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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―
彼女の逆鱗 その2
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翌朝、早い時間にアレスはエスラを出た。
遺体の整理などは町人がするはずだが、その後の支援は国が動く必要があった。
クルトはアレスを見送ってから、出発の準備をした。
少し遅れてシモンやヘレナが起きてくると、彼らはエスラの町を出た。
ここからまた次の町への移動が始まる。
クルトは今後の道のりを考えながら、シモンに声をかけた。
「シモン、僕からは互角に見えたんだが、あの男を倒せそうだったか」
「うーん、どうですかね」
シモンは悩ましげに首を左右に振っている。
そんな彼の様子を見ながら、クルトは答えを待った。
「あの時は空腹でしたからね。お腹が空いてなければ、僅差でおれの勝ちだったと思います」
シモンはにやついた表情で答えた。
クルトは底知れぬやつだと思いながら、適当に頷いてみせた。
「ヘレナ、歩きづめだが、体調は大丈夫か?」
「うん、ぜんぜん平気。森の中では動き回るのが普通なの」
「ふむっ、エルフはそういうものなのか」
クルトはヘレナと話しながら、エルフのことを詳しく知らないことに気づく。
ウィリデは人とエルフが共存しているが、フォンスの方に来るエルフは少ない。
その理由については諸説あるが、エルフの長(おさ)が利己的なフォンスのあり方を好まないことが影響しているという話に、クルトは信憑性を感じていた。
ウィリデはフォンスに比べて都市化は遅れているが、その分だけ穏やかで大らかな人が多いというのが一般的な認識だった。
ヘレナは大森林に住んでおり、クルトから見て穏やかな印象だった。
そこで、彼にひとつの疑問が生じた。
「ヘレナは怒ることがあるのか?」
「えっ、何でそんな質問?」
「いや、深い意味はないんだ。怒ったところを見たことがないと」
クルトはくだらない質問だったかと苦笑いを浮かべた。
ヘレナは気にしないような素振りをしつつ、何かを考えている。
「……最後に怒ったのは、だいぶ前かな」
「すごいな、そんなに怒らないなんて」
「……でも、その時は大変だった」
ヘレナは頭を抱えたまま歩いている。
一体何があったのか、クルトは気になっていた。
「その、どんなことがあったんだ」
「魔術が暴走して、嵐を巻き起こしちゃって……」
クルトはその先を聞きたくないと思いつつ、話を切るのも不自然だと考えた。
仕方がなく先を促した。
「……それで、どうなった?」
「わたしの周りにあった木をなぎ倒して、半径10メートルぐらいを更地にしちゃった、ふふっ」
彼女がなぜ笑ったのか、クルトの思考能力では理解できなかった。
そして、再発防止のために原因を聞き出すことにした。
「そんなに怒るなんて、きっかけは何だったんだ?」
「それなんだけど、わたしが楽しみにしていたウィリデのスイーツを誰かが盗み食いしちゃって……思わず感情のコントロールというか、マナの制御が難しくなったの」
「ほ、ほう……」
食べ物の恨みは恐ろしいというが、そこまでのことが起きるのか。
クルトはそう思いながら、ヘレナの機嫌を損なわないように気をつけなければと肝に銘じた。
遺体の整理などは町人がするはずだが、その後の支援は国が動く必要があった。
クルトはアレスを見送ってから、出発の準備をした。
少し遅れてシモンやヘレナが起きてくると、彼らはエスラの町を出た。
ここからまた次の町への移動が始まる。
クルトは今後の道のりを考えながら、シモンに声をかけた。
「シモン、僕からは互角に見えたんだが、あの男を倒せそうだったか」
「うーん、どうですかね」
シモンは悩ましげに首を左右に振っている。
そんな彼の様子を見ながら、クルトは答えを待った。
「あの時は空腹でしたからね。お腹が空いてなければ、僅差でおれの勝ちだったと思います」
シモンはにやついた表情で答えた。
クルトは底知れぬやつだと思いながら、適当に頷いてみせた。
「ヘレナ、歩きづめだが、体調は大丈夫か?」
「うん、ぜんぜん平気。森の中では動き回るのが普通なの」
「ふむっ、エルフはそういうものなのか」
クルトはヘレナと話しながら、エルフのことを詳しく知らないことに気づく。
ウィリデは人とエルフが共存しているが、フォンスの方に来るエルフは少ない。
その理由については諸説あるが、エルフの長(おさ)が利己的なフォンスのあり方を好まないことが影響しているという話に、クルトは信憑性を感じていた。
ウィリデはフォンスに比べて都市化は遅れているが、その分だけ穏やかで大らかな人が多いというのが一般的な認識だった。
ヘレナは大森林に住んでおり、クルトから見て穏やかな印象だった。
そこで、彼にひとつの疑問が生じた。
「ヘレナは怒ることがあるのか?」
「えっ、何でそんな質問?」
「いや、深い意味はないんだ。怒ったところを見たことがないと」
クルトはくだらない質問だったかと苦笑いを浮かべた。
ヘレナは気にしないような素振りをしつつ、何かを考えている。
「……最後に怒ったのは、だいぶ前かな」
「すごいな、そんなに怒らないなんて」
「……でも、その時は大変だった」
ヘレナは頭を抱えたまま歩いている。
一体何があったのか、クルトは気になっていた。
「その、どんなことがあったんだ」
「魔術が暴走して、嵐を巻き起こしちゃって……」
クルトはその先を聞きたくないと思いつつ、話を切るのも不自然だと考えた。
仕方がなく先を促した。
「……それで、どうなった?」
「わたしの周りにあった木をなぎ倒して、半径10メートルぐらいを更地にしちゃった、ふふっ」
彼女がなぜ笑ったのか、クルトの思考能力では理解できなかった。
そして、再発防止のために原因を聞き出すことにした。
「そんなに怒るなんて、きっかけは何だったんだ?」
「それなんだけど、わたしが楽しみにしていたウィリデのスイーツを誰かが盗み食いしちゃって……思わず感情のコントロールというか、マナの制御が難しくなったの」
「ほ、ほう……」
食べ物の恨みは恐ろしいというが、そこまでのことが起きるのか。
クルトはそう思いながら、ヘレナの機嫌を損なわないように気をつけなければと肝に銘じた。
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