上 下
117 / 237
揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

夜襲に気をつけて その2

しおりを挟む
「カナタさん、外に何かありましたか?」

 宿屋の中に戻ると、エルネスが立っていた。

「いや、何というか、屋外のチェックをですね」

 途中で居眠りして、外の様子が心配になったとは言いづらかった。
 俺は何事もないふりを装いつつ、置いてあった椅子に座った。

「ところで、外に行ったらフォンスの人がこの辺を見張ってくれてましたよ」
「そうですか、それなら僕たちでやる必要はないかもしれませんね」

 エルネスは納得したように首を縦に振った。

「適当に交代しようと思っていたのですが、見張りはなしにしましょう」
「ピンポイントにここが狙われるとも考えにくいですよね」

 夜襲されるなら、兵士が休んでいる馬車や狙いやすいところだと思うものの、目立つ場所はクルトやシモンが守りを固めているだろう。
 それに見張りがいる宿屋をわざわざ襲撃するとは思えない。
 
「今日はいろんなことがあったので、できれば寝ていたいです」
「たしかに、いくらエルネスでも疲れますよね」 

 距離感が近くなってきたのか、彼は素直に思っていることを話してくれるようになった気がする。以前なら疲れていても疲れたとは言わなかったはずだ。

「それじゃあ、部屋に戻りますか」
「ええ、そうしましょう」

 俺たちはそれぞれの部屋で眠ることにした。
 もしも襲撃されたら困るので、ベッドを窓から離れた位置に移動しておいた。
 
「ふわぁ、よく寝た」

 翌朝、窓からまばゆい朝日が差しこんでいた。
 鳥たちのさえずりが聞こえてくるような爽やかな目覚めだった。

 窓が割られたり、部屋の中が荒らされていたりということはなかった。
  
 寝起きの頭で考えてみたが、クルトは不安にさせようとしたわけではなく、単に気づかいとして教えてくれただけのような気がした。
 戸締まりに気をつけて的な感覚で、夜襲に気をつけてと伝えたのかもしれない。

 むずかしいことはさておき、熟睡できてよかった。

 宿の水瓶がそのままになっていて、わりと水がきれいだったので顔を洗った。
 それから身支度をして、宿屋の玄関付近で三人が起きてくるのを待った。

「おはようございます」
「エルネス、おはようございます」
「何事もなかったみたいですね。おかげさまでゆっくり休めました」

 エルネスは心身ともに充実した状態に見えた。
 そういえば、昨日は少し疲れていたような気がする。

「二人とも、おはよう~」
「おはようございます。やっぱり、人間には八時間睡眠が必要ですね」

 呑気な様子でクリスタが、謎のコメントと共にヘルマンが出てきた。
 俺たちは四人で宿を出た。

 今は戦闘状態というわけではなく、まずはクルトたちに会ってみることにした。
 
「おはようございます」
「おやっ、おはよう。昨日はよく眠れたか」
「はい、宿の近くに見張りをおいてくれたみたいでありがとうございました。おかげで安心して寝れました」
「そうか、それはよかったな。兵士は夜警に慣れているから、そういったことはこちらに任せてほしい。君たちは大事な戦力でもあるが、戦友でもあるから負担を少なくしたいんだ」

 クルトの口から戦友という言葉が出てきて驚いた。
 普通の会話で照れくさいことを言う人だ。

「いやー、おれはあんまり寝てないんで、今から寝かせてください」

 冗談めいたことを言いながら、シモンがやってきた。

「シモンは昨日の晩に襲撃者を退けていたから、睡眠時間は短いはずだ」

 クルトがの説明で、衝撃の事実が発覚した。

「夜襲あったんですね」
「ああっ、数人きただけだから、大したことはなかった」
「もうちょっと工夫してくればいいんですけどね。暗ければバレないだろうっていうのは読みが浅すぎるってもんです」

 シモンは誇るでも謙遜するでもなく、敵を跳ね返すのはごく当たり前のことだと言わんばかりの自然な様子だった。
 戦いへの驕りや恐れが見られないのは羨ましく思えた。

「もう少ししたら、夜警に当たっていた兵士たちの仮眠が終わる。その後に、国境沿いの様子を見に行こうと思う。言うまでもないが、君たちには同行してもらいたい」

 クルトは強制するような言い方はしなかった。
 俺たちはそれに同意して、彼らに同行することになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...