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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
野営の夜明け その1
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エルネスと二人で見た星空は記憶に残るような美しさだった。
それから俺たちは必要以上に話すことはなかったが、二人で森の夜更けを共有しているような感覚があった。人とエルフということは関係なく、彼は自分自身にとって友人のような存在なのだと改めて実感した。
俺たちがひっそりと見張りを続けているうちにリサが起きてきた。
腕時計を確認するとずいぶん時間が経っていた。
「ふわぁっ、よく寝た。どう異常なし?」
「ええ、今のところ問題ありません」
「エルネスも少しは休んだ方がいいわよ」
リサはそう話しながら、焚き火に枝切れを追加した。
まだ眠気が覚めていないようで、いつもよりも緩慢な動作に見えた。
「それではそうさせてもらいましょう」
「カナタも寝てていいわよ。今から夜明けまでなら大した時間じゃないから」
エルネスがこの場を離れると、リサが同じところに座った。
「そこまで眠たくないから、もう少しここにいるよ」
「まあ、あまり無理しないことね。明日がきつくなるわよ」
彼女は焚き火の向こうを見つめながらいった。
大森林に入ってから今に至るまで、疲れが溜まっていないといえば嘘になるが、できる限り彼らの役に立ちたいと思っていた。少なくとも、今できるのは一人ではなく二人で見張りをすることだと考えた。
夜更けということもあり、いつもは快活なリサも落ち着いている気がした。
焚き火の中で木の枝がパチリと爆ぜる音が散発的に耳に入る。
「私に気を遣ってるなら大丈夫よ。危険な獣が近づいてこればすぐに分かるし、エルネスよりも森に慣れてるから心配いらないわ」
リサが思いついたように口を開いた。
彼女の声は自信を感じさせるものだった。
それが強がりではないということをこれまでの様子が物語っていた。
この森で生活していたのなら必要な対処がとれるのは自然なことで、危険が隣り合わせならばそれだけ重要性が高まる。日本とはかけ離れた環境では注意すべき対象が違って当然だ。
リサは同い年というだけで別世界の住人ということに実感が湧いた。
十分な休息を取っていないせいか頭の動きが鈍くなってきたので、彼女の言葉に甘えてテントで休むことにした。足を引っ張るのは一番すべきでないことだろう。
「リサ、ありがとう。テントで眠らせてもらうよ」
「……そう、夜が明けたら適当に出発するわ。それまでしっかり休んでいて」
リサはそう言い終えると、眠たそうにあくびをした。
焚き火の前を離れて、テントの前に移動した。
入り口を開いて入るとエルネスが隅の方で横になっていた。
平均的な体型の自分よりも少し小柄な体つきなのに規格外の力を発揮するのだから、先天的なものが人とエルフで違うのだろうか。リサも力がありそうなので共通するような背景があるのかもしれない。
俺はエルネスとは反対側に横になった。
さっきは外にいても焚き火が近くにあったので暖をとれたが、テントの中は少し冷えるのでブランケットを身体にかけて眠ることにした。
我慢していたというほどではないが、こうして横になると眠気が高まっていたのを実感してしまう。リサの厚意に感謝しなければ。
正確な時間は分からないものの、今からなら何時間か眠れるはずだ。
マナクイバナの件が記憶から消し去れないままではあるが、外にリサがいるので安心できる気がした。万が一同じようなことがあっても、また灰にしてくれることを願う。
取りとめもないことを考えるうちに意識がうつらうつらとしてきた。
今日一日は長距離ハイキングみたいなものだったが、おそらく翌朝からも同じようなことが続くのだろう。
体力的にシビアな部分があっても、彼らと歩く道中は充実している。
エルネスの控えめな寝息を耳にしながら眠りについた。
翌朝、目が覚めるとテントの中には自分だけだった。
すでに外は明るくなっていて、吊り下がったランタンからは灯が消えている。
身体にかけていたブランケットを畳み、寝癖を手で直して外に出た。
森の夜が明けて、木々の間にまばゆい朝の光が輝いていた。
その役割が終わりに近づいているのか、焚き火の炎は小さくなっている。
エルネスが座っていたので声をかけた。
「おはようございます。しっかり寝かせてもらいました」
「カナタさん、おはようございます。休めたのならよかったです」
そういってエルネスはさわやかに微笑んだ。
ここまでの疲れを感じさせない表情だった。
「……えーと、リサは?」
「この近くに湧き水があるそうで、今はそちらの方へ」
エルネスはテントの向こう側を指さした。
森に慣れていない俺の目では、木々が続いていることしか分からなかった。
「よかったらカナタさんも行ってきてください。軽く汗を流すぐらいはできますから。僕は先に行ってきたので」
「おおっ、ほんとですか? ちょっと行ってみます」
俺はテントに入れた荷物から一枚タオルを取り出した。
彼が示していた方向へ周囲に注意を向けながら歩いていく。
夜中に何も起きなかったこともあって、目立った危険はなさそうだった。
距離にして数十メートル進んだところで、近くに水音がした。
それを頼りにしてさらに足を運ぶと、リサの姿が目に入った。
彼女は流れてくる水がたまるところで、顔を洗っているところだった。
「おはよう、リサ」
「えっ、カナタ!?」
リサは驚いたように振り向いていった。
「エルネスからこっちに湧き水があるって聞いて」
「あっ、そうなんだ。旅の途中だからって不衛生なのはイヤなのよね」
ふと、彼女が女性らしい発言をすることは少なかったことに気づく。
リサは髪の毛が長めなので、洗えないとストレスを感じやすいはずだ。
「それにしても大変だよね。ここじゃあ、身体を洗うのはむずかしそうだ」
「……そのままだと気持ち悪いから、朝一番にきて身体を拭いたわ。カナタもそうしたら? 覗き見なんてしないから安心して」
リサは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
こちらをからかう時は似たような表情になる。
「……きれいな水だけど、ここで裸になる勇気はないかな」
「あっ、私は裸になんてなってないから、念のため」
彼女はこちらを制するような言い方をした。
さすがに本人の前でそんな想像をするはずがない。
「ははっ、そういう意味でいったわけじゃないよ。ただ、一人で裸は危なそうだ」
「滅多に人が通りはしないけど、無防備といえば無防備よね」
リサはうんうんと頷きながら手にした布で顔を拭いた。
それから俺たちは必要以上に話すことはなかったが、二人で森の夜更けを共有しているような感覚があった。人とエルフということは関係なく、彼は自分自身にとって友人のような存在なのだと改めて実感した。
俺たちがひっそりと見張りを続けているうちにリサが起きてきた。
腕時計を確認するとずいぶん時間が経っていた。
「ふわぁっ、よく寝た。どう異常なし?」
「ええ、今のところ問題ありません」
「エルネスも少しは休んだ方がいいわよ」
リサはそう話しながら、焚き火に枝切れを追加した。
まだ眠気が覚めていないようで、いつもよりも緩慢な動作に見えた。
「それではそうさせてもらいましょう」
「カナタも寝てていいわよ。今から夜明けまでなら大した時間じゃないから」
エルネスがこの場を離れると、リサが同じところに座った。
「そこまで眠たくないから、もう少しここにいるよ」
「まあ、あまり無理しないことね。明日がきつくなるわよ」
彼女は焚き火の向こうを見つめながらいった。
大森林に入ってから今に至るまで、疲れが溜まっていないといえば嘘になるが、できる限り彼らの役に立ちたいと思っていた。少なくとも、今できるのは一人ではなく二人で見張りをすることだと考えた。
夜更けということもあり、いつもは快活なリサも落ち着いている気がした。
焚き火の中で木の枝がパチリと爆ぜる音が散発的に耳に入る。
「私に気を遣ってるなら大丈夫よ。危険な獣が近づいてこればすぐに分かるし、エルネスよりも森に慣れてるから心配いらないわ」
リサが思いついたように口を開いた。
彼女の声は自信を感じさせるものだった。
それが強がりではないということをこれまでの様子が物語っていた。
この森で生活していたのなら必要な対処がとれるのは自然なことで、危険が隣り合わせならばそれだけ重要性が高まる。日本とはかけ離れた環境では注意すべき対象が違って当然だ。
リサは同い年というだけで別世界の住人ということに実感が湧いた。
十分な休息を取っていないせいか頭の動きが鈍くなってきたので、彼女の言葉に甘えてテントで休むことにした。足を引っ張るのは一番すべきでないことだろう。
「リサ、ありがとう。テントで眠らせてもらうよ」
「……そう、夜が明けたら適当に出発するわ。それまでしっかり休んでいて」
リサはそう言い終えると、眠たそうにあくびをした。
焚き火の前を離れて、テントの前に移動した。
入り口を開いて入るとエルネスが隅の方で横になっていた。
平均的な体型の自分よりも少し小柄な体つきなのに規格外の力を発揮するのだから、先天的なものが人とエルフで違うのだろうか。リサも力がありそうなので共通するような背景があるのかもしれない。
俺はエルネスとは反対側に横になった。
さっきは外にいても焚き火が近くにあったので暖をとれたが、テントの中は少し冷えるのでブランケットを身体にかけて眠ることにした。
我慢していたというほどではないが、こうして横になると眠気が高まっていたのを実感してしまう。リサの厚意に感謝しなければ。
正確な時間は分からないものの、今からなら何時間か眠れるはずだ。
マナクイバナの件が記憶から消し去れないままではあるが、外にリサがいるので安心できる気がした。万が一同じようなことがあっても、また灰にしてくれることを願う。
取りとめもないことを考えるうちに意識がうつらうつらとしてきた。
今日一日は長距離ハイキングみたいなものだったが、おそらく翌朝からも同じようなことが続くのだろう。
体力的にシビアな部分があっても、彼らと歩く道中は充実している。
エルネスの控えめな寝息を耳にしながら眠りについた。
翌朝、目が覚めるとテントの中には自分だけだった。
すでに外は明るくなっていて、吊り下がったランタンからは灯が消えている。
身体にかけていたブランケットを畳み、寝癖を手で直して外に出た。
森の夜が明けて、木々の間にまばゆい朝の光が輝いていた。
その役割が終わりに近づいているのか、焚き火の炎は小さくなっている。
エルネスが座っていたので声をかけた。
「おはようございます。しっかり寝かせてもらいました」
「カナタさん、おはようございます。休めたのならよかったです」
そういってエルネスはさわやかに微笑んだ。
ここまでの疲れを感じさせない表情だった。
「……えーと、リサは?」
「この近くに湧き水があるそうで、今はそちらの方へ」
エルネスはテントの向こう側を指さした。
森に慣れていない俺の目では、木々が続いていることしか分からなかった。
「よかったらカナタさんも行ってきてください。軽く汗を流すぐらいはできますから。僕は先に行ってきたので」
「おおっ、ほんとですか? ちょっと行ってみます」
俺はテントに入れた荷物から一枚タオルを取り出した。
彼が示していた方向へ周囲に注意を向けながら歩いていく。
夜中に何も起きなかったこともあって、目立った危険はなさそうだった。
距離にして数十メートル進んだところで、近くに水音がした。
それを頼りにしてさらに足を運ぶと、リサの姿が目に入った。
彼女は流れてくる水がたまるところで、顔を洗っているところだった。
「おはよう、リサ」
「えっ、カナタ!?」
リサは驚いたように振り向いていった。
「エルネスからこっちに湧き水があるって聞いて」
「あっ、そうなんだ。旅の途中だからって不衛生なのはイヤなのよね」
ふと、彼女が女性らしい発言をすることは少なかったことに気づく。
リサは髪の毛が長めなので、洗えないとストレスを感じやすいはずだ。
「それにしても大変だよね。ここじゃあ、身体を洗うのはむずかしそうだ」
「……そのままだと気持ち悪いから、朝一番にきて身体を拭いたわ。カナタもそうしたら? 覗き見なんてしないから安心して」
リサは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
こちらをからかう時は似たような表情になる。
「……きれいな水だけど、ここで裸になる勇気はないかな」
「あっ、私は裸になんてなってないから、念のため」
彼女はこちらを制するような言い方をした。
さすがに本人の前でそんな想像をするはずがない。
「ははっ、そういう意味でいったわけじゃないよ。ただ、一人で裸は危なそうだ」
「滅多に人が通りはしないけど、無防備といえば無防備よね」
リサはうんうんと頷きながら手にした布で顔を拭いた。
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