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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
野営の夜明け その2
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俺はリサと会話をしながら、湧き水に手を入れた。
とても冷たくて心地よい感触だった。
「この近くに危険はなさそうだから、ゆっくり洗えばいいと思うわ。 心配なら見張っていてもいいけど、どうする?」
「それなら戻ってくれていいよ。僕も身体を拭くだけにするからそんなにかからないと思うし。エルネスには一応話しておいて」
「わかった。それじゃあ先に戻るわ」
リサはその場を離れると、俺が来たのと同じ方向に歩いていった。
森に慣れているだけあって淀みのない足取りだった。
「……さて、さっぱりするとしますかね」
ここの湧き水は泉というより、何段か重なった岩の間から水が細く流れ落ちてくるようなかたちだった。流れ落ちた先は深い水たまりのようになっている。
水たまりの部分は深さが数十センチはあるので、膝ぐらいまでなら浸かれないこともないと思う。
ただ、少し触った感じではけっこう冷えた水なので、身体の一部分が浸るだけでも温度が下がりそうな気がした。それにはちょっと勇気が必要だ。
ナイロンジャケットを脱いで、順番に服を脱ぎ揃えていった。
水たまりのすぐ近くは湿っぽいので、少し離れた岩の上に置くことにした。
ズボンは履いたまま、上半身は裸という身なりになった。
タオルに軽く水を含ませて身体にそっと押し当てた。
冷えた水が朝の涼しい空気と相まって引き締まるような感覚だった。
汗や汚れが落とせるおかげで、拭いたところはさっぱりした。
シャンプーや石けんは持参しておらず、それだけで終わることにした。
ついでに髪を洗いたいところだが、ドライヤーや余分なタオルがあるわけでもないのであきらめて戻るとしよう。この状況で不便を嘆いても仕方ない。
脱いだ服を順番に身につけて来た道を引き返していく。
いくらかさっぱりしたおかげで、身体を撫でる風が心地よかった。
テントの場所に戻るとエルネスがテントを片付け終えたところだった。
張られていた場所は何もないスペースになっている。
俺は足元にあった自分のバックパックにタオルをしまった。
エルネスがテントをしまう時に脱出させてくれたのだろう。
「ありがとう、エルネス。ずいぶん手際がいいね」
「いえいえ、どういたしまして。身体が洗えてさっぱりできたみたいですね」
「――カナタ、ちょっとこっちに来て」
エルネスに感心しているとリサの呼ぶ声が聞こえた。
「えっ、何? 今行く」
彼女の声に応じてその場を離れた。
リサは火の小さくなった焚き火の近くに座っていた。
手には黄緑色のみずみずしい果物を持っている。
彼女の横に腰かけてその果物を観察してみた。
パッと見た感じでは小さなラ・フランスという印象を受ける。
「近くで取ったの。よかったら食べる?」
彼女は小ぶりなナイフを使って丁寧に果皮を剥き、半分にカットしたものをこちらに手渡してくれた。
中身は白い果実で、リンゴや梨と同じような見た目をしている。
指先でつかんだ感じではべたつく感じはなく、普通の果物と同じように見えた。
喉も少し乾いていたので、そのまま口の中へ放りこんだ。
適度な甘みがあり、酸味はほどよく抑えられていて、水分をたくさん含んでジューシーな食感はまずまずだと感じた。近い種類は思いつかないが、海外へ行けばこんな感じの食べたことがないフルーツはいくらでもあるだろう。
「……あれっ?」
――まさか、そんなはずはないか。
わずかな瞬間、実はここが地球のどこかの国ではないかと疑問が生じたが、最初に魔術が存在していたら大ニュース間違いなしで、エルフの存在が知られたらセンセーショナルに報じられるだろう。
――いや、どう考えてもそんなことはありえない。
些末なことだとその考えを忘れることにした。
「……どうしたの、もしかして、口に合わなかった?」
「いや、何でもない。食べやすかったよ、ありがとう」
「そう、よかった。片付けが済んでるし、もう少ししたら出発しましょう」
彼女はそういってその場を離れた。
俺はそのまま焚き火の近くに腰かけていた。
さほど空腹を感じていないので、朝食は口にしたばかりの果物で十分だと思う。
手持無沙汰にしていると、エルネスが近くやってきた。
「火の後始末をしたいので、手伝ってもらえますか?」
「ああっ、いいですよ。水でもかけるんですか?」
「はい、今回も魔術の練習を兼ねて、水の魔術でお願いします」
エルネスはそういって風前の灯状態の焚き火を指した。
――全身を流れるマナに意識を向ける。
最近、あまり魔術を使っていなかったが、すぐに発動の準備は整った。
右手をかかげてその先に水塊を放出する。
続け様に10センチほどの液体が浮かび上がって、飛んでいった。
それが燃えた木々に接触すると、火がどんどん消えていく。
「それで十分でしょう。あとは僕が埋めておきます。森が火事になったら大変でしょうからね」
エルネスはにこやかに言って、その辺に転がった大きめの棒を拾った。
俺は手伝いが済んだので、出発の支度をすることにした。
支度といっても荷物は一つだが、すぐに出られるようにしておきたかった。
それから、エルネスとリサの準備が整って、野営した場所を出発した。
引き続き今日もひたすら歩く一日が始める。
とても冷たくて心地よい感触だった。
「この近くに危険はなさそうだから、ゆっくり洗えばいいと思うわ。 心配なら見張っていてもいいけど、どうする?」
「それなら戻ってくれていいよ。僕も身体を拭くだけにするからそんなにかからないと思うし。エルネスには一応話しておいて」
「わかった。それじゃあ先に戻るわ」
リサはその場を離れると、俺が来たのと同じ方向に歩いていった。
森に慣れているだけあって淀みのない足取りだった。
「……さて、さっぱりするとしますかね」
ここの湧き水は泉というより、何段か重なった岩の間から水が細く流れ落ちてくるようなかたちだった。流れ落ちた先は深い水たまりのようになっている。
水たまりの部分は深さが数十センチはあるので、膝ぐらいまでなら浸かれないこともないと思う。
ただ、少し触った感じではけっこう冷えた水なので、身体の一部分が浸るだけでも温度が下がりそうな気がした。それにはちょっと勇気が必要だ。
ナイロンジャケットを脱いで、順番に服を脱ぎ揃えていった。
水たまりのすぐ近くは湿っぽいので、少し離れた岩の上に置くことにした。
ズボンは履いたまま、上半身は裸という身なりになった。
タオルに軽く水を含ませて身体にそっと押し当てた。
冷えた水が朝の涼しい空気と相まって引き締まるような感覚だった。
汗や汚れが落とせるおかげで、拭いたところはさっぱりした。
シャンプーや石けんは持参しておらず、それだけで終わることにした。
ついでに髪を洗いたいところだが、ドライヤーや余分なタオルがあるわけでもないのであきらめて戻るとしよう。この状況で不便を嘆いても仕方ない。
脱いだ服を順番に身につけて来た道を引き返していく。
いくらかさっぱりしたおかげで、身体を撫でる風が心地よかった。
テントの場所に戻るとエルネスがテントを片付け終えたところだった。
張られていた場所は何もないスペースになっている。
俺は足元にあった自分のバックパックにタオルをしまった。
エルネスがテントをしまう時に脱出させてくれたのだろう。
「ありがとう、エルネス。ずいぶん手際がいいね」
「いえいえ、どういたしまして。身体が洗えてさっぱりできたみたいですね」
「――カナタ、ちょっとこっちに来て」
エルネスに感心しているとリサの呼ぶ声が聞こえた。
「えっ、何? 今行く」
彼女の声に応じてその場を離れた。
リサは火の小さくなった焚き火の近くに座っていた。
手には黄緑色のみずみずしい果物を持っている。
彼女の横に腰かけてその果物を観察してみた。
パッと見た感じでは小さなラ・フランスという印象を受ける。
「近くで取ったの。よかったら食べる?」
彼女は小ぶりなナイフを使って丁寧に果皮を剥き、半分にカットしたものをこちらに手渡してくれた。
中身は白い果実で、リンゴや梨と同じような見た目をしている。
指先でつかんだ感じではべたつく感じはなく、普通の果物と同じように見えた。
喉も少し乾いていたので、そのまま口の中へ放りこんだ。
適度な甘みがあり、酸味はほどよく抑えられていて、水分をたくさん含んでジューシーな食感はまずまずだと感じた。近い種類は思いつかないが、海外へ行けばこんな感じの食べたことがないフルーツはいくらでもあるだろう。
「……あれっ?」
――まさか、そんなはずはないか。
わずかな瞬間、実はここが地球のどこかの国ではないかと疑問が生じたが、最初に魔術が存在していたら大ニュース間違いなしで、エルフの存在が知られたらセンセーショナルに報じられるだろう。
――いや、どう考えてもそんなことはありえない。
些末なことだとその考えを忘れることにした。
「……どうしたの、もしかして、口に合わなかった?」
「いや、何でもない。食べやすかったよ、ありがとう」
「そう、よかった。片付けが済んでるし、もう少ししたら出発しましょう」
彼女はそういってその場を離れた。
俺はそのまま焚き火の近くに腰かけていた。
さほど空腹を感じていないので、朝食は口にしたばかりの果物で十分だと思う。
手持無沙汰にしていると、エルネスが近くやってきた。
「火の後始末をしたいので、手伝ってもらえますか?」
「ああっ、いいですよ。水でもかけるんですか?」
「はい、今回も魔術の練習を兼ねて、水の魔術でお願いします」
エルネスはそういって風前の灯状態の焚き火を指した。
――全身を流れるマナに意識を向ける。
最近、あまり魔術を使っていなかったが、すぐに発動の準備は整った。
右手をかかげてその先に水塊を放出する。
続け様に10センチほどの液体が浮かび上がって、飛んでいった。
それが燃えた木々に接触すると、火がどんどん消えていく。
「それで十分でしょう。あとは僕が埋めておきます。森が火事になったら大変でしょうからね」
エルネスはにこやかに言って、その辺に転がった大きめの棒を拾った。
俺は手伝いが済んだので、出発の支度をすることにした。
支度といっても荷物は一つだが、すぐに出られるようにしておきたかった。
それから、エルネスとリサの準備が整って、野営した場所を出発した。
引き続き今日もひたすら歩く一日が始める。
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