86 / 237
揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―
彼女の逆鱗 その2
しおりを挟む
翌朝、早い時間にアレスはエスラを出た。
遺体の整理などは町人がするはずだが、その後の支援は国が動く必要があった。
クルトはアレスを見送ってから、出発の準備をした。
少し遅れてシモンやヘレナが起きてくると、彼らはエスラの町を出た。
ここからまた次の町への移動が始まる。
クルトは今後の道のりを考えながら、シモンに声をかけた。
「シモン、僕からは互角に見えたんだが、あの男を倒せそうだったか」
「うーん、どうですかね」
シモンは悩ましげに首を左右に振っている。
そんな彼の様子を見ながら、クルトは答えを待った。
「あの時は空腹でしたからね。お腹が空いてなければ、僅差でおれの勝ちだったと思います」
シモンはにやついた表情で答えた。
クルトは底知れぬやつだと思いながら、適当に頷いてみせた。
「ヘレナ、歩きづめだが、体調は大丈夫か?」
「うん、ぜんぜん平気。森の中では動き回るのが普通なの」
「ふむっ、エルフはそういうものなのか」
クルトはヘレナと話しながら、エルフのことを詳しく知らないことに気づく。
ウィリデは人とエルフが共存しているが、フォンスの方に来るエルフは少ない。
その理由については諸説あるが、エルフの長(おさ)が利己的なフォンスのあり方を好まないことが影響しているという話に、クルトは信憑性を感じていた。
ウィリデはフォンスに比べて都市化は遅れているが、その分だけ穏やかで大らかな人が多いというのが一般的な認識だった。
ヘレナは大森林に住んでおり、クルトから見て穏やかな印象だった。
そこで、彼にひとつの疑問が生じた。
「ヘレナは怒ることがあるのか?」
「えっ、何でそんな質問?」
「いや、深い意味はないんだ。怒ったところを見たことがないと」
クルトはくだらない質問だったかと苦笑いを浮かべた。
ヘレナは気にしないような素振りをしつつ、何かを考えている。
「……最後に怒ったのは、だいぶ前かな」
「すごいな、そんなに怒らないなんて」
「……でも、その時は大変だった」
ヘレナは頭を抱えたまま歩いている。
一体何があったのか、クルトは気になっていた。
「その、どんなことがあったんだ」
「魔術が暴走して、嵐を巻き起こしちゃって……」
クルトはその先を聞きたくないと思いつつ、話を切るのも不自然だと考えた。
仕方がなく先を促した。
「……それで、どうなった?」
「わたしの周りにあった木をなぎ倒して、半径10メートルぐらいを更地にしちゃった、ふふっ」
彼女がなぜ笑ったのか、クルトの思考能力では理解できなかった。
そして、再発防止のために原因を聞き出すことにした。
「そんなに怒るなんて、きっかけは何だったんだ?」
「それなんだけど、わたしが楽しみにしていたウィリデのスイーツを誰かが盗み食いしちゃって……思わず感情のコントロールというか、マナの制御が難しくなったの」
「ほ、ほう……」
食べ物の恨みは恐ろしいというが、そこまでのことが起きるのか。
クルトはそう思いながら、ヘレナの機嫌を損なわないように気をつけなければと肝に銘じた。
遺体の整理などは町人がするはずだが、その後の支援は国が動く必要があった。
クルトはアレスを見送ってから、出発の準備をした。
少し遅れてシモンやヘレナが起きてくると、彼らはエスラの町を出た。
ここからまた次の町への移動が始まる。
クルトは今後の道のりを考えながら、シモンに声をかけた。
「シモン、僕からは互角に見えたんだが、あの男を倒せそうだったか」
「うーん、どうですかね」
シモンは悩ましげに首を左右に振っている。
そんな彼の様子を見ながら、クルトは答えを待った。
「あの時は空腹でしたからね。お腹が空いてなければ、僅差でおれの勝ちだったと思います」
シモンはにやついた表情で答えた。
クルトは底知れぬやつだと思いながら、適当に頷いてみせた。
「ヘレナ、歩きづめだが、体調は大丈夫か?」
「うん、ぜんぜん平気。森の中では動き回るのが普通なの」
「ふむっ、エルフはそういうものなのか」
クルトはヘレナと話しながら、エルフのことを詳しく知らないことに気づく。
ウィリデは人とエルフが共存しているが、フォンスの方に来るエルフは少ない。
その理由については諸説あるが、エルフの長(おさ)が利己的なフォンスのあり方を好まないことが影響しているという話に、クルトは信憑性を感じていた。
ウィリデはフォンスに比べて都市化は遅れているが、その分だけ穏やかで大らかな人が多いというのが一般的な認識だった。
ヘレナは大森林に住んでおり、クルトから見て穏やかな印象だった。
そこで、彼にひとつの疑問が生じた。
「ヘレナは怒ることがあるのか?」
「えっ、何でそんな質問?」
「いや、深い意味はないんだ。怒ったところを見たことがないと」
クルトはくだらない質問だったかと苦笑いを浮かべた。
ヘレナは気にしないような素振りをしつつ、何かを考えている。
「……最後に怒ったのは、だいぶ前かな」
「すごいな、そんなに怒らないなんて」
「……でも、その時は大変だった」
ヘレナは頭を抱えたまま歩いている。
一体何があったのか、クルトは気になっていた。
「その、どんなことがあったんだ」
「魔術が暴走して、嵐を巻き起こしちゃって……」
クルトはその先を聞きたくないと思いつつ、話を切るのも不自然だと考えた。
仕方がなく先を促した。
「……それで、どうなった?」
「わたしの周りにあった木をなぎ倒して、半径10メートルぐらいを更地にしちゃった、ふふっ」
彼女がなぜ笑ったのか、クルトの思考能力では理解できなかった。
そして、再発防止のために原因を聞き出すことにした。
「そんなに怒るなんて、きっかけは何だったんだ?」
「それなんだけど、わたしが楽しみにしていたウィリデのスイーツを誰かが盗み食いしちゃって……思わず感情のコントロールというか、マナの制御が難しくなったの」
「ほ、ほう……」
食べ物の恨みは恐ろしいというが、そこまでのことが起きるのか。
クルトはそう思いながら、ヘレナの機嫌を損なわないように気をつけなければと肝に銘じた。
1
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる