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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

リサとの再会

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 コダンを出てからはひたすら馬を走らせて街道を進んだ。
 それから俺たちはレギナを通り過ぎて、大森林を抜けた。
 
 馬が快調な走りをしてくれたおかげで、短時間でウィリデへ戻ることができた。
 気を抜けないほどスピードが出るので、森で危険に遭うことはなかった。
 
 到着してからは街中を走るわけにもいかず、俺たちは城壁の外で馬を下りた。
 まず最初に馬を返さなければいけない。

 まだ日は高く、街を行き交う人々の姿が目に入る。
 俺たちは馬を引いて歩き、城の近くにある厩舎で馬を収めた。
 
 それから、国王に偵察の結果を報告する必要があった。
 戦いの様子を目の当たりにした以上、リカルドの陳情を証明することもできる。
 
 エルネスはこちらを気遣ってくれたのか、報告には一人で行くから休んでいていいといってくれた。
 しばらく忙しい日が続いていたので、まずは宿舎に戻ることにした。

 城付近から宿舎へ向かって歩いていると、ドワーフのリカルドが歩いていた。

「やあ、リカルド。元気そうですね」
「おおっ、これはカナタ殿。前線の偵察はいかがでしたか?」

 リカルドにはあらかじめ偵察に行くことを伝えてあった。
 だいぶウィリデになじんでいるようなので安心した。

「国境近くでカルマンの兵士と遭遇して、一戦交えてきました」
「それはそれは、よくぞご無事で」

 リカルドは畏まった様子で頭を下げた。

「いえいえ、そんな大したことはしてません。フォンスの人が戦っていたので、それに協力しただけです」
「ふむっ、それは意外ですな」
「そういえば、どうして二人がいたのか聞きそびれました」
「もしかしたら、何らかの情報で危機感を覚えたのかもしれませぬ」

 リカルドは年配の人が見せるような思慮深さを感じさせることがある。
 腕っぷしに自信があるようだが、冷静で頭も切れるような印象だった。
 
「フォンスへの援軍もあるので、今後も何かしらの動きはあると思います」
「左様(さよう)ですか。私に手伝えることがあれば何なりと」
「また続報があれば伝えます」

 俺はリカルドと別れた。
 宿舎で休むつもりだったが、気分転換がしたくなった。
 
 フォンスへの道すがらで立ち寄ったルースの宿に行ってから、こちらの世界のハーブティーが好きになっていた。
 ウィリデにもそういう店があると知ってから、息抜きに行くようになった。

 以前は現金に不自由していたが、今は魔術部隊に採用された給金のおかげでそこまで困るようなことはなくなった。
 ハーブティーはそこまで高価ではないので、値段を気にするほどでもない。

 俺は宿舎を通過して、中心部にあるウィリデ風のカフェに立ち寄った。
 この世界では、カフェでパソコンをかちかちしたり、商談を始めたりするビジネスマンがいないおかげで気楽にすごしやすい。

 せっかくなのでテラス席を選び、いつものハーブティーを注文した。
 
 中心部に近いので、人通りがそれなりにある。
 カルマンの情報は市民の間にも広まっているかもしれないが、そこまで殺伐とした空気を感じたりはしなかった。いつも通りのウィリデの空気が流れている。
  
「いつもありがとうございます。三種の特製薬草茶です」
「うん、ありがとう」

 日本なら西洋風メイドカフェという名のつきそうな店員がお茶を運んでくれた。
 にこやかな笑顔に心が癒やされるような気がした。

 湯気の立ち上るカップにそっと口をつける。
 俺はハーブティーと呼んでいるが、薬草とつくだけあって飲むと疲れが取れるような感覚がする。

 甘みはほとんどないものの、上品で口の中にしみ渡る味わいが癖になる。
 その風味だけでなく、鼻を抜ける香りも心地よい。
 
 これで一杯2ドロンなら、リーズナブルだと思う。
 お茶を味わっていると、ふと近くの席で見慣れた人影が目に入った。

「リサ、今はこっちに来てるんだね」
「あら、カナタ。奇遇ね」
「そっちに移ってもいいかな?」
「ええ、もちろん」

 俺はカップを持ってリサの席に移動した。 
 彼女はレモン色のクリームがかかったケーキを食べていた。

「風のうわさで魔術部隊に入ったと聞いたわ。すごい出世よね」
「そうなのかな。あんまり実感がないから」
「でも、カルマンの件もあるから危険ね」

 リサは心配そうな表情をしていた。
 彼女がそう思ってくれるのは素直に嬉しかった。

「今は情勢が読めないから、何ともいえないかな」
「そう、あまり無理はしないでね」
 
 リサはそういって微笑んだ。
 彼女がエルフというのは関係なくその表情を美しいと思った。

 これが恋なのかはまだ分からないが、彼女に心惹かれることが多くなっている。
 
 意思の強さを感じさせる大きな瞳、透明感のある白い肌。
 外見の美しさ、内面の魅力、どちらも素敵な女性だと感じている。

「私、これを食べ終わったら、まだ一仕事残ってるから」
「そうなんだ、お互いに忙しいね」
「また、前みたいに旅をしたいけど、しばらくはむずかしそうね」

 リサはそういってこちらに笑みを向けた。
 俺も思わず笑顔になっていた。

「それじゃあ、また会いましょう」
「うん、それじゃあまた」

 俺はリサと店の前で別れた。
 宿舎で休むのもいいが、城の近くでエルネスを待つことにした。 
 
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