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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

国境の町メルス その2

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 クルトが次の言葉を待っていると、町長はおもむろに口を開いた。

「やはり、そういった話ですか。私の勘はよく当たるんですよ」
「……信じてもらえますか?」

 町長は、はにかむような表情だったが、クルトの言葉で神妙な顔つきになった。
 彼は町長の言葉を待った。

「それはもちろんです。今すぐ町の皆に声をかけましょう、と言いたいところですが……」
「何か問題でも?」
「騎士様、あなたはずいぶん疲れていますね。その状態では十分な働きもできないというもの。皆には早朝声をかけますから、うちで少し休んでいってください」

 クルトは町長の厚意に胸が温かくなるのを感じた。
 それに加えて、言われた通り疲れがあるのも事実だと考えた。

「わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます」
「そうですか、それはよかった。ところでお一人でここまで?」
「いえ、町の外に仲間を待たせています」
「なるほど、それではその方たちも呼んでください」

 クルトは町の入り口に戻って、シモンたちに声をかけた。
 二人は馬の側で彼を待っているところだった。

「シモン、アデリナ。ここの町長と話ができた」
「それはよかったじゃないですか。それで?」
「早朝に町民たちへ声をかけてくれるみたいだから、それまで休んでいけばいいと言ってくれた」

 クルト、シモン、アデリナの三人は町長の家に移動した。
 それから、早朝まで仮眠を取って身体を休めた。

「おはようございます。少しは休めましたか」
「おかげさまで、だいぶ体力が回復しました」

 町長はクルトと話してから、町民たちに事情を説明するといって外出した。
 そうたくさんの家はないので、そこまで時間はかからないと言い残した。

 クルトたちが町長の家で待っていると、しばらくして町長が戻ってきた。
 町長はクルトの元へ歩み寄って口を開いた。

「皆、フォンスの果てにある町なのに、騎士様が気にかけて下さってありがたいと口々に話していました。なかなかこちらまで来られることもないですからね」
「ほとんど見回りに来れてなかったことは申し訳ありません。遠くにあるというのは理由になりません」

 クルトは町長に謝罪した。
 町長はその言葉を聞いて首を横に振った。

「カルマンが攻めてくるというのは一大事です。レギナの人たちはどうか分かりませんが、ここの者たちはカルマンのことを恐れています。ですから、今回の話も耳に入ってよかったです」
「……そうですか」

 クルトは胸を打たれたことで目頭が熱くなっていた。
 しかし、周りの誰にも涙は見せずに話を続けた。

「メルスの皆さんは準備が整い次第、ルカレア方面に避難してください。そこから、カセル、エスラ、コダンとレギナ方面へ順番に移動して頂けるとよろしいかと思います」
「昔の戦争でもレギナの壁は越えられなかったらしいですから、レギナまで逃げられたら安全ということですね」
「はい、そうです」

 クルトは町長の言葉に頷いた。
 それから、町民の準備ができて避難が始まった。

「騎士様、ありがとうございました。私たちはルカレアを目指します」
「いえ、こちらこそ聞き入れていただいてありがとうございました」
「……これからどうなされるおつもりで?」
「カルマンの近くまで向かって、様子を確認に行きます」
「どうか、お気をつけて」

 クルトは町長たちを見送ると、シモンたちと馬のところへ移動した。
 メルスの入り口前に留められた馬は元気そのものだった。

「これだけ体力があれば、今日一日動けそうです」
「そうか、カルマンに近づくのは危険だが、二人ともよろしく頼む」

 クルトたちは馬に乗って、メルスの町を出発した。
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