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ダークエルフの帰還
調理場を使う
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声をかけた相手は引き締まった体躯の青年で、ダイモン隊長の部下のように見えた。
包丁や鍋の扱いよりも剣の扱いの方が得意そうな外見である。
「すみません。調理場を借りたいんですけど」
「それなら隊長から聞いてます。どうぞ好きに使ってください」
「ありがとうございます」
彼は手短に答えて立ち去った。
先ほどまでの慌ただしさは落ちついているが、まだ片づけが残っているようだ。
全体の様子を眺めていると、俺の質問に応じてくれた青年が洗い終わった調理器具をしまっているのが見える。
やがて人の気配がまばらになり、動線が重ならないことを確認したところで、空いた調理台に食材の入った袋を乗せた。
当初は付け合わせ程度に野菜を調理することを考えていたが、先に運ばれた料理にたっぷりあった。
そのため、俺が作る料理はがっつり肉という感じで問題ないと判断した。
調理の様子を見ていたので、どの道具がどこにあるかはだいたい記憶している。
俺は包丁やまな板などの必要ものを集めて調理台に乗せた。
ダイモンの協力がなければ部外者として追い出されたはずだが、残っている人たちも我関せずといった様子なおかげでやりやすい。
食材を仕入れてからここに至るまで、手に入ったブリスケでステーキを作るべきか考えていた。
しかし、ヒイラギの面々は和風国家であるサクラギから赴任しているため、ここにはナイフとフォークが見当たらない。
塊肉をドンと焼いて出したところで、嚙みきれない上に食べにくい。
「……やっぱり、Bプランにしておこうか」
鉄板や鉄網、それに焼き台がないため焼肉をしてもらうことはできない。
しかし、刻んだ肉をフライパンで炒めて、タレを添えれば完成度を近づけることは可能である。
それにブリスケは脂が多いので、適度にカットして火を通しても美味しく食べられる。
俺は塊に近い状態のブリスケをまな板に置いて、身体になじんだ動きでカットを始める。
刃が通りにくいような部位ならばともかく、ブリスケは普段使うような肉と大差ない柔らかさだった。
難しく考えるまでもなく、自分が必要とする大きさで枚数が揃っていった。
「――よし、こんなところだ」
スムーズにカットが完了して、ほどよい満足感を覚えた。
すでに味噌のような調味料は確認してあるし、それ以外にも使えそうなものは数種類あった。
そして、最初に調理場へ来た時、俺の目が間違いでなければ最も使いたい調味料を見かけた。
一旦、調理台から離れて調味料の確認へと向かう。
調味料は棚に整理されているため、簡単に見つけることができた。
ここで料理をする人たちは几帳面な性格が多いのかもしれない。
以前、サクラギでしょうゆが使われていることを確認しており、自分の店でも取り入れて久しい。
この調理場でも同じような容器で保存しており、ふたを開けたところでそれがしょうゆであると確信した。
容器から必要な分だけ取り出して、タレを作る容器に注ぐ。
ついでに甘みの調整に使う砂糖を追加して、空いた手でニンニクを掴んで調理台へと引き返した。
実際に使う前に味を確かめてみると、黒い液体は風味のいいしょうゆだった。
「うんうん、この味。これなら使える」
タレの完成形が予想できたところで、肝心のブリスケを焼くことにする。
きれいな状態のフライパンを手に取り、かまどへと向かう。
「火の始末はこちらでやっておくので、そのままでいいですよ」
「了解っす。灰は後で片づけるんで、火を消したらそのままで」
ちょうど調理担当の人がかまどの火を消すところだった。
俺の申し出に快く応じてくれたので、フライパンを火の上に置く。
調理が済んでから時間が経っているため、そこまでの火力はない。
むしろこれは、手間が省けると思った。
なぜならば、強すぎる火ではブリスケに火が通るのが早すぎる。
鮮度のいい牛肉であれば固くなるほど火を通さなくても十分に食べられる。
それに脂の旨みや食感を味わうためにも、ミディアムないしミディアムレアぐらいの火加減が適しているのだ。
フライパンを置いたまま、かまどの様子を確認して上に油を薄く引いた。
そこで調理台のところから切り分けたブリスケを運んでくる。
あらかじめ予想できていたことだが、二十人前となると一気に焼くことは難しい。
もしもの時はリリアやクリストフ、あるいはダイモンの手を借りようと思っていた。
「まあダメでもともと……彼らに頼んでみるか」
ダイモンが普段は兵士だという人たち。
彼らの中に手持ち無沙汰にしている人はおらず、それぞれ何かしらの作業をしているところだった。
その中で区切りがついたと思われる人に声をかける。
「すみません、ちょっといいですか?」
「……はい、何っすか」
俺がたずねてくることを予期しなかったのか、相手は少し驚いた様子だった。
すぐに立ち去ろうとするわけではないので、こちらの話を聞いてくれそうだ。
「配膳の人手が足りないので、手を貸してもらえたら助かるんですけど……」
モモカに出す料理とはいえ、見ず知らずの人に頼むのは気が引ける。
「はいはい、そうっすか。隊長から邪魔するなとだけ言われたもんで」
「じゃあ、お願いできますか?」
「もちろんです! 何でもおっしゃってくださいっす」
「ありがとうございます!」
たずねた相手が笑みを浮かべたことで安心感を抱いた。
配膳さえどうにかなれば、手順に問題はないだろう。
包丁や鍋の扱いよりも剣の扱いの方が得意そうな外見である。
「すみません。調理場を借りたいんですけど」
「それなら隊長から聞いてます。どうぞ好きに使ってください」
「ありがとうございます」
彼は手短に答えて立ち去った。
先ほどまでの慌ただしさは落ちついているが、まだ片づけが残っているようだ。
全体の様子を眺めていると、俺の質問に応じてくれた青年が洗い終わった調理器具をしまっているのが見える。
やがて人の気配がまばらになり、動線が重ならないことを確認したところで、空いた調理台に食材の入った袋を乗せた。
当初は付け合わせ程度に野菜を調理することを考えていたが、先に運ばれた料理にたっぷりあった。
そのため、俺が作る料理はがっつり肉という感じで問題ないと判断した。
調理の様子を見ていたので、どの道具がどこにあるかはだいたい記憶している。
俺は包丁やまな板などの必要ものを集めて調理台に乗せた。
ダイモンの協力がなければ部外者として追い出されたはずだが、残っている人たちも我関せずといった様子なおかげでやりやすい。
食材を仕入れてからここに至るまで、手に入ったブリスケでステーキを作るべきか考えていた。
しかし、ヒイラギの面々は和風国家であるサクラギから赴任しているため、ここにはナイフとフォークが見当たらない。
塊肉をドンと焼いて出したところで、嚙みきれない上に食べにくい。
「……やっぱり、Bプランにしておこうか」
鉄板や鉄網、それに焼き台がないため焼肉をしてもらうことはできない。
しかし、刻んだ肉をフライパンで炒めて、タレを添えれば完成度を近づけることは可能である。
それにブリスケは脂が多いので、適度にカットして火を通しても美味しく食べられる。
俺は塊に近い状態のブリスケをまな板に置いて、身体になじんだ動きでカットを始める。
刃が通りにくいような部位ならばともかく、ブリスケは普段使うような肉と大差ない柔らかさだった。
難しく考えるまでもなく、自分が必要とする大きさで枚数が揃っていった。
「――よし、こんなところだ」
スムーズにカットが完了して、ほどよい満足感を覚えた。
すでに味噌のような調味料は確認してあるし、それ以外にも使えそうなものは数種類あった。
そして、最初に調理場へ来た時、俺の目が間違いでなければ最も使いたい調味料を見かけた。
一旦、調理台から離れて調味料の確認へと向かう。
調味料は棚に整理されているため、簡単に見つけることができた。
ここで料理をする人たちは几帳面な性格が多いのかもしれない。
以前、サクラギでしょうゆが使われていることを確認しており、自分の店でも取り入れて久しい。
この調理場でも同じような容器で保存しており、ふたを開けたところでそれがしょうゆであると確信した。
容器から必要な分だけ取り出して、タレを作る容器に注ぐ。
ついでに甘みの調整に使う砂糖を追加して、空いた手でニンニクを掴んで調理台へと引き返した。
実際に使う前に味を確かめてみると、黒い液体は風味のいいしょうゆだった。
「うんうん、この味。これなら使える」
タレの完成形が予想できたところで、肝心のブリスケを焼くことにする。
きれいな状態のフライパンを手に取り、かまどへと向かう。
「火の始末はこちらでやっておくので、そのままでいいですよ」
「了解っす。灰は後で片づけるんで、火を消したらそのままで」
ちょうど調理担当の人がかまどの火を消すところだった。
俺の申し出に快く応じてくれたので、フライパンを火の上に置く。
調理が済んでから時間が経っているため、そこまでの火力はない。
むしろこれは、手間が省けると思った。
なぜならば、強すぎる火ではブリスケに火が通るのが早すぎる。
鮮度のいい牛肉であれば固くなるほど火を通さなくても十分に食べられる。
それに脂の旨みや食感を味わうためにも、ミディアムないしミディアムレアぐらいの火加減が適しているのだ。
フライパンを置いたまま、かまどの様子を確認して上に油を薄く引いた。
そこで調理台のところから切り分けたブリスケを運んでくる。
あらかじめ予想できていたことだが、二十人前となると一気に焼くことは難しい。
もしもの時はリリアやクリストフ、あるいはダイモンの手を借りようと思っていた。
「まあダメでもともと……彼らに頼んでみるか」
ダイモンが普段は兵士だという人たち。
彼らの中に手持ち無沙汰にしている人はおらず、それぞれ何かしらの作業をしているところだった。
その中で区切りがついたと思われる人に声をかける。
「すみません、ちょっといいですか?」
「……はい、何っすか」
俺がたずねてくることを予期しなかったのか、相手は少し驚いた様子だった。
すぐに立ち去ろうとするわけではないので、こちらの話を聞いてくれそうだ。
「配膳の人手が足りないので、手を貸してもらえたら助かるんですけど……」
モモカに出す料理とはいえ、見ず知らずの人に頼むのは気が引ける。
「はいはい、そうっすか。隊長から邪魔するなとだけ言われたもんで」
「じゃあ、お願いできますか?」
「もちろんです! 何でもおっしゃってくださいっす」
「ありがとうございます!」
たずねた相手が笑みを浮かべたことで安心感を抱いた。
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