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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

キメラとの遭遇 その2

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 一行はコダンの町の入り口から中へ入ろうとした。

「――おやっ、これはどうしたんだ」
「……何か変ですね」

 三人は違和感を覚えたような様子で立ち止まった。

 日暮れまでずいぶん時間が残っているのに、明るい町の中は人気がなかった。
 天気は良好で上空に雲は少なく、太陽が地面の石畳を照らしていた。 
 
 西洋瓦の三角屋根。クリーム色の外壁。
 枝葉の切り揃えられた家の前に生えた木。

 荒れたような気配はなく、立ち並ぶ家々に人が住んでいる気配がある。
 クルトは奇妙に思いながら周囲に視線を配った。

「……んっ、なんだ」

 彼の視線の先で窓に人影が見えた。
 それは女性だった。

 女性はクルトと目が合うと、彼らの道の先を指さして懸命に口を動かした。
 彼はもどかしさを感じながら解読しようとするが、上手く読み取れなかった。
  
「……クルト、あれ」

 ヘレナが呆然とするような声でいった。
 クルトはその声に反応して、彼女が指し示す方向に目を向けた。

「町の人たちが出てこないのはそういうことか……しかし」

 三人の前方に奇妙な生物が姿を表した。
 クルトはそれを見て絶句している。

「おっ、あれはなんだ!?」

 鷹揚に見せることの多いシモンでさえも目を見張っている。
 一方、ヘレナは険しい表情で鋭い眼差しを向けていた。

「……アーラキメラ、初めて実物を見た。本当にいるなんて」

 成熟したライオンの胴体に猛禽類のような鳥の頭。
 立派なたてがみがなければ、あるいはトラに見えていたかもしれない

 前足と後ろ足には鋭そうな大きな爪が生えている。 
 
 その背には巨大な翼が伸び、空を飛べることを示していた。
 無闇に近づけば無事では済まないであろう気配を漂わせている。

「あ、あそこ、人が足元に……」

 ヘレナが指さすと、クルトとシモンが注目した。
 そこには生死が不明な人の姿があった。逃げ遅れたのか一人だけ倒れている。 

「わたし、助けに行く」
 
 ヘレナはその場を駆け出すと、数十メートル先の怪物の元へ向かった。 
 クルトとシモンは慌ててそれを追った。

 彼女が近づくと、アーラキメラはその気配に反応した。
 人を捕食する本能があるようで、恐れることなく向かってきた。

 クルトとシモンは剣を抜こうとしたが、先んじてヘレナが魔術を発動していた。
 凶暴な怪物に向けて、無数の氷の刃が飛んでいく。

「……あそこに人が倒れているから、威力が上げられないのか」

 クルトはどうにか助けようと考えたが、危険度が判断できない状況では間合いに飛びこめなかった。
 シモンも同じようで守りを固めながらも、飛びこむような素振りは見せていない。
 
「グルァァァーー!!」

 ヘレナの魔術を前に劣勢を感じたのか、アーラキメラは羽をばたつかせた。
 そのまま足元の人を掴んで、空に飛び立っていった。

「――いやー! 誰か助けて!」

 倒れていたのは若そうな女性で死んだふりをしていたようだ。
 爪に掴まれた状態で助けを呼ぶように叫んでいる。

「……ダメだ、逃げるのが早すぎて剣では届かない」
「みんな、行こう。今ならまだ追いつける」

 女性に当たりそうでヘレナも打つ手がなくなっていたが、彼女はさらわれた女性を助けに行こうと呼びかけた。

「ヘレナすまない。たしかにその通りだ、行こう」

 三人はその場を離れて、逃げていったアーラキメラを追いかけた。
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