところです」
「なるほど、そういうことか」

 イノブタもどきが偉そうにしていた理由が分かった。
 ウィリデの状況と比べると、にわかに信じがたいところもあるが、俺が降り立った一帯はモンスターに支配されているようだ。

「……できれば、わたしたちに協力してくれませんか?」
「ええと、俺が?」
「はい、そうです」

 メリルは真剣そうな表情でこちらを見ている。
 
「実力を見てからでもいいんじゃ」
「戦力が十分ではないので、人手は大いに越したことはありません」

 もっともらしい意見だった。
 人手が足りていれば、見ず知らずの他人に声はかけないだろう。

「分かった。困っているようなら力を貸してもいいよ」
「あ、ありがとうございます」 

 メリルが嬉しそうに微笑む様子は、先ほどとは別人のようだ。
 
「早速ですが、明日の朝に作戦を決行する予定なので、ぜひ協力してください」
「おおっ、いきなりだね」
「まずはこの村を監視しているオークを倒して、それから他の町や村を助けに行きます」

 魔術があれば自分の身を守る自信はあるものの、彼女とその仲間たちの体当たりにも思える作戦がどれぐらい上手くいきそうなのかを測りかねた。

「わたしはこの村出身ではないので、この家は隠れみのとして使わせてもらっています。最低限の物しかありませんが、明日の朝まではここをお使いください」

 室内を見渡すとベッドが二つあった。
 とりあえず、ここで眠ることはできそうだ。

 メリルの話が終わってから、食事を分けてもらい口にした。
 簡素な食べ物から村周辺の暮らしぶりが分かるような気がした。

 彼女は何度か部屋を出入りしていたが、俺はモンスターに見つかるのを避けるために外出は控えておいた。

 メリルとは知り合ったばかりで会話がそこまで弾むことはなく、その内容は作戦のことなど事務的なものがほとんどだった。
 
 特にやることもなかったので、適当なタイミングでベッドに入った。
 慣れない環境とモンスターがいることを知ったこともあり、なかなか熟睡できないまま朝を迎えた。

 メリルは同じ部屋の別のベッドで眠っていたが、規則的な寝息が聞こえていた。

 朝になってから唯一にして最大の自衛手段である魔術のコンディションを確かめたが、マナの状態は普段通りだった。それと携えている剣はおまけにすぎない。

 作戦決行の時間が近づく中、自分の培った魔術がどれだけモンスターに通用するのか、不安と期待が入り交じる思いだった。
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