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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―
人質を取るのは敵役の定番すぎる件
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シモンが強敵を引き受けてくれたので、俺を含めた他の面々は移動を続けた。
前方には大きな口をぽっかりと開くように城の入り口が見えている。
敵の親玉を叩けば戦いが終わるなら、サクッと倒して決着をつけたい。
先へ先へと急くような気持ちを抱きつつ、城内に続く階段を上がった。
「さあ、奥へ進んでくれ。城を落として士気を下げさせるんだ」
この中で一番状況に詳しいオラシオが、シモンの役割を引き継いでいた。
その声に応じるように、全体のペースが早まった気がした。
俺もがんばるぞと勢いこんで前に踏み出すと、目の前の地面に矢が刺さった。
どこからか多数の弓兵が現れて、こちらに弓を向けていた。
意表を突かれた拍子に立ち止まると、さらに無数の矢が飛んできた。
俺は咄嗟に氷魔術で盾を作って防御した。
「――弓兵がいるぞ! 皆、気をつけろ!」
どこかで味方の一人が声を上げた。
フォンスの兵士は盾で防御して、魔術が使える人は何らかの方法で上手く回避している。
すでに飛び道具の攻撃を食らっているので、同じ武器でやられたりはしない。
とはいえ、武器庫からありったけの量を持ってきたのかというような矢の雨が降り注ぎ、誰も反撃に出られない状況に陥っている。
破格の強さを誇るディアナに期待して視線を向けてみたが、彼女はかまくら状の氷壁を作って隠れていた。防御は完璧でも反撃しそうな様子は見られない。
「これは困ったな。完全に防戦一方だ」
矢に討たれる仲間はいないものの、こちらから仕掛けることはできそうにない。
敵の矢が尽きるまで待ってから、反撃の機会を伺おう。
シモンが不在でクルトが前線に加わっていないため、指揮する役割の人間がいない状況だった。今は個人で判断するしかない。
死の恐怖と隣り合わせのまま、長い時間が過ぎていた。
さすがに矢の貯蔵が無限ということはないようで、攻撃の手が緩み始めている。
「矢数が少なくなったら、距離を詰めて反撃だ!」
まだ万全の状態ではないはずだが、クルトが前線近くまできていた。
彼の指示に応じるように、味方がじりじりと弓兵へと近づいていく。
防御魔術を発動したままではマナが目減りするだけなので、俺も同じように攻めに転じる必要がある。
徐々に飛んでくる矢の数は減り、魔術で防御していれば進めそうだった。
守るだけでなく、どこかのタイミングで攻撃を仕掛けないと。
仲間たちと距離を詰めていくと、弓兵の数人が撤退するのが見えた。
ついに矢が底をついたのかと期待した。
しかし、直後にそれはぬか喜びだと気づいた。
カルマン兵たちは人質を連れて戻ってきた。
四、五人のドワーフたちが目隠しをされて、刃物を突きつけられている。
「おのれ、卑怯者が! 人質を取るなど許せない!」
珍しくクルトが感情を露わにした。
彼は正義感が強いので、人質を取ることに怒るのも自然なことだろう。
俺やクルト、他の仲間達から敵の場所まで、二十メートル以上は離れている。
普通の武器や魔術で仕掛ければ、その前に人質が殺されてしまう。
それに敵の矢がゼロになった保証はない。
こちらが攻勢に転じたはずなのに、手詰まりになってしまった。
敵味方、どちらも打つ手がないまま、膠着状態に陥っていた。
仲間の危機を前にして、オラシオが一番動揺しそうだが、敵を興奮させないようにと自分を抑えているように見えた。
人質が一人ならば、隙を突くことも可能かもしれない。
しかし、二人以上いる状況では突撃は悪手にしか思えない。
息詰まる状況が続く中で、ふいに強い風が俺たちの間を吹き抜けた。
その直後、人質を取っていた敵兵たちが一人、また一人と倒れていった。
「……何が起きてるんだ?」
やがて、前方に陣取っていたカルマン兵は全滅して、人質が解放された。
「いやー、人質取るなんて悪い奴らの典型ですね」
そこにはいつもの調子で話すシモンの姿があった。
どんな技を使ったのか分からないが、彼がやってのけたようだ。
「シモン、見事だ!」
クルトが喜びの声を上げ、オラシオはドワーフたちの元へ駆けていった。
俺も様子が気になって、シモンの方に歩いていった。
「……あれ、マナの反応が」
シモンの近くに行くと外見はいつも通りだが、魔術師でもない彼の身体からマナの気配を感じた。なにか魔術を使ったのだろうか。
「もしかして、秘密兵器でもあるんですか?」
「おっと、魔術師の人には分かっちゃいますよね。秘密にしてくださいな」
シモンはすごい技を隠し持っているようだが、仲間のクルトにさえ教えたくないようだ。それなら口外する必要もないだろう。
「そういえば、見るからに手強そうだった相手はどうなりました?」
「ああっ、それなら同じ感じで返り討ちにしました。ちょっとズルいですけどね」
シモンは少し照れくさそうにいった。
謎は多いものの、味方としては心強い限りだと感じた。
城の守りをことごとく退けてきたので、カルマンの偉い人たちのところまで後少しでたどり着けるはずだ。
きっと、この戦いの幕引きまであと少しに違いない。
そう感じながら、仲間たちの様子を眺めた。
前方には大きな口をぽっかりと開くように城の入り口が見えている。
敵の親玉を叩けば戦いが終わるなら、サクッと倒して決着をつけたい。
先へ先へと急くような気持ちを抱きつつ、城内に続く階段を上がった。
「さあ、奥へ進んでくれ。城を落として士気を下げさせるんだ」
この中で一番状況に詳しいオラシオが、シモンの役割を引き継いでいた。
その声に応じるように、全体のペースが早まった気がした。
俺もがんばるぞと勢いこんで前に踏み出すと、目の前の地面に矢が刺さった。
どこからか多数の弓兵が現れて、こちらに弓を向けていた。
意表を突かれた拍子に立ち止まると、さらに無数の矢が飛んできた。
俺は咄嗟に氷魔術で盾を作って防御した。
「――弓兵がいるぞ! 皆、気をつけろ!」
どこかで味方の一人が声を上げた。
フォンスの兵士は盾で防御して、魔術が使える人は何らかの方法で上手く回避している。
すでに飛び道具の攻撃を食らっているので、同じ武器でやられたりはしない。
とはいえ、武器庫からありったけの量を持ってきたのかというような矢の雨が降り注ぎ、誰も反撃に出られない状況に陥っている。
破格の強さを誇るディアナに期待して視線を向けてみたが、彼女はかまくら状の氷壁を作って隠れていた。防御は完璧でも反撃しそうな様子は見られない。
「これは困ったな。完全に防戦一方だ」
矢に討たれる仲間はいないものの、こちらから仕掛けることはできそうにない。
敵の矢が尽きるまで待ってから、反撃の機会を伺おう。
シモンが不在でクルトが前線に加わっていないため、指揮する役割の人間がいない状況だった。今は個人で判断するしかない。
死の恐怖と隣り合わせのまま、長い時間が過ぎていた。
さすがに矢の貯蔵が無限ということはないようで、攻撃の手が緩み始めている。
「矢数が少なくなったら、距離を詰めて反撃だ!」
まだ万全の状態ではないはずだが、クルトが前線近くまできていた。
彼の指示に応じるように、味方がじりじりと弓兵へと近づいていく。
防御魔術を発動したままではマナが目減りするだけなので、俺も同じように攻めに転じる必要がある。
徐々に飛んでくる矢の数は減り、魔術で防御していれば進めそうだった。
守るだけでなく、どこかのタイミングで攻撃を仕掛けないと。
仲間たちと距離を詰めていくと、弓兵の数人が撤退するのが見えた。
ついに矢が底をついたのかと期待した。
しかし、直後にそれはぬか喜びだと気づいた。
カルマン兵たちは人質を連れて戻ってきた。
四、五人のドワーフたちが目隠しをされて、刃物を突きつけられている。
「おのれ、卑怯者が! 人質を取るなど許せない!」
珍しくクルトが感情を露わにした。
彼は正義感が強いので、人質を取ることに怒るのも自然なことだろう。
俺やクルト、他の仲間達から敵の場所まで、二十メートル以上は離れている。
普通の武器や魔術で仕掛ければ、その前に人質が殺されてしまう。
それに敵の矢がゼロになった保証はない。
こちらが攻勢に転じたはずなのに、手詰まりになってしまった。
敵味方、どちらも打つ手がないまま、膠着状態に陥っていた。
仲間の危機を前にして、オラシオが一番動揺しそうだが、敵を興奮させないようにと自分を抑えているように見えた。
人質が一人ならば、隙を突くことも可能かもしれない。
しかし、二人以上いる状況では突撃は悪手にしか思えない。
息詰まる状況が続く中で、ふいに強い風が俺たちの間を吹き抜けた。
その直後、人質を取っていた敵兵たちが一人、また一人と倒れていった。
「……何が起きてるんだ?」
やがて、前方に陣取っていたカルマン兵は全滅して、人質が解放された。
「いやー、人質取るなんて悪い奴らの典型ですね」
そこにはいつもの調子で話すシモンの姿があった。
どんな技を使ったのか分からないが、彼がやってのけたようだ。
「シモン、見事だ!」
クルトが喜びの声を上げ、オラシオはドワーフたちの元へ駆けていった。
俺も様子が気になって、シモンの方に歩いていった。
「……あれ、マナの反応が」
シモンの近くに行くと外見はいつも通りだが、魔術師でもない彼の身体からマナの気配を感じた。なにか魔術を使ったのだろうか。
「もしかして、秘密兵器でもあるんですか?」
「おっと、魔術師の人には分かっちゃいますよね。秘密にしてくださいな」
シモンはすごい技を隠し持っているようだが、仲間のクルトにさえ教えたくないようだ。それなら口外する必要もないだろう。
「そういえば、見るからに手強そうだった相手はどうなりました?」
「ああっ、それなら同じ感じで返り討ちにしました。ちょっとズルいですけどね」
シモンは少し照れくさそうにいった。
謎は多いものの、味方としては心強い限りだと感じた。
城の守りをことごとく退けてきたので、カルマンの偉い人たちのところまで後少しでたどり着けるはずだ。
きっと、この戦いの幕引きまであと少しに違いない。
そう感じながら、仲間たちの様子を眺めた。
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