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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

野盗を一蹴 その2

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三人はコダンを出てから道なりに進んでいた。
 周囲には水田や畑、草むらが広がる光景が続いている。

 フォンス周辺は平野がほとんどで同じような景色が多い。
 郊外ほど、国が整備した水路を使って農業に従事する者が大半を占める。
  
 地方の農民は水路使用料で苦しい生活を強いられることがあり、一度カルマンが攻めてこようものならば、レギナの者たちよりも先に犠牲になる。
 
 クルトはこのことに不条理を感じていた。
 もっとも、一人の騎士にすぎない身ではどうしようもないことも理解していた。

 彼は英雄である父の影を追い続けた結果、フォンスの全てを救わなければいけないという過剰な使命感を負うことがあった。
 それは現実的ではなく、たびたび彼を苛むばかりだった。

 ただ、彼はシモンほどではないにしろ、剣の腕に優れ、フォンスで与えられた任をこなしてきた経験がある。
 彼の父オルドは勇猛にカルマンと戦った人物であったが、クルトは高潔な精神とそれを行動に移す面において優れた騎士といえる。

 クルトとシモンが会話をして、それに時折ヘレナも加わるという状態で歩いていると道の先に数人の男たちが立っていた。

「おい、そこのお前ら! 金目のものは全部置いていけ」

 全員が粗野な身なりで短めの剣を持っている。
 そのうちの一人が剣先を向けて喚いていた。

「……シモン、ここは僕に任せてくれないか」
 
 クルトは少し前からシモンやヘレナを戦わせすぎないようにと考えていた。
 それが影響して、盗賊らしき男たちを一人で撃退しようとしている。

「――ひと言だけ伝えよう、野盗を見逃すことはできない」
「お前、言葉が通じないのか! 金目の物をだせっていってるんだよ!!」

 男は興奮した様子で剣先を揺らした。
 地面を踏み鳴らして、クルトを威嚇するように睨んだ。

「……そうか、残念だ」

 クルトはそれだけ言うと、素早い動作で携えた剣を抜いた。
 正面に踏み出し、剣を下から振り上げる。

 キィーンと金属音がして、男の剣が勢いよく弾かれた。
 クルトはそのまま流れるような動作で足払いをかける。

 得物を失って呆気に取られていた男は簡単に引っかけられた。
 続けてクルトは男の肩に手を乗せると、相手の気の流れを弱めた。

 うつ伏せになっていた男はすぐに動かなくなった。
 クルトは油断することなく剣を構え、後ろに控えていた男たちに向き直った。

「どうする、全員を同じ目に遭わせることも可能だが」
「お、おい、殺されちまったのか!? まずい、逃げるぞ」

 盗賊と思しき男たちは息を合わせるように走り去っていった。
 クルトはそれを見て剣を鞘に収めた。

「ほう、見事な腕前で」
「茶化すのはやめてくれ、君の方が実力は上だ」
「クルトすごい。魔術が使えるの?」

 ヘレナが感心したようにいった。
 クルトはそれを聞いて少し照れくさく思った。

「魔術とはちょっと違うんだ。生まれつきこういうことが得意で」
「へえ、そうなの。この人、死んでないよね?」
「ああっ、そのうち目を覚ますと思う。見回りの時ならどこかで引き渡すこともできるが、今はそんな時間はない」

 クルトは男が持っていた剣を拾い上げた。
 そして、持ち主の鞘を奪ってそこに収めた。

「一人だけでは大したこともできないだろう。コダンはアーラキメラには抵抗できなかったが、自警団があることで野盗は来なかったみたいだ。この男があの町で悪事を働くことはないはずだ」
「ふーん、わたし初めて盗賊を見たかも」

 ヘレナは興味深そうに倒れた盗賊を眺めていた。
 怖がるような素振りは見られない。

「そうか、大森林に盗賊は少ないだろうからな。野盗や盗賊は存在しない方がいいだろうが、彼らも止むに止まれずというところはあるのかもしれない」
「君主みたいなセリフですね」
「シモン、あまりふざけるなよ」
「いえいえ、心からの言葉ですけども」

 シモンは薄い笑みを浮かべて、本心が読み取れない表情をしていた。
 クルトはそれを放っておいて、男を道の脇に移動させた。

「この先も野盗が出るかもしれない。二人とも気をつけてくれ」
「うん、わかった」
「はいはい、わかりました」

 盗賊を撃退したクルトたちは再び歩き出した。
 次の町まではもう少し距離が残っている。
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