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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

それぞれの戦い

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 城壁内に足を踏み入れたばかりなのに、エリスが多数の兵士を蹴散らした。
 その結果、増援が来る気配がないぐらいに打撃を与えたようだ。

 敵に勢いがあったのは最初だけで、今は俺たち以外に人の気配がない。
 おそらく、民間人は家の中で嵐が過ぎ去るのを待っているのだろう。

 俺たちは町の様子を警戒しながら、城に向かって移動を始めた。

 戦闘員がいないため、邪魔する者はおらず、街を自由に動き回れた。
 今は案内役としてオラシオがシモンと並んで先頭を歩いている。

「援軍が目的とはいえ、まさかカルマンの城まで行くことになるとは」

 隣を歩くエルネスが感慨深げにいった。

「来ることができてよかったですか?」
「戦いが理由なので複雑ですが、フォンスやカルマンに来られて新鮮な経験になったと思います。カナタさんと出会わなければ、同じようになっていたか分かりません」

 彼に感謝されて少し照れくさい気持ちになった。
 このまま、危険に身を晒すことなく帰ることができればよいが、敵前逃亡するわけにもいかない。人数は少ないが、皆で城を攻める必要がある。

 そのことを考えると気が重くなるので、あまり考えすぎないようにしていた。

 城壁内の街並みはエジプトや砂漠の街を連想させるような雰囲気だった。
 土や砂を固めたような建物がほとんどで、通りには露店のようなテントが並ぶ。

 今まで得た情報では、危険な戦闘狂の国という偏ったイメージが先行していたものの、普通に人々が生活しているというのは意外に感じられた。

 ここで住民たちが生活する様子が分かれば、さらにリアリティが増しそうだが、先ほどの戦闘が影響して周囲に人の気配は見当たらなかった。
 観光に来たわけでもないので、街を堪能する必要もないか。 

 ゴーストタウンかと思えるほど静かな通りを歩き続けると、ついに城の前に到着した。

 彼らにとって、俺たちは追い返すべき相手のはずなのに誰も出てこない。 
 どうやら、先ほどの戦いで警護兵まで出払ったようだ。

 先を行くシモンとオラシオは周りを確認していたが、問題ないようで城へ進んでいいと合図を送ってきた。

 気の抜けるような状況のまま城へ入ろうとしたところで、どこからか馬が駆ける音が聞こえてきた。

「……おやっ、この気配は」

 俺は状況が把握できなかったが、シモンがいち早く反応を示した。

「えっ、何が――」

 こちらが状況判断をしている間に、彼は剣を抜いて踏み出していた。 
 その直後に金属と金属がぶつかる甲高い音が響いた。

「下郎どもが。城には入らせん」

 それは前に見かけた謎の兵士だった。
 あの時と同じように、危険を感じさせる空気を身にまとっている。

「魔術師は相性が悪いので、こいつはおれに任せて下さい。みんなは城へ」

 シモンが落ち着き払った声でいった。
 冷静に見える反面、研ぎ澄まされた刃物のような冷たさを感じる。

「シモンよ、カルマンの兵士長は腕利きだぞ。油断するな」

 オラシオが励ますように言うと、シモンは無言のまま頷いた。 

 俺たちは彼の言葉を受け入れて、城の中へと足を踏み入れた。
 シモンのことが気がかりだが、俺が手伝えそうな戦いではないことだけは直感的に理解していた。
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